俺の犬になれ3
そんな私にすぐに気付いたアキラは、
サラサラの前髪を揺らして切れ長の目をこちらに向けた。
視線がぶつかった瞬間、心がザワつく。
いつもそう。
きっとそれは、この男が大っ嫌いだから。
アキラは白シャツに黒のパンツで、
シャツのポケットには超一流ブランドの名がさりげなく刺繍されているような、品があってとてもシンプルな服を着ていた。
育ちの違いなんだろう。
口はめちゃくちゃ悪いけど、こんなシンプルなデザインを空気のようにまとって、異様な程に品を
きっと、普通の人が着たら似合わなかったり、無理矢理感が出て服だけ浮くんだろうけど。
品だけじゃなく、端正過ぎる顔面のせいもあるかもしれない。
高い鼻、綺麗な切れ長の二重、肌だって綺麗だし、180cmは絶対ありそうな程の長身に、スタイルだって良い。
でも、これだけは断言させてほしい!
皆が声を揃えて言う、イケメン過ぎるのに帰国子女で首席入学だとか、スポーツ万能なスーパー御曹司だとか……
私はそんなの、どうでもいい!
イケメンだろうが、御曹司だろうがどんなにハイスペック男子でも、私は幼稚舎の時からずーーーーっと、アキラが世界一嫌いな事には一生変わりはない!!
「なんの用?」
あんな写真を送っておいて、涼しい顔でそんな馬鹿みたいな質問をしてくるから、恐れが引いて一瞬で怒りに火が付いた。
「なんの用?じゃないわよ!!なんなの!あの写真!!」
上層階の廊下で、私が鼓膜が破れるほどの大声で
「おい。今、何時だと思ってんだよ」
呆れて頭を
アキラは、何か勘違いでもしてんじゃない!?
私は、あんたの家でゆっくりお茶を飲みに来たんじゃないんだけど!
「あんたの家になんて入るわけないでしょ!
写真を消してもらったら帰るから、早くスマホを貸し⋯⋯むぐっ!」
カッとなって大きな声で返す私の口を、いきなり手で塞ぐアキラと至近距離で目が合う。
「静かにしろって、馬鹿が。中に入らねぇのなら今すぐ帰れ」
あっ……忘れていた。
今は深夜0時くらいだったのに。
気を付けよう。
でもアキラには絶対謝らないけど。
こんな所まで来る原因を作ったのはアキラなんだから。
そんな事を思っていると「うるせぇし、早く帰れ」と言いながらエレベーター側に背中を押された。
「えっ!?」
驚いている私を無視して、アキラは私の顔の横から伸びて来た手でエレベーターの降りるボタンを押した。
「ちょ、ちょっと勝手な事しないで。こんな状態で帰れるわけ⋯⋯」
そう言って振り返ると、もう家の中に入ろうとするアキラの姿が……
「え!?ちょっと、アキラ!待ってよ!」
その直後にガンッ!
と、バックが
「きゃーー!私の新しいバックーーー!!」
つい最近、客に買ってもらった何十万もする町高級バックは、重厚なドアに挟まれ既に変形しているのが目で見て分かった。
そんな事はどうでもいいアキラは、大声を出した私にドアの隙間からしかめっ面を送って、一瞬だけドアを開けてくれた。
かと思うと長身で見降ろし高級バックを投げて来る。
「じゃあ挟むな!さっさと帰れ!」
投げられたバックを上手くキャッチすると、直後にドアがバタンと閉まって鍵の閉まる音まで聞こえて、もう終わりだと心の中で呟いた。
ミスキャンパスにも選ばれ
有名な芸能事務所にもスカウトもされ
片手間でしかやってない
夜の仕事は売上TOP3に入る成績。
そんな私相手に、アキラは容赦なかった。
客だけじゃない、アキラ以外の男はほぼ、私に喜んで貢ぎ、
尽くす事に幸せや喜びを感じているというのに。
この私に、こんな邪険な扱いをするのは世界中のどこを探しても、こいつぐらいだろう。
それにしても、この状況はマズイ。
写真を消してもらわずに帰ったら、何をしにここまで来たのか分からないじゃない。
作戦第一、超ムカつくけど、しおらしい感じで謝ってみる。
「ま、待ってよ。出てきてよ。近所迷惑だった事は謝るから」
ドアに向かってワントーン高く行ってみるも、返って来たのはさっきより一段と冷ややかな声。
「なんだ?その言い方。謝る気あんの?」
何!?こいつ!やっぱり嫌い!
この私が謝ってるんでしょうが!!
とブチ切れたくなる気持ちは、血管がちぎれそうになりながら横に置いて……。
作戦第二、1億万歩譲って中に入る。
「さ、騒いだりして悪かったわ。もう騒いだりしないから、中に入れてよ」
あー、すこぶる不快だ。
確かに時間を考えなかった私も悪いかも知れないけど、元はと言えばあんな写真を送ってきたアキラが悪いのに。
私が男相手に……
いや、アキラ相手に
今日は本当に最低最悪の日だわ。
そんな事を考えているとドアが開いた。
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