記憶喪失
身ノ程知ラズ
記憶喪失
どうやら彼は記憶を失ったらしい
当たり前だがどこで、どんな風にして記憶を失ったのかはわからない
ただ、彼は歩道でうつ伏せになって横たわっていた
ということしか分からないらしい
記憶を失ったといっても喋れなくなるとかそういうのではない
喋ったり歩いたりすることはでき、一般常識も身についたままだが
彼の過去のこと、仕事であったり家庭であったり
彼にまつわる一切の情報が脳から消去されてしまったようだ
医者から何度も記憶を取り戻すように促されたが
不幸にも何も思い出すことは出来なかった
手元のスマホは偶然にも指紋認証で開くことができた
そこからマップを開くと自宅の住所が記されていた
ここからそう遠くない、割と立派な一軒家である
退院した後、自宅に向かう
持っていたカバンには運良く鍵が入っていたため中に入ることができた
自宅にはびっしりと本が並んでいた
中には壁一面本で埋め尽くされているようなものもあった
(なるほど、俺は本が好きで集めているのだろう)
大した推理力のない彼はそれぐらいのことしか分からなかった
自身のスマホからある程度の個人情報はわかるようになっていた
彼は一人暮らしだったらしい、嫁はおろか交際している女性さえ
連絡先一覧にはいなかった
なら何を生業としていたのだろうか
あてもなくひたすらスマホやらパソコンやらとにらめっこしていると
とある本が見つかった、著者名からして彼が書いたものだろう
そうだ、そう思い彼の名前を検索にかける
すると多くの小説がヒットした
(なるほど俺は小説家なのか)
色々調べていると割と売れている作家なのだと気づく
それを頼りにいろんな記憶を取り戻した
1年経った今、多分全ての記憶を取り戻し
順風満帆な生活を送っていた
記憶を失ったものの小説家だとわかり、小説を書き続けると
軒並みヒット作を生み出していったのだ
ある穏やかな昼下がり、記憶を失ったことさえ忘れそうになりながら
彼は新たな作品のネタ探しのために少し散歩に出掛けていた
突然後ろから鈍器のようなもので後頭部を殴られ
そのままうつ伏せになって横たわった
その後の記憶はないという
記憶喪失 身ノ程知ラズ @mizoken
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます