第72話 水族館デート◆side琴菜◆

 よーくんは、私に水族館デートを提案してくれた。

 もちろん同意。


「私。水族館って久しぶり」

『受験勉強の息抜きになればと思ってね』

「ありがとう。よーくんと一緒できてうれしい」


 よーくんの車で海辺の水族館へ。


 今日はいい天気で気持ちいけど、海はちょっと荒れてる。


「よーくん、あっちでチケット売ってるよ」

『チケットはWebで手配済みだから、このまま出入口ゲートに向かって大丈夫だよ』


 …………


 出入口ゲートを通ったあとは、腕を組んだ。もちろん当てて。

 昨日と違って、よーくんうれしそうな顔をしてる…もう慣れちゃった? ちょっと悔しい?


「これは、川の生き物?」

『うん、地元の川の上流、中流、下流と、真水と海水が混じる汽水域の生き物だって」


「ふーん、これはなんて魚?」

『えーと、ハゼだね』

「ハゼって海の魚じゃないの?」

『港の防波堤の内側とか、真水と海水が混じる汽水域とかにいるよ。子どものころ、良く釣りにつれて行ってもらったよ」

「ふーん、天ぷらにする魚よね」

『うん、おいしいんだ』


 …………


「これはコイでしょ」

『口ひげが特徴的だよ』


「コイって食用なんでしょ」

『食用にする品種は良く知らないけど、結構伝統的に食べられていたらしいね』

「今でも食べられてるのかしら?」

『……ゼロってことはないと思う。コイの身肉って淡泊らしいよ』


 …………


「これ模様が似てるけど同じ魚?」

『うーんと……緑っぽいのがイワナ、ピンクというかアイボリーっぽいのがヤマメだって』

「フフ、案内表示を読んだのね」

『淡水魚にはなじみがなくてね』

「背びれが二つあるんだ」

『ほんとだ。後ろにあるのはずいぶん小さいね。何のためにあるんだろうね』


 …………


「サメだー」

『おお、いろいろな種類のサメがいるね』

「ジョーズってどんな種類のサメだっけ?」

『さあ、ホホジロザメだったかな? ここの水族館では飼われていないらしいよ』


「ねえ、ここのサメは周りの魚を襲わないね」

『うん、不思議だね』


「サメって無限に歯が生え替わるんだって」

『じゃあ虫歯になっても、へっちゃらだね。うらやましい…』

「よーくん、虫歯あるの?」

『えーと……』

「あるのね。ちゃんと直してよ」

『……歯医者さん嫌い』

「弱虫!」


 …………


 水族館って、人間の通路はところどころしか照明がないけど、水槽内は明るくなってるから、歩くのには困らない。


 けど、薄暗いから、自然に手を繋ぐとか、腕を組みたくなる。

 よーくん、それがわかってて誘ってくれたのかな?


 よーくんったら、策士ね。大歓迎だけど。


『ここはクラゲか』

「クラゲって、漢字表記がたくさんあるんだって」

『え?』

「水の母、海の月、水の月……他にもあったかも」

『地方によって違うのかな』

「そうかもね」


 ここは特にガラス細工みたいなクラゲがゆったりとしているのが幻想的でいい。


『ことちゃん』

「なあに?」

『ここ、クラゲの姿や動き方が幻想的に感じるね』


 よーくんも同じこと思ったみたい……スイッチが入っちゃうよ。

 軽くハグしたら、よーくん、ビクッってする。


「周りに誰もいないよ」

『だ、だとしても外で……』

「いいよ」

『……うん』


 よーくん、ひげをちゃんと剃ってきたのね


『……ありがとう、ことちゃんの言う幸せな気分になったよ』

「もちろん私もよ」


 …………


『ここは、サンゴ礁の海だな』

「あのシマシマの魚可愛い」

『ああいう目立つ模様だったら、敵に見つかりやすくなるんじゃないかな』

「サンゴの間とかに隠れるんじゃないかしら」


『こっちはアオブダイかな?』

「身肉はおいしいらしいけど、内臓に毒があるんだって」


『フグの毒はエサの貝とかヒトデかららしくて、養殖のフグは無毒らしいんだ』

「そうなの。じゃあ養殖フグのフグキモとか」

『それが、そんなに簡単な話じゃなくて、養殖で無毒のフグの水槽の中に天然のフグを放すと、もともと毒を持ってなかった養殖フグの体内に毒ができてるとか』

「え、どうして?」

『フグの腸内細菌が関係している可能性があるとの説がある……という具合に、フグ毒のことはまだ完全には解明できてないんんだ』


 …………


『ことちゃん、ショップがあるよ』


『いらっしゃいませ~いらっしゃいませ~当店では外の売店で売っていないものも扱ってますよ~』


「ちょっと寄っていく?」

『人間、“限定”には弱いわな』


「ふーん、サメの歯がお守りだって」

『“蘇る”、“再生”とか“強さ”っていうことでお守りらしいね』


「いろいろなものを売ってるわね」


『ターコイズがあしらわれてるこのペンダントいいんじゃない。ああ、でも肌に傷をつけるおそれがあるか』

「服の上になるように着ければいいのよ」


『じゃあ、買ってくるよ』

「待って、私も同じものを買って、よーくんにプレゼントする」

『え……安くないけど大丈夫?』


「再会できる日を夢見て貯めてきたのよ。特にお年玉とか」

『そうか、ありがたくいただくよ』


 お会計を済ませて、隣のカフェに移動。


 私はワッフルとオーシャンソーダ、よーくんはぱりぱりタコドッグ、Wシャークセット――サメ肉ナゲットと鮫カツのセット――とブルーティーを頼んだ。



『ことちゃん、これつまんでいいよ』

「うん、ありがとう。ナゲットをもらっていい?」

『うん、いいよ』


「おいしい」

『サメ肉は。低カロリーで高タンパク、必須アミノ酸やEPA、鉄分、コラーゲンを含んでいる栄養価が高い食品だって』



「ね、さっきのペンダント着けよ」

『うん』


「よーくん、ターコイズが似合うね」

『ことちゃんもよく似合ってるよ』


 あ、お揃いって初めてかも。


『「いい買い物したね」』



『あれ、武川先輩?』


 ?


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。


 “今日はいい天気で気持ちいけど、海はちょっと荒れてる” = “天気晴朗ナレドモ波高シ”

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