第64話 ニンニクMax・ネギ味噌Max◆side琴菜◆
『カフェも全部ガラス張りなんだ』
「すごいでしょ」
よかった。雲一つない青空に、海も穏やかで。
『きれいだね。今日の空は青みが深いよ。季節は確実に秋に向かってるんだね』
「波も穏やかね」
よーくんはクラブハウスサンドとアイスカフェラテ、私はハニーキャラメルパンケーキとクランベリージュースを頼んだ。
『これ、おいしいね』
「フフ、クランベリージュースもおいしいよ。どう、リベンジ成功よ」
『え、クランベリー……ありがとう』
『あのね、さっきはありがとう。僕のために怒ってくれて』
「どういたしまして。ところで、“イベント”って何?」
『その、結婚披露宴的な……』
やっぱり。
「そういうこと考えてくれてるの?」
『ごめん、まだ、早いかな? コスパどうのこうので結婚式なんか不要だとかいう人がいるみたいだし』
「ううん、ちゃんと考えてくれて嬉しいし、私は憧れるかな」
『そうか。実は僕もことちゃんのウエディングドレス姿を見たいかな』
「フフ、ファーストベイトはアーモンドチョコとビスケットにする?」
『それは確かにファーストベイトだったけど、それわかる人が何人いる?』
「ところで、ここって真東に向いてるのかな?」
『えーと。お祖母ちゃんの資料によると、おおよそ東南東、方位角112.69°、日の出と正対するのは11月17日前後と1月26日前後、だって』
『……びっくりだよ、そのデータは 。でも、いい景色だね。みんなが推すだけのことはあるよ』
『あの海の上を走ってるのは国道のバイパスかな。ただのコンクリートなのになんか合うね』
『「ごちそうさま、おいしかった」』
『どうもありがとうございました』
「ショッピングモールに行く?」
『うん。日頃ネット通販ばっかりだから、ショッピングモールは久しぶりだよ』
『いろいろなお店があるね』
「ここの洋服屋さんね、リーズナブルだけど品揃えがいいって評判なのよ」
『そうなんだ』
「こっちに置いておく服を一通り買ったら? 下着、部屋着と外出着を2セットずつっていう所かしら」
『ことちゃんが選んでくれる服なら買いたいけど、下着は自前で持ってくるよ。洗濯済みだとしてもことちゃんに触らせるのは気が引けるから』
「私が嫌がると思ってるの? 一緒に暮らしたらそれ日常になるのよ」
『お、おうありがとう……って店員さんが注目してるよ』
『お客様、仲良しさんですね。どうかウチのお店で買い物をしていってくださいな』
「よーくん、マネキン買いは禁止ね」
…………
満足。
いい買い物ができた。よーくんの服と私の服……下着。
よーくんのいい所をまた一つ見つけた。買い物にちゃんと付き合ってくれる所。
クラスメートで彼氏が買い物に全然付き合ってくれないってこぼしてた子がいた。
よーくん、貴方は“良く出来た彼氏”だよ。
もっとも婦人ものの下着売り場にはついてきてくれなかったけど……まあ、これは……そのうちね。
「荷物多くなっちゃったけど大丈夫?」
『うん、まだ大丈夫だけど、駅まで迎えに来てもらうことはできるかな』
「うん。連絡しておくね」
『そろそろお昼にしよっか。何か食べたいものある?』
「このショッピングモールに注目を集めてるラーメンがあるの」
『え、ラーメン?』
「あそこに“Cosmic One”ってお店があるでしょ。あそこのニンニクMax・ネギ味噌Max。私、まだ食べたことないの」
『う、うん、わかった。僕もラーメン好きだから賛成だ』
「どうしたの、びっくりして」
『その、偏見かもしれないけど、女の人ってあんまりニンニクとかラッキョみたいなにおいが残るものは食べないって言うから。特に付き合い立ての頃は』
「あー、みんながみんなそうじゃないし、私はそんな後出しジャンケンみたいなこと好きじゃないよ」
『後出しジャンケンって……まあ、行こうか』
『いらっしゃいませ、二名様でございますか?』
『……はい』
『まもなくテーブル席の準備が整いますので、しばらくお待ちください』
『ホール係、和服なんだ。店名とはずいぶんかけ離れているような』
「これも話題なんだけど、だれもその理由を知らないの。ネタかしら?」
『そうかもね』
…………
「ちょっと辛いけどおいしい。話題になるはずね」
『うん、こういう攻めたメニュー好きだよ』
『問題は口に残ったにおいだな』
『お客様、牛乳をお持ちしましょうか?』
『え?』
『口臭を気になさるお客様が結構いらっしゃいますので、ニンニクMaxシリーズのオプションに設定させていただいております』
「では、お願いします」
「他に何か買いたいものある?」
『ことちゃんは?』
「特にはないかな」
『あのね、チェストが欲しいんだ。今日買った服の収納用の』
「うん、確かこのモールの隣のホームセンターがあるわよ。どんなのがいい?」
『どこの部屋に置くのかな……それによって違ってくると思う』
「置くのは私の部屋に決まってるじゃない。私の服はクローゼットにしまうから、サイズは自由に選べるよ」
『そんなに大きいのじゃなくてもいいけど。えーと、下着を収納するわけで、お友達が来ることを考えたら透けてないほうがいいかな?』
「よーくんと私の関係は結構知ってる人が多いから大丈夫といえば大丈夫だけど…」
『やっぱり透けてないものにしようね。下着、家着、外出着2段の4段かな?』
『よさげなのを売ってて良かった。でもこれは、持ち帰れないよね』
「そうね。ここまで、車で迎えに来てもらう?」
『今日明日の分は持って来た服で賄えるから、チェストは配達してもらうことでどうだろう? 設置と服の収納は全部ことちゃんにお任せになっちゃうんだけど。一応デートの時間を長く取れるし。勝手かな?』
うれしい、二人の時間を優先してくれるのね。
「いいよ。やったげる」
『ところで、ことちゃんがうちに来た時に預かった下着、アパートの僕の部屋にあるよ』
「それは、サイズ的に使えないでしょ」
『そうだけど、チェストはあるから』
!
「よーくんに会いに行ったら、よーくんのアパートに泊まるってことね」
『そ、そういうつもりなんだけど……ダメか?』
「ううん。じゃあ、今度私の服を収納するよ。ただ、今は受験生だからいつになるかわからないけど」
『もちろん、大学合格のほうが優先するよ』
「ありがとう…でも、私達は大学云々で離れ離れになっちゃったから、フラグになるかもしれないからそれは口にしないようにしましょ」
『うん……そうだな」
ホームセンターで売っていたチェストのうち、壁紙の色とかを考えて選び、発送を依頼した。
明日には届くそうだけど、よーくんの出発には間に合わないかも。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ご訪問ありがとうございます。
全力疾走ヒロインです。
でも、優しいですよね。
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