第61話 颯さん◆side琴菜◆

 食事が終わり、デザートのビワが出されてる。


芳幸よしゆきさん、慈枝よしえさんのことを教えて下さい』


 よーくん、真剣な顔……そりゃ慈枝さんのお兄ちゃんだもんね。


『えーと、はやてさんは今でも慈枝に気持ちが残ってますか?』


『はい。慈枝さんが受け入れてくれるのであれば付き合いたいと思ってます』

『それは、残ってるどころじゃないですね。颯さん、大丈夫ですよ。慈枝は颯さんを待ってますよ』


『それは……受け入れてくれるっていうことですか。うれしいです』


 よかった。

 お兄ちゃんと慈枝さん付き合えるんだ。


『これ連絡先です』

「連絡してみます。えーと、ごちそうさま」


 あんなに急いじゃって……


『颯ったら……あんなに嬉しそうなのは久しぶりね』


 舞い上がっておかしいこと言っちゃだめよ。


『芳幸君ありがとうね。橋渡しをしてくれて……江梨えり、“提灯持ち”って言い方なかったっけ?』

鐘治かねはるさん、時々やってたね。自分のことはそっちのけで人の世話ばっかり……私は気が気じゃなかったよ』

『え?』

『そういう他人のために本気になって動く人ってモテるのよ』

『でも、誰からも声をかけられなかったぞ?』

『私が目を光らせてたからよ』

『そ、そうか』


 お母さんったら……


『お父さん、お母さん、よーくんが何か話したそうよ』


『ことちゃんありがとう……あの、怒らないでくださいね。慈枝はあれ以降男性と付き合ったことはありました』


『でも、あまり長続きしませんでした』


『……それは、どうしてかしら』

『ご想像されてるかもしれませんが、颯さんのことが心に残ったままだったんじゃないでしょうか』

『男性と付き合ってるのに慈枝の表情が少しづつ曇っていくのは、兄として辛かったです……“もう忘れちまえ”って言いそうになったこともありました』

『でも、僕もことちゃんのことを引きずってましたから……ともかく、慈枝もお相手の男の子も、当然颯さんも不憫でした』


『どういう感情を持ったらいいのかわからないな……颯と琴菜の親として』

『颯は……悪い男ね。慈枝さんにそこまで影響を与えて……その男の子にそんな思いをさせて……』


『でも、颯さんと慈枝の関係が再会することで慈枝の表情が晴れるなら、兄としてうれしいです。過去にあったことはそれとして』


 お兄ちゃん、必ず慈枝さんを幸せにしてあげてね。

 よーくんもそれを望んでるんだからね。



『芳幸君、明日はどうする?』

『まず由莉ゆりさんのお墓参りをしたいです』

『まあ、お祖母ちゃん喜ぶわ。そのあとは琴菜とデートしてきたら?』


『あの、ことちゃん3年生ですよね。勉強を見るつもりで来たんですが』

「私、結構勉強頑張ってるし、この一週間は前倒しでやったのでこの土日はフリーにできるよ」


『江梨さん?』


『この子ね、”脳筋って言われるのはイヤ”って言ってね、スポーツ推薦なんか眼中になくて一般入試で行くつもりで勉強頑張ってたのよ。だから結構余裕があるのよ』


「ちょっとお母さん、恥ずかしい」


『琴菜、はどう? 駅前にはショッピングモールもあるでしょ』

『あっ……お祖母ちゃんありがとう、そうする』

『ああ、あそこ……隣の駅なんだけど、ガ「お母さん、ストップ!」』


「教えたら楽しみが減っちゃうでしょ!」

『フフフ、ゴメンね琴菜。芳幸君、日の出が良いそうよ』

「お母さん!!」


『じゃあ、日の出に合わせて……早いかな?』

『明日9月12日の日の出は5時17分。電車ないぞ』

勝旦まさるさん?』


千緋呂ちひろが、この近辺のデートスポットのリストを作っててな、気になったから調べたんだ。昔は理科年表片手に計算してたけど、今はインターネットで直接検索できる。便利な世の中になったもんだ』

『そう、琴菜にあげようと思って』

『俺の情報は備考に書き込んである。まあトリビアに近いがな』



『芳幸君、電車がダメなら車貸すか?』


 よーくんとドライブ!


『ちょっと自信がないです。というのは、僕車は持ってて毎日じゃないけど運転してますが、初めての土地で、初めての車、夜間です』

『慎重だな……まあいいこった』


『それに保険の問題が』


 ?


「よーくん、保険の問題って?」

『自動車保険って、運転手を限定することで毎月の支払いが安くなるんだ。良くあるのが家族限定だけど、もしそうだったら家族じゃない僕が運転して事故ったとき保険金が出ないんだ……もちろん安全運転を心掛けるけど』

「お父さん、どうなの?」

『うん、家族限定だ』

『んもう、ちゃんとよーくんが乗れるように手続きして」

『ことちゃん、鐘治かねはるさんそこまでやらなくても、次回は車できますよ』


「うん、約束ね……よーくん、どんな車に乗ってるの?」


『二人乗りで……それ以上は、見てのお楽しみ』

「二人乗り?」

『スポーツカーなのかね?』

『違いますよ~まあ、可愛い車です』

「ふ~ん。じゃあ楽しみにしてる」

『洗車して、掃除しとかなきゃ』


『じゃあ、明日はお墓のあと駅まで送っていくよ』

『はい、おねがいします」



『琴菜、勉強にかかりなさい。芳幸君はお風呂にどうぞ』

「は~い」

『お風呂いただきます』



 やっぱりよーくんはよーくんだった。


 お母さんが“本当にいい人を捕まえた”って言ってたけど、誰にでもどんなことにでも一生懸命になれる人なんだ。

 確かにちょっと不安かもしれない。


 よし、よーくんの隣に立ち続けるつもりなら、よーくんが私から目を離せないようにしないと……


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。


 慈枝ちゃんと颯さんも関係復活。よかったです。

 芳幸君はどういう車に乗ってるんでしょうか?




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