第60話 鐘治さん、江梨さん◆side琴菜◆
『ことちゃん、ニーハイソックス似合うね』
「絶対領域はどう?」
『え!』
「ドキドキしてる?」
『こ、ことちゃん、ことちゃんの太ももをそんな目で見れるわけないじゃない……』
赤くなっちゃってかわいい……
「見ていいのよ」
『う、うん』
フフフ、よーくんったら、太ももじゃなくて膝を見てる。
よーくんの右手が私の左手に触れた。
これは手を繋ごうってことなのね……作戦成功?
どうせなら前はできなかった恋人つなぎを……
「これで」
『うん』
よーくんの手、大きくて、堅くて柔らかい……あの時と一緒だ。
「着いたよ。ここが今の私の家」
『うん』
よーくん、足が止まってる。
「どうしたの?」
『……前に、
何のこと……あっ!
『わかった? 気になる男の子がいたけど、その子はその子のお母さんとともにお母さんの実家に引っ越して、そのまま消息不明になったっていう話』
「よーくん、ごめんなさい。その時はまだよーくんと知り合ってなかったから」
『ごめん、ことちゃんを責めてるんじゃないんだ。その時に江梨さんが“いきなり消息不明で関係消滅なんて哀しすぎるわ。琴菜にとっても、その子にとっても”って言ってたんだ』
『天災だったとはいえ
「う、うん」
『もちろん僕はそんな意地悪な見方をしないけど、鐘治さん、江梨さんが気にされてるんじゃないかと思って。だったら僕はそれを解消してあげないと』
……よーくんはやっぱり優しい。私だけじゃなくてお父さんやお母さんのことも気遣ってくれる。
ひいおばあちゃんがよーくんのことをずっと気にしてたのは、こういう優しさ持ってることを感じ取ってたからなのね。
『ことちゃんはどう思ってる? 僕はことちゃんと再会できて付き合えるようになったからこの12年間は解決したよ』
「私は……よーくんと引き離されて辛かったけど、私達の力で今日を引き寄せたから満足だよ』
『そうか……よし、じゃあ行こうか』
『おかえり
「ただいま」
『ただいま。お久しぶりです。鐘治さん、江梨さん』
『うん。久しぶりだ」
『夕食の準備はできてるわ。上がって』
『「はい」』
お父さん、お母さんともやっぱり緊張してるみたい。
よーくん、お願いね。私にできることがあったら何でも言って。
リビングにはお祖父ちゃん達がいた。
『
『元気だったかね?』
『はい。勝旦さんはどうです?』
『歳も歳だからね、まあいろいろだよ』
『大事にしてください』
『千緋呂さんはどうですか?』
『勝旦さんと同じですよ。歳は取りたくないものです』
『そうですか。僕の祖父母もしきりにそんなことを言ってます』
『芳幸さん!』
『
『大した会社じゃないけど、まあちゃんとしてます』
『それは、良かったです』
『
『仏壇があるから拝んであげて。琴菜』
「はい、行きましょ」
『ローソクとお線香は由莉さんには申し訳ないけどやめておこう』
「ひいおばあちゃんはよーくんなら許してくれるよ」
よーくん、仏壇の前に正座して――よーくんが正座してるところって初めて見たけど、端正ね――目を閉じてひいおばあちゃんの位牌に手を合わせてる。
よーくん拝み終わって、私のほうを向いた。
『由莉さんにあいさつするっていったら打ち解けてもらえるかの思ったけど、そうもいかないみたいだね。やっぱりちゃんと話さないと』
「うん」
『リビングに行こうか』
リビングに行くと、夕食――フーカデンビーフ、マカロニサラダ、ゴーヤの塩漬け、ごはん、ボルシチ――が並んでいた。
『『『『『『「いただきます」』』』』』』
…………
『芳幸君、すまなかった』
『大学に進学して引っ越しても会いに来てやってとか電話で話してやってってお願いしておきながら、行き先も告げずに引っ越してしまって本当にごめんなさい』
『どうか頭をお上げください』
『天災でしたし、なにより僕はこうやってことちゃんを探し出しました。ことちゃんと約束した通りにです』
『喪失感とかどうやって探せばいいのかわからないとか誰かほかの人が好きになってるんじゃないかという焦燥感など、正直つらかったです』
『でも今日、ことちゃんに会って目が合った瞬間に僕はことちゃんの隣に立って良いと感じ、話してみてそれを確信しました。このことでこれらのマイナスは全てなくなりました。ことちゃん?』
「私も同じ。目が合った瞬間に私はよーくんに受け入れてもらえる、隣に立てると感じて、辛かったこと寂しかったことは全部なくなった」
『いや、しかし…』
『僕達は大丈夫ですよ。今日、大丈夫になりました。だからお二人も大丈夫になってください』
『…』
『……』
『ありがとう、琴菜のことをずっと想い続けてくれて、今ここで俺達を許してくれて』
『僕の方こそ受け入れて頂いて待ち続けて頂いてありがとうございます。それで、僕からひとつお願いです』
「よーくん……」
よーくんが私を見てちょっとだけ微笑んで、またお父さん達に顔をむけた。
『僕達のお手本に、なり続けてください』
『それはどういうこと?』
『やっぱり子供は親に学びます。僕の父母や鐘治さん達、勝旦さん達から学ぶべきことは、まだまだいっぱいあると思います。だから、生きてください。僕たち子どものお手本になって……なり続けてください』
『……俺達は芳幸君の親である覚えはないぞ……親となるためには、そうだな、琴菜と結婚する他ないがな?』
よーくんがまた私を見た。
これは、同意を求められてるのね…もちろんよ。
『まだ、ことちゃんとちゃんと話していませんが気持ちはあります。だから僕と親子的な交際をしてください』
『そうか……俺たちを許してくれて、その上親の役割をしろというわけか。江梨、どうだ?』
『琴菜は本当にいい人を捕まえたね……ありがとうね芳幸君』
『俺達からも礼を言うよ。雲行きが怪しくなったら仲裁しようかと思ってたけど、心配はいらなかったな。よかった、そしてありがとう』
『ケンカするつもりなら来ないですよ……攫いに来たかもは知れませんが』
『それは困るわよ。まあでも、琴菜のことよろしくね』
いつものフーカデンビーフだけど、今日のは特においしく感じる……よーくん、ありがとう。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ご訪問ありがとうございます。
書いてて胸がいっぱいで…今回はあとがきなしっていうことで、すいません。
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