第59話 隣に立っていいのね◆side琴菜◆

 よーくんと会うのは、メッセージアプリで相談して9月11日の金曜日から9月13日の日曜日までの3日間として、11日の17時にファミレスで待ち合わせてその日の夜から家に2泊して13日に帰ることとなった。

 だから、自宅の住所、最寄駅、待ち合わせるファミレスなどのロジスティックス情報を送った。

 よーくんの旅程づくりの能力ならこれで十分なはず。


 で、いよいよ明日なんだけど……


琴菜ことな杏子きょうこ茉心まこ今大丈夫?

【杏子】何?

【茉心】どした?


【琴菜】私、よーくん付き合えるかな?

【琴菜】メッセージアプリでは日程の相談とかロジスティックスしかやり取りしてなくて

【茉心】琴菜んちのみんなに挨拶しにくるんでしょ?

【琴菜】うん

【杏子】じゃあ、付き合えるよ

【杏子】その気のない相手の家の人に挨拶しないよ


【茉心】確か9月11日って友引だよ


 六曜って……そうか、“友を引き寄せる”友引!


【杏子】いつも全力疾走の琴菜はどこ行った?

【茉心】まあまあ……17時に西口のcafe Pandōrā(パンドラ)だっけ? 一緒に行ってあげる?

【琴菜】ううん、一人で行く

【杏子】まず大丈夫よ

【琴菜】ありがとう、みんなおやすみ

【杏子】おやすみ

【茉心】おやすみ


 明日が良い一日になりますように。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 今日はスカートを短めにして、これに二―ハイソックスを合わせてみた。靴はローファー。いつもはスニソにスニーカーだからずいぶん注目されてる。


 いいじゃない、よーくんに逢うんだから!

 みんな運動系部員をなんだと思ってるの!



 時刻が気になって授業内容が頭に入ってこない…

 時計ばっかり見てたら先生に「腹減ったか?」って聞かれてしまった。先生も先生だ!

 


 やっと放課後になり、駅西口のcafe Pandōrāに急ぐ。


 Pandōrāに着いて、ウエイトレスさんに待ち合わせであることと告げると出入口が見通せるボックス席に案内してくれた。


 トイレに行って、これもめったにしないメイクをした。

 私、汗臭くないかな?



 時刻は16時40分。駅に電車が入ってきた。駅の西口から人が何人か吐き出されて……


 あ、あの歩き方!



 よーくんがお店に入った瞬間に目が合った。ウエイトレスさんありがとう、最高の席だよ。


 よーくんの表情があの優しい表情になる。

 そうだ、私はこの表情の変化を好きになったんだ。


 間違いなくよーくんは私のことを受け入れてくれてる。


 間違いなくよーくんの隣に立てる。


 よかった。



 そして、よーくんも私と同じくと感じ取ったんだ。


 よかった。



 よーくんウエイトレスさんとちょっとだけ話して、私のほうに歩いてくる。


 もっと早く歩いて!




『ことちゃん、お久しぶり。元気だった?』

「うん元気だった。よーくんは?」

『僕も元気だったよ』


 向かい合わせがいいかな、隣同士かな…

 うん、向かい合わせがいい。絶対、絶対に顔を忘れないために…


「向かいに座って」

『うん」


 よーくんが私の向かいに居る。あの夢や朝ごはんの時のように。


「ねえ、どうやって私を見つけたの?」

『僕が勤めてる会社で見本市に出品したんだ。そこに来たAZEKURA-Solutionsの酒巻さかまき常務の娘が蘭華らんかちゃんだったんだ』

「蘭華ちゃんの苗字は酒巻だったよね」

『その蘭華ちゃんが、陽葵ひまりちゃん、ネモちゃん、あいちゃん、雅樹まさき君、慈枝よしえの同級生のKamal Ramanujan(カマール ラマヌジャン)からなる組織を作ってくれて』


 …………


『それと、ヒマとMs.Ramanujanが動画を見つけてくれて』

「配信は効果があったのね。勇気を出した甲斐があったわ。あと、六次の隔たりってのは初めて聞いた……ヒマちゃんやみんなにお礼しなくっちゃね」


『うん。一応お礼は言っておいた……あの、いまさらだけど、やっぱりちゃんと聞いとかないといけないと思うから』


 よーくん、優しい顔からまじめな顔になった。


「何、かしら?」


 聞かれることはわかってるし、返事も決まってるよ。


『僕、武川たけかわ 芳幸よしゆき涼原すずはら 琴菜ことなさんがずっと好きでした。だから僕の恋人になってもらって、ずっと隣に立っていてもいいでしょうか』


 うれしい。

 告白されたことはあった。

 私にはよーくんがいるから全部断ったけど、チャラかったり、女は男に従属するべきだなんていつの時代だっていうものだったり……


 私は、よーくんにみはらしの丘で告白されたのが初めてだった。


 よーくんは12歳も年下の5歳の私に対等の相手として告白してくれた。



「私こそ……涼原 琴菜も武川 芳幸さんがずっと好きでした。これからも恋人として貴方の隣に居続けてもいいでしょうか」



『ありがとう。わがままな男ですがよろしくお願いします』

「こっちこそありがとう。不束者ですがよろしくお願いします」


 これを、この日を待ってた……

 ううん、待ってんじゃなくて、お互い自分にできることをして引き寄せたんだ。

 

 よーくんの微笑みを見てると体の中にどんどん暖かいものが流れ込んでくるような気がする。

 杏子ったらずるい。谷地君と会っていつもこんな気持ちになってるのね。



 ん、ギュってしてほしい。ちゅーじゃなくてキスもしたい。

 でも、他にお客さんがいるから、今それを言ってもよーくん困っちゃうと思うから、今夜に……



『ご注文のパンケーキをお持ちしました』

「ありがとう」


『『『お二人さんやったね』』』

『おめでとうございます。先輩』


「あれ、みんな?」

『ずっと居たのに気が付かなかったの?』


『ことちゃんのお友達?」

「うん、水泳部の同級生たちと後輩」


『みなさんこんにちは、武川 芳幸です。 えーとみんなが繋いでくれたんだよね。大変お世話になりました。隣のボックスに来ますか?』

「ほら、みんなよーくんに失礼よ、自己紹介して!」


 …………


『涼原さんに聞いてた通りの方ですね』

『琴菜ったら、ことあるごとに芳幸さんの話をするんですよ』

『そうそう“よーくんほどじゃないけど”とか、いつも芳幸さんを持ち上げてるし』


『ことちゃんと仲良くしてくれてありがとう。自分が仲良くしてる人には、誰かほかの人にも仲良くしてほしいって考えますよ。ああ、恋愛関係はだめです』


『え、ヤキモチですか。俺は売約済み……ここにいる杏子と付き合ってますよ』


「フフ、よーくんね、一回だけヤキモチやいたことがあるのよ」

『えっとことちゃん、その話は『先輩、聞きたい!』』

「えーとね、私が幼稚園の年長さんでよーくんが高3の時の夏祭りで――」

『それでそれで!?』


…………


『芳幸さん、大変ですね』

『谷地君、交際ってこういうものじゃないでしょうか。お互いがお互いの行為の記憶を積み重ねていく、とか。僕たちは13年間離れていたんでそういう記憶に飢えてるかもです』

『俺は、杏子と離れたことはないですけど、そういうことはあるかもしれませんね』


 …………


『みんなで写真撮ろうか?』

『『『『「うん!」』』』』


『お客様、お写真でしたらお撮りしましょうか?』

『え、そうしてもらえます』

『はい』

『じゃ、スマホじゃなくてコンデジですね。あ、こいつはスマホと接続してるから、写真はメッセージアプリを通じて流しますよ』


 …………


「そろそろ、うちに行く?」

『そうだね。皆さんとお話しするのも久しぶりだよ』


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。


 Deine Zauber binden wieder,Was die Mode streng geteilt!



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