第58話 お互いの存在

『Yoshiyukiおはよう』

「Taoufik(タウフィク)おはよう」


『ん、いいことあったか?』

「どうして、そう思う?」

『顔が……晴れ晴れしてる』


「先週の土曜日の見本市でな、ことちゃんの同級生の蘭華らんかちゃんに会ってな」

『えーと高校生だよな。見本市に?』

「AZEKURA-Solutionsの酒巻さかまき常務の娘なんだよ。家族で来てて、お母さんらしき人と蘭華ちゃんは住宅設備が目当てだったみたい」

『なるほど、それで?』


「酒巻常務が蘭華ちゃんと二人で話す機会を作ってくれたんだ。そこで、まだ諦めてないって話したら、彼女が僕とことちゃんの両方を知ってる子たち、さらに、慈枝よしえの同級生のMs.Ramanujan(ラマヌジャン)による組織を作ってくれてな、“六次の隔たり”っていう概念を使うんだって」

『ああ、聞いたことあるぞ……すごいじゃないか。うまくいくんじゃないか?』


「きっとそうなる。“私たちに、私たち女子高生のネットワークに頼って”って頼もしい言葉ももらった」

『そうか、良かったな』

「うん。ただまあ、あっちは花の女子高生だ、“お呼びじゃない”かもしれないし」


 そうじゃないことを全力で願ってるんだけど……


『そんなに弱気になるなって言いたいところだけど、相手のあることだからな…なあ、芳幸、もし琴菜ちゃんに恋人がいたとして、まだ芳幸に気が残っていたらどうする?』

「そりゃあ『おはよう、武川たけかわ君!Mr.宇都宮うつのみや!』」

『「おはようございます、風崎かぜさき課長」』


『(ヒソヒソ)風崎課長って……』

「(ヒソヒソ)言わんとしていることはわかるぞ。まあ否定しない」


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 今日の夕食は、サバの塩焼きとキャベツの炒め物、お味噌汁。

 みんなお手の物……ことちゃんにおいしいって言ってもらって以来、お味噌汁は必ず昆布使ってる。


『――15歳の女子高校生に対してみだらな行いをしたとして、30歳の会社員の男を逮捕――』


 じゅ、15歳はだめだよ…その点ことちゃんは18歳……違う違う、そういう対象として見てはいけない……見てないよ、ことちゃん。




 明日は土曜日、どの辺に探しに行こうかな。

 彼女たちの協力はありがたいけど、任せっぱなしは良くないから…


 ♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪


「おう、ヒマ(槙野まきの 向日葵ひまわり)。元気し『芳にぃ、動画!』」

「え?」

『アドレス送ったから。こーちゃん出てる!!』


 !


 スマホ落とした……うぉ椅子から落ちた……痛! テーブルの天板で頭打った……あっスマホ蹴っ飛ばした……あれ、どこ行った?


『変な音してるけど何?』

「いや、何でもない」


 机の下……おお500円玉見つけた……じゃないよ!


 ようやく回収できた。とにかく再生。


 ●●●●●●●●●


『女子100m自由形の優勝は――中等教育学校の涼原すずはら 琴菜ことな選手です』


 ………


「育ててくれた父母、祖父母、辛いときに励ましてくれた亡き曽祖母、と分かちあいたいと思います」


 ………


「みんな、私やったよ。涼原 琴菜はインターハイで優勝したよ!」


 ●●●●●●●●●


 やっと、

 やっと、声が聞けた。

 やっと、顔が見えた。


 大きくなったね……やっぱり、水泳続けてたんだ。


 インターハイで優勝したんだ……おめでとう。


 “スイミングスクールで仲良くなった人”って僕のこと……いや、年少さんから始めたって言ってる……先客がいるとか……どっちが本当?



『――にぃ』


『芳にぃってば』


「ああ、すまん。ありがとう知らせてくれて」


『芳にぃ、泣いてる?』


「いや、そんなことはないぞ」


 出てくるんだよ。わがままな涙腺め


「とにかくありがとう」

『うん、今度ご飯食べに行こ、3


 ああ、そうだな。


「わかった。仕事ははどうだ?」

『人の心配より、自分を心配して。じゃあね』



 ん、serch_harp に、



【ネモ】あいが、田端たばた なずなという子が琴菜ちゃんの部活の後輩だということが分かったと言ってます。所属校は――

蘭華らんか雅樹まさきが、谷地やち とおるっていう子が琴菜ちゃんの同級生で部活仲間だということを明らかにしました。学校は――

【Kamal(カマール)】インターハイ水泳競技女子100m自由形の優勝インタビューの動画を発見しました。もちろん琴菜ちゃんです。学校の名前も動画中で明らかになってます。アドレスは――

陽葵ひまり愛乃あいの 茉心まこっていう人が琴菜ちゃんと同じ部活で、かつ、同級生だということがわかりました。中高一貫校の――


 すごい、同時に4つ飛び込んできた。みんなほぼ同時にことちゃんの手前にたどり着いたんだ。



【芳幸】みんなありがとう、みんなのおかげで、所属している学校が分かったよ。だから住んでいる地域も分かった

【ネモ】こりゃまた遠いね


【蘭華】どうする芳幸さん、会いに行く?


【芳幸】忘れられてたり、彼氏がいたりしないかな……あと、12年前のことなんか知らない、とか、ないかな?


【蘭華】弱気にならない!


【陽葵】まあまあ、忘れてたり12年前のことなんか知らないは琴菜ちゃんに限ってはないと思うけど、愛乃さんに聞いてみるよ。


【芳幸】あまり迷惑にならないようにお願いします。それにしても“六次の隔たり”おそるべきだね


【Kamal】紹介しておいてなんだけど、ここまで有効なものだとは思っていなかった。論文が書けそうね


【芳幸】みんなもありがとうね。僕が10年以上かけてもできなかったことが、1週間もかからずにできた。

【芳幸】本当に女子高生のネットワークってすごいね。おっと、雅樹君のネットワークもね


【芳幸】みんな今日はゆっくり休んで


【蘭華】またね


【ネモ】お役に立ててよかった、おやすみなさい


【陽葵】愛乃さんに質問だけ投げておくよ、おやすみなさい


【Kamal】おやすみなさい



 本当に、ありがとうねみんな。


 ◆◆◆◆◆◆side琴菜◆◆◆◆◆◆


 インターハイが終わって私達3年生は引退なんだけど、なんとなく部室にきて、雑談中。部活動自体も実質休み。


『琴菜、山岸やまぎし 陽葵ひまりって知ってる?』


 !


「幼稚園の時の同級生。陽葵ちゃんがどうかしたの?」

『私に連絡してきたの。芳幸さんの手伝いをしてるとのこと。で、もし差支えなかったら連絡が欲しいとのこと』


 !!


 やっと、

 やっと見つけてもらえた。


 よーくん、私は大丈夫よ!


「茉心、陽葵ちゃんの連絡先を教えて」

『わかった…これ、あれよね……よかったね琴菜』


 1年生の田端 薺がスマホから顔をあげて私のほうを向く。


『涼原先輩、霧邑きりむら あいって子からメッセージが飛んできて、涼原先輩のことを訪ねてるんですけど……誰ですかこれ?』


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。


 芳幸君side、琴菜ちゃんsideの総力で、二人はお互いにその存在を知ることができました。

 次は、逢う段取りです。



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