第57話 覚悟◆side琴菜◆

 よーくん。


 私、できることは全部やったよ。



 でも……



 …………


 今日は、私のインターハイ優勝のお祝いでレストランで食事。


『『『『『琴菜ことな(こーちゃん)、優勝おめでとう』』』』』

「ありがとう。みんな」


 私は、カニクリームオムライスのデザートセットで、シフォンケーキとアイスが付いてる。

 ところで、お兄ちゃんはいまだに私のことを“こーちゃん”って呼んでる。

 ちょっと可笑しい。


「幼稚園から頑張ってきたことが実ってうれしい」

『スクールに通わせた甲斐があったよな、江梨えり

『“うまく泳げない、行きたくない!”って言ってたこともあったわよね』

「そ、それは言わないで」


『まあ、よくやった。いっぱい食え』



 おいしい。


「お母さん、これおいしい」

『うん。お金を取るだけのことはあるわね。悔しいけど』


 よーくんに食べさせてあげたいな。

 ううん、一緒に作って一緒に食べたい。


芳幸よしゆき君に作ってあげたいの?』

『二人で作って、二人で食べたい』


 お父さんの顔が締まる……何か言いたいの?


『あー琴菜。芳幸君は今年30歳だったよな』

「うん。私より12歳年上で、誕生日過ぎてるから30歳よ」


『この前の配信で芳幸君が琴菜を発見する可能性は大いに高まったと思う。芳幸君は誠実な人だからきっと琴菜に会いに来てくれるとは思うが、あのころとは違うぞ』

『と、父さん、交際に反対なのか!』


『違う。交際には反対しない。関係を再開するとして30歳と女子高生だ。また、芳幸君は誠実だから、他の女が放っておかない可能性がある。そういったことを受け止める覚悟があるのか、ということを問うている』

『女子高生には少し酷な質問かもしれないけど、女は冷静でなければならないのよ』


 私は、よーくんと再会する目的を果たすための手段として水泳を頑張ってきた。

 お父さんは、その先のこと、ちっちゃい子とお兄ちゃんモードじゃない交際のことを言ってるんだ。


 私は……

 決まってるよね。


「私は、よーくんとの恋人としての関係になることを望みます。年齢差は気にしません。よーくんに恋人がいないなら全力で挑んでその気にさせます。万一恋人がいてもまだ私に気持ちが残っているとしたら必ず振り向かせて見せます」


『30歳と女子高生というのはある意味かなりハードルが高いぞ』

『父さん、世間体を気にして反対するのか!』

『そうではないぞ、はやて。残念ながら、女子高生相手に宜しくない行いをする奴が多く、こういった関係に偏見があることは否定できない。俺はそれを打ち破る覚悟を持ってほしいと考えている』


「それは、変に世間を憚って隠し立てするからだと思います。私は吹聴して回ることはしないけど、隠しもしません」

「また、こういったことにいちばん厳しい目を持つのは女子高生です。なので杏子きょうこ茉心まこなどには話してみましたが、素敵なことと言ってもらってます」


「30歳なら、そろそろ結婚なんてことを考える時期に差し掛かるわよ」


 私は、よーくんと結婚したい?


 あの夢みたいに一緒に暮らして、 

 初めてよーくんちに泊まった日みたいに二人でごはんを作って、

 お父さんとお母さんのように、私がよーくんを支えてよーくんが私を支える。


 うん!


「私はよーくんが好きだからちゃんとよーくんと話し合って決めたい。お母さんは反対?」


『高校生のうち、というのは反対……その意味は分かるわよね。使ということよ。もちろん芳幸君はそんなおバカなことをしないと思うけど、大変なのは琴菜だからね』


 よーくんと私が…そういうことを……顔が熱い。



『キツいことを言って悪かったが、琴菜の気持ちは分かった。そういう覚悟を持って話し合って決めるなら、俺たちは考え落ちがないかチェックはするが覆すことはしない。それはよく覚えておいてくれ』


『私と鐘治さんは初めての恋人同士で結ばれたから、多様な恋愛の経験はなくて、もちろん別れた経験もないわ。だから相談に乗るというより“聞くだけ”しかできないかもしれないし、万一のことがあっても泣く場所としての胸を提供することぐらいしかできないわ』


『悩み事はな、人に話しているだけでも答えが浮かんできたりするものだ。そういう風に俺たちを使ってくれれば親としてこの上なく幸せだよ』


「ありがとう、お父さん、お母さん。よーくんとちゃんと話し合って、迷ったり困ったりしたら相談するのでよろしくお願いします」


『『うん、任せて』』



『さて、次は颯だ』

『琴菜と芳幸くんが再会できたら、たぶん芳幸君は計らってくれるわ。慈枝よしえさん側に支障がない限り……颯どうするの?』

『俺も彼女の消息を探し続けてました。もしつかめれば、。だから、さっきこーちゃんが表明した覚悟については、常に考えて、決めてました。慈枝さんが受け入れてくれる限り』


『そうか、颯も望むか。だったら俺たちからの言葉は一緒だ。俺たちに頼ってくれ』


『うん、父さんありがとう。さっきは噛みついてゴメン』


『いいよ。颯はまっすぐなのがとりえだから……それは大事にしろよ。それはそうとハンドルキーパーやってくれるか?』

『うん、忘れないうちにスイッチ預かるよ』


『フフ、鐘治かねはるさん、ビール? それともワイン?』

『ワインをお願いしてもいいか、江梨?』

『いいわよ、それだけ働いたから。さあ、みんな食べましょう』

『すいませーん、ワインお願いします』


 …………



 よーくん、私全力で行くからね。自由型の高校生日本一を舐めないでよ。


◆◆◆◆◆◆side江梨◆◆◆◆◆◆


「いい湯でした」


 もうみんな寝たみたいね。


『江梨、今日はお疲れ様。飲み物用意してあるぞ』

「鐘治さんこそお疲れ様。乾杯する?」

『もちろん』


『「乾杯」』



『二人とも、大きくなったな』

「そうね。赤ちゃんの颯、赤ちゃんの琴菜……それぞれ思い出があるわ」

『そうだな、いろいろな』



「親離れって、別に住むとか、お小遣いをせびらなくなるとかじゃなく、将来に対する覚悟を持つことなのね」

『まあ、二人とも法的には成人だ』



「私達も……覚悟をね」

『……うん』




『なあ、江梨……』


 鐘治さんの暖かい匂い


「ん…」




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。


 鐘治さん、江梨さんによる最後の一押しです。

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