第55話 六次の隔たり

蘭華らんか芳幸よしゆきさんのためにみんな集まってくれたんだから、あてにしてほしいよ。ん-と、あっそうだ!


【蘭華】ずっと前にバラエティ番組で見たんだけど、ロケ先で出会った人に友人を紹介してもらい、何人目で特定の芸人に辿り着くかって実験をやってたんです


 なにそれ?


【Kamal(カマール)】蘭華……それは、六次の隔たりっていうものじゃないかしら

【蘭華】そうそう、そんな名前で呼んでました。その時はやらせだと思ってたんですけど

【ネモ】ネモです。その“六次の隔たり”って何ですか?


【Kamal】六次の隔たりとは、理論的に確立しているものじゃないけど、今回の件でいうと“涼原すずはら 琴菜ことなって子を知ってる? 水泳をやってたんだけど”と尋ね、その人が知ってたらそこで完了、知らなければ、知ってそうな人を紹介してって、その人に尋ねる、を繰り返して、6人目すなわち六次で探し当てられることが多い、ということなの。あまり厳密に検証されてないみたいだけど、以外と成功してるみたい。そのバラエティ番組が“やらせ”かどうかはともかくね


 ♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪


 慈枝よしえから電話だ。


【芳幸】みんなゴメン、妹から電話がかかってきた。なるべく早く済ませるから

【蘭華】焦んなくてもいいよ


「慈枝、どうした?」

『出張に来てるんだけど、琴菜ちゃんらしき女の子を見かけた』

「なに……えーと数分間いいか?」

『うん』

「ありがとう。いま、ことちゃんの幼稚園の時の同級生や慈枝の同級生だったKamal Ramanujan(カマール ラマヌジャン)とテレビ会議している。話題はどうやってことちゃんを探そうか、ということだ。手がかりになると思うからしゃべって欲しい。今ミュートを解除してスピーカーホンにする」


【芳幸】妹の慈枝から、ことちゃんらしい人を見かけたと電話が入ってきた。スピーカーホンにして流すよ……よし、いいぞ

 

【芳幸】芳幸の妹の慈枝です。Kamal、こんにちは、他の皆さんは初めまして。出張先で琴菜ちゃんらしい女の子を見かけました。ただし、片側2車線道路の反対側だったので、確実ではないです。用務先に向かう途上で上司と一緒だったので追いかけることもできず、本人かどうか確認はできてません。詳しい場所は、兄に地図のスクショを送っておきます


【芳幸】琴菜ちゃんらしい子は、女の子3人、男の子1人の4人で歩いていました。全員が、よく似たデザインの制服らしい服を着ていましたから、同じ学校なんだと思います


【芳幸】琴菜ちゃんらしい子を含め、全員がスポーティーな感じで、やや大きめのバッグを持っていたので、運動系の部活では、と感じました。ただし、バットとか、竹刀とか、弓とかの長物は誰も持ってなかったです


【芳幸】私はここには何度か出張できてますが、彼女たちが着ていた制服らしい服は見たことがないので、市内や周辺の学校ではないと思います


【芳幸】ごめん、私、仕事に戻るから。Kamal、みんな、またね


 貴重な目撃情報ありがとう。地図を共有っと。


 慈枝……僕と違って、あれ以降、男性と付き合った経験はあるみたいだけど、これといって進展もなく、長続きもしなかったみたいだ。

 それはそれで不憫だよ、慈枝も男の子も、もちろん颯さんも。


【Kamal】さすがYoshie。バラエティ番組のよりずっと有益な情報だわ。さてみんなどう考える?


【ネモ】今地図を見ましたが、ちょっと遠くて、泊りがけでないといけない……さすがに親が許可してくれないですね。芳幸さん達も明日は仕事ですよね


【蘭華】水着もスイムキャップも折り畳めて全部バッグに入るよね

陽葵ひまり】地元じゃないとしたら、遠征とか合宿?

【ネモ】あいです。あそこの町のスポーツセンターでインハイの水泳競技が行われる予定です

【蘭華】雅樹まさきです。選手かマネージャーかという点だけど、琴菜ちゃんのことだから、選手だと思うな……かっこよく泳ぐんだろうな……イタタタ! どの口がそんなこと言うの!?


【Kamal】そこ、痴話喧嘩しない。

【陽葵】雅樹くんは、お父さんを蘭華に助けてもらったんでしょ、もっと感謝して誠実に接しなさい。蘭華も自信を持って


【Kamal】みんな前のめりしすぎ。地元じゃない学校の制服を着てインハイの水泳競技が行われる町にいたというだけよ……でも、当たってそうな気がするわ


 Kamalも前のめりだな。


【Kamal】よし、キーワードは“涼原 琴菜”、“高校3年生”、“おそらく水泳選手”でいいかな、芳幸さん?




 ――ちゃん。


 ――おにいちゃん。


【芳幸】ごめん。ぼーっとしてた。そのキーワードがいいと思う

【ネモ】どうしたの?蘭華達の喧嘩を見て、悲しくなった?

【蘭華】あ、ごめんなさい。ほら雅樹も謝って。うう、芳幸さん、ごめんなさい


【芳幸】いや、違う。気を使わせてしまって却って申し訳ない。あのね、探してたっていっても、むやみに街を歩いてただけなんだ。こんなの点と点がぶつかり合うのを期待するようなもので、自分でもこんなやり方じゃダメだってわかってたんだ。今、みんなが一生懸命考えてくれるのを聞いてて涙が出そうになって


【陽葵】わかる気はするけど、あの時のかっこいい芳幸さんは、簡単に泣かないはず……泣くのは琴菜ちゃんが見つかってからにして

【ネモ】私たちに、私たち女子高生のネットワークに頼って


【蘭華】じゃあ、みんな心当たりの人に当たってみて。動きがあったら、グループserch_harp に入れといてね

【ネモ】ネモ、諒解。藍も諒解

【陽葵】諒解

【Kamal】芳幸さん、私も当たってみるわ


【蘭華】じゃあ、解散ね




【Kamal】芳幸さん、まだいい?

【芳幸】いいよ?

【Kamal】Yoshieがね、あれ以来元気がなくなって。1か月ぐらいしたらもとに戻ったんだけど、陰がある感じは残ってる


 慈枝、はやてさんのことKamalに言ってなかったんだ。


【芳幸】慈枝が水臭いことをしてしまったようだね。兄として謝るよ。僕が琴菜ちゃんと仲良くなっていく過程で、慈枝は琴菜ちゃんの兄の颯さんという慈枝の一つ年下の人と仲良くなりかけてたんだ。本当のところどこまで進展しているか知らないけど。だから僕と同じなのかもしれない


【Kamal】Yoshie、相談してくれればよかったのに。“六次の隔たり”はともかく、話を聞いてあげることぐらいはできたのに……まあ、でも琴菜ちゃんらしき人を見つけたのはYoshieだから……うん、よろしく言っておいて。後、琴菜ちゃんと連絡が取れるようになったら、Yoshieとその颯さんのことも面倒を見てあげて欲しい


【芳幸】僕はお兄ちゃんだから当たり前だよ。じゃあ、いろいろありがとう


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。


 幼稚園からの幼馴染が、結婚ゴールインするのは、1~2%だそうです。

 蘭華ちゃんと雅樹君はどうなりますかね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る