第54話 インターハイへ◆side琴菜◆

『応援してるぞ、頑張ってこい』

「ありがとう、おじいちゃん。配信されるから見てね」

『その配信に芳幸よしゆきさんが気づいてくれるといいわね』

琴菜ことなごめんね。応援に行けなくて』

「遠いし、お母さん在宅ワークでしょ。大丈夫、私にはお守りがあるから」

鐘治かねはるさんも、ガンバレって言ったてよ』


「じゃあ、行ってきます」

『『『いってらっしゃい』』』


 よーくん褒めて。

 私インターハイの出場選手に選ばれたの。


 今日、競技会場となっているスポーツセンターというか合宿先に向かうため、出発。


『おはよ~琴菜』

「おはよう、杏子きょうこ


 同じくインターハイに出場する火野ひの 杏子きょうこと合流、私は自由形(クロール)、彼女は平泳ぎと出場種目が違うから、ライバルじゃない。


『ついに、だね』

「うん」

『後期課程の3年次だから泣いても笑ってもこれが最後、悔いの残らないように全力で挑もうね』


 よーくん、私が入学した高校は、私が入学後中高一貫校になって、高校に相当する部分は“後期課程”っていうの。


「そうだね。どうせなら勝ちたい」

『琴菜は芳幸さんに見つけてもらうんでしょ。だったら優勝しなきゃね』


 杏子は五つ年上のお兄ちゃんがいるので、私達ことを理解してくれて、応援してくれている。


「うん」

『がんばろうね、お互い』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『杏子、涼原すずはらさん、おはよう』


 駅には、やっぱりインターハイに出場する谷地やち とおる君が待っていてクール系の美人さんの杏子の表情が溶ける。

 理由は簡単、杏子は谷地君と付き合ってるから。


「杏子、なにその、にへら~は」

『彼氏に会ったんだもん、そんなの当たり前でしょ。琴菜だって芳幸さんの話をしてる時はよ』


 え?


『でも、それは大事にしなきゃね』


 電車に乗ると、バタフライに出る愛乃あいの 茉心まこがいて、4人となった私たちは4人掛けのクロスシートに収まる。


 杏子と谷地くんが向かい合わせに座って、チョコを食べたり、ティシュで口元を拭いたりしてる。


『なにあれ、夫婦?』


 あれ?

 向かいの、 茉心の座ってる席の背もたれの上から男の子が顔を出してこっちを見てる。幼稚園児ぐらいかな?


 目が合うとニコって笑う。

 私も、吸い込まるように笑う。


 かわいい子。

 よーくん、私のことをこんな風に感じてたのかな?


『どしたの、琴菜』

「茉心の背もたれの上から男の子がこっちを見てるよ」


 茉心が振り向くと、男の子はびっくりしたのか引っ込んじゃった。


「……茉心ってモテないんだね」

『ショタにモテなくてもいいわよ。琴菜はモテてるんじゃなくて、お姉ちゃんモード……疑似保護者でしょ』

「疑似保護者って……よーくんほどじゃないけどね」


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『――お出口は左側です。お降りの際は電車が止まってからドア横のボタンを押してください。電車とホームの間が空いているところがありますので、足下にご注意ください』


 電車が水泳競技が行われるスポーツセンターのある街に到着した。


「着いたわよ。ほら、みんな起きて」

『むむ…ああ、降りよう』



『あー、歯磨きセット忘れた。買ってくるから待ってて』

『ちょっと、しっかりしてよ』

『へへ、ゴメン』

『みんなゴメンね。ほら融、ついてってあげるから』


 杏子と谷地君がエキナカのドラッグストアに吸い込まれていった。

 相変わらず谷地くんはそそっかしいし、杏子ったら彼女というより奥さんだね。


 ん?


「ママ、ママ……」


 泣きそうな顔でうろうろしてる男の子がいる。


 あ、迷子。

 ヨシ!


『ちょっと琴菜、どこ行くの?』

「迷子、保護しないと」



『どうしたの。ママがいなくなったの?」

『……』


 安心してもらわないといけないんでしょ、よーくん。

 男の子の目を見つめる。


『あのね、ママがいなくなっちゃったの』

「そう、怖かったね。でも、もう大丈夫だよ」


 少しは安心してくれて……って、この子私に抱きついて……胸にほっぺを当ててきた。


 よーくん、私、結構のよ。今はお母さんよりも、女房面して谷地君と買い物をしてる杏子よりも大きいんだよ。

 よーくん以外には触らせたくないけど、ちっちゃい子を安心させるためだから許してね。


「お店の人に頼んで、ママを探してもらう?」

『うん』


 男の子(?)が抱き着いたまま離れない。


 ちょっと、力が緩んで、私のほうをみた。


「何くんていうの?」

とおる

「融くんね……あそこで買い物をしてる男の子も、融だよ。」

『お姉ちゃんのお友達?』

「そうだよ……じゃあ、お店に入って頼もうか?」


 …………


 放送してもらったら、融くんお母さんはすぐ見つかった。

 よかった。


『どうもありがとうございました』

『お姉ちゃんありがとう』


「お役にたてて幸いです」


 よーくん、私、上手にできたかな?


『やるじゃない。琴菜』

「よーくんはもっとやさしいよ」

『出たよ、高度なノロケ』


『よくやったって言いたいけど、今の時代、不審者と見られるリスクもあるからな、気を付けたほうがいいぜ』


 谷地君……そんなこと言っていいのかな?


「あの子、融くんっていうんだって」

『やっぱり!』

『な、何が“やっぱり!”だよ。杏子何とか言ってくれ』

『迷子にならないように、お姉さんが手を引いてあげる?』

『杏子まで!』


「まあ、行きましょ」


 駅前は片側2車線道路で、結構人通りがある。

 賑やかなところね。


『ね、競技会場のスポーツセンターに行ってみたいと思わない?』

『そうだね、中に入ってプールが見えるかどうかわからないけど、行ってみようか』

『「賛成!」』


 …………


 水泳競技会場となるスポーツセンターは本日定休日で中にはいることはできなかった。


『ここが……競技会場』

『宿からは……近いな』


 いつも、どんな大会でも、会場付近には緊張感が漂ってる。

 みんな、緊張からか口数が少ない。


 建物が緊張するはずないので、自分たちが感じている緊張がフィードバックされてるだけかも知れないけど。


 よーくん、私優勝できるようがんばるよ。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。


 唐突ですが、


 谷

 野 杏子

 野 雅樹(第45話)

 先 菊乃(第53話)


 四元素です。


 愛乃 茉心の“愛乃”は、セーラーヴィーナスからということで。

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