第49話 電話

 もうすぐ、ことちゃんが電話かけてくる。


♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪


 うん、来た。


「もしもし」

『よーくん?お誕生日おめでとう』

「ありがとう」


『あのね、お誕生日の歌を練習したの。聴いてくれる?』

「うん。聴かせてほしい」

『行くよ』


『Happy birthday to you,』

『Happy birthday to you,』

『Happy birthday, dear よーくん,』

『Happy birthday to you.』


「ありがとう。ことちゃん。歌上手だね」

『どういたしまして』



「お祭りやってた神社、いい所だね」

「うん。小さい時から遊びに行ってるの」

「木がいっぱいあって夏なんか涼しくていいんじゃない? ああ、蚊がいるか」

『遊びに行くときはママに虫よけスプレーしてもらうの』

「それなら安心だ。また、一緒に行こうか」

『うん、よーくんと一緒に行きたい』

「初詣とかもあるのかな……」



『今日ね、あの神社に、蘭華らんかちゃんと雅樹まさきくんが来たの』

「へーあの二人仲良くなれたのかな?」

『そうみたい』


『二人でお詣りしてたけど……』

「けど?」

『雅樹くんは“パパが早く治りますように”って』

「うん」

『蘭華ちゃんは……内緒だよ、“おとうさんが早く治りますように”って』


 ことちゃんは、僕の父母を“おとうさん”、“おかあさん”って呼んでるんだよな。


 アピールなんだと思う。


 ということは、蘭華ちゃんもアピール?


「そうか、蘭華ちゃんがそんなことを……雅樹くんは意味が分かってるのかな?」

『わかってないみたい』

「そうか……僕はことちゃんの気持ちがわかってるから安心していいよ。ありがとうって言いたいよ」

『うん』


「あ、そうだ、雅樹くんはもうことちゃんにちょっかいだしてこない?」

『ん-と、私のことなんか全然見ないで、蘭華ちゃんばっかり見てた』

「じゃ大丈夫かな?」


 僕とのが効いた……いや蘭華ちゃんに夢中なのかな?


『私も“よーくんが合格しますように”ってお詣りしてきたよ』

「ありがとう。うん、元気が出た。明日からも勉強頑張れるよ」

『本当?』

「実はちょっと疲れてたんだ。でもことちゃんの歌を聞いて、ことちゃんの声を聞いて疲れがなくなったよ。明日も頑張ろうってね」

『うん、無理しないでね」



「ことちゃんも今度は小学校だよね」

『うん』

「今の同級生たちとは一緒かな?」

『わかんない』

「家が近かったら、たぶん同じ小学校だよ」

『えーと、それなら蘭華ちゃん、陽葵ひまりちゃん、雅樹くんかな?」

「きっと他にも友達がいっぱいできるよ。そうだ、小学校になっても水泳続けるの?」

『うん。この前クロールをマスターしたから、今度は平泳ぎたって』

「そうか、しばらく、ことちゃんの水泳が見えないけど、僕はいつでもことちゃんのこと応援してるよ」

『うん、ありがとう。私もよーくんが見てると思って泳ぐ』

「うん、頑張れ。僕はことちゃんの味方だよ」



『このまえ、おうちに慈枝よしえさんが来て、お兄ちゃんに勉強を教えたでしょ』

「うん、確かそうだった」


 そのまえは、図書館だったから、少しは二人の距離が縮んだのか?


『その時に、はやて君”って言ってた』

「お、“さん”から“君”に変わったか。それは距離が縮んだな。ふ~ん、あの二人が」



 …………


 ことちゃんの声がだんだんトロンとしてきた。


「ことちゃん。眠くなった?」

『うん』

「そろそろ終わりにする?」


『……うん。今日はお話ししてくれてありがとう。楽しかった』

「僕も、ことちゃんとお話しできて楽しかった』

『またね、よーくん。おやすみなさい』

「またね、ことちゃん。おやすみ」




 喉が渇いたので、リビングに降りた。


芳幸よしゆき琴菜ことなちゃんと電話で話してたの?』

「うん」

『プールに行かなくなるんだからな、マメに電話で話してやった方がいいぞ』


『お兄ちゃん、今日もあまあまだったね。“ありがとう。元気が出たよ。明日から勉強頑張れるよ”とかとか』

「な、なぜそれを?」

『ああいう電話の時は、スピーカーホンはやめましょう」

『ほう、芳幸がそんな言葉を……どこで覚えた?』

「い、いや普通に感謝してるだけだよ」

『ふーん、この前の“近くにいてほしい。ことちゃんがいると頑張れる”もそうだけど、そういうセリフが自然に出てくるなんて、何か才能あるんじゃない。ドン・ファン的な?』

「失敬な! 颯さんに頼んどくよ、慈枝がそういうこと言って欲しいって言ってたって」

『そ、それはやめて。私にも立場ってものがあるから』


 お姉さんポジションってことか?

 そうか、勉強を教えてるうちにそうなったか。


美都莉みどりよ、芳幸は成長著しいんじゃないか。そういう言葉を使するのは』

隼人はやとさん何言ってるの。“美都莉さんは僕のシリウスだ”って言ったのは誰でしたっけ?』


 なんと…


『うわ、お父さんそんなこと言ったの。引くかも……』

『み、美都莉。それは内緒って約束したろう』

『そうでしたっけ?』

『うぐ、慈枝、男は一生懸命になるとそういう言葉を吐くんだよ。それは滑稽に見えるかもしれないけどちゃんと受け取ってやれよ』

『……うん』



『実際颯さんとはどうなの?どこまで進んでるの?』

『お母さん、颯君とはまだそういう関係じゃないよ』

『あら、隼人さん、芳幸、聞いた! “さん”から“君”に変化したし、“まだ”だって!』

『「ほほう~」』

『そこ、ハモらない。勉強教えてるだけだけっていう意味の“まだ”だよ』

『『「うんうん、があるんだな」』』

『だからー!!』




『――中心付近の最大風速は45メートル、中心から半径110キロの円内では、風速25メートル以上の暴風――』



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。


 また一組。

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