第48話 ノロケとアピール◆side琴菜◆

 今日は、慈枝よしえさんが来て、お兄ちゃんに勉強を教えてる。


 私も大きくなったら、よーくんに勉強を教えてもらうのかしら。

 教えてほしいな…



「お兄ちゃん、パパ、ママとお買い物行ってくるから。お留守番お願いね」

『みんなで行くのか?』

「うん、パパは荷物運びだって」

「わかった、いってらっしゃい。気を付けて』

『慈枝さん、留守番させちゃってごめんなさいね』

『いえいえ、おかあさん、大丈夫ですよ』


 慈枝さん、ママのことを“おかあさん”だって……ふーん……


 …………


買物をすませて、家に帰り着いたのは11時半だった。


「ママ、今日のお昼はなあに?」

『こーちゃん、今日は、パパが作るスペシャルな冷やし中華だ』

『あらあら、相変わらず慈枝さんがいると張り切るのね』


 パパ、またお兄ちゃんの邪魔をするの?


『そ、それは違うぞ。ちょっと自信作ができたからだ』

『冗談よ。スペシャルな冷やし中華楽しみにしてるわ。買った物は私達で片付けておくわね』


…………


『みんなお昼ご飯だそー』



『『『『「いただきます」』』』』


あ、おいしい。


『おとうさん、この冷やし中華おいしいです』


 やっぱりパパのことを“おとうさん”って呼ぶんだ……


『そうか! ありがとうよ。開発完了ということで、はやてに教えておくよ。二人で仲良く食べるんだぞ』


 二人が赤くなった。

 私もママに料理を習わなきゃ。


鐘治かねはるさん、颯に技術移転はともかく、冷やし中華の具でミョウガって珍しいんじゃない』

『うん、インターネットで見つけて、何度か試作していろいろ調整したんだ』

『ひょっとしてこの前のお留守番? 一人で留守番するなんて珍しいことを言いだしたと思えば、そういうことをやってたのね』


『慈枝さん、小憎たらしいことに洗い物も生ゴミも全部片づけてあって、念のいったことにミョウガの匂いも消してあったのよ。それで“やりきった感”満載の顔をしてるんだもん、かえって不自然よ』

『なんだ、ばれてたか』

『私を誰だと思ってるのよ。涼原すずはら 江梨えりよ』

『まあ、ちょっとうれしいかもな』


『(ヒソヒソ)颯君、いつの間にかノロケになってるね。いつもこの調子なの?』

『(ヒソヒソ)巧妙に切り替わります』


“さん”から“君”に代わった……ふーん……


『父さん、こんな冷やし中華初めてだけど、ミョウガが爽やかで、合うね』

『おう、ミョウガは日本が誇る香草ハーブだけど、俺が思うに使だ。これは、物忘れがひどくなるなんて迷信が絡んでると思うが、もっと活用をされるべきだ』


『颯君、おとうさんずいぶん力説してるけどミョウガが好きなの?』

『うん。父さんの実家の庭にはミョウガが自生してて、食べなれてたみたい』


 …………


『こーちゃん、颯達におやつと飲み物を持って行くから手伝って』

「はーい」


 ママは、レモンティー、私は今日買ったチーズカマンベールケーキを並べたお盆を持って、お兄ちゃんの部屋に向かった。


『颯君。そこ触っちゃダメ』

『慈枝さん、そんなこと言っても――』

『ほら、こっち――そう、上手』


 ママが固まってる。なんで?


 ママが固まってるので私がドアを開けた。

 お兄ちゃんは勉強机、慈枝さんはその横でストールに腰かけてる、何が不思議なの?


「お兄ちゃん、慈枝さん休憩にしたら」

『ありがとうございます。颯君、休憩にしましょう』

『はい』


『……どう、順調?』

『慈枝さんは、とっても教え方が上手だよ』

『颯君は優秀ですよ。でも間違った箇所というか箇所に着目してしまうことがあって…でもそれをアドバイスするとちゃんと聞いてくれますから、まじめだと思いますが、試験とかでは時間ロスに繋がります』


『さっきの“触っちゃダメ”はそれだったのね。颯がなにか不埒なことをしてるのかと思ったわ』

『か、母さん、俺そんなことしないよ』

『慈枝さん、颯が変なことをしたら大きな声を出してね。我慢しなくていいからね』

『おかあさん、大丈夫ですよ。颯君は紳士です』


『フフ、大丈夫そうね。で、志望校には受かりそう?』

『もうすぐ、模試があるんだ。そこで明らかになると思うけど、今はまだ……』

『颯君、もっと自信を持っていいわよ。この前の小テスト、満点で先生に褒められたんでしょ』


『おかあさん、実は私の同級生で、入学当時今の颯君より出来が良くなかった子がいるんです。それと比べれは颯君のほうが優秀です。あまり大っぴらにして良い比較ではないですけど』

『そう、安心したわ』

『油断は禁物ですけどね』


『颯、慈枝さんの期待に応えるよう頑張りなさい。慈枝さん、申し訳ないけど引き続きお願いしますね』

『はい、任せてください』


「お兄ちゃん、油断しちゃだめよ」

『わかったよ、こーちゃん』



 ……よーくんとお話ししたい。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



「ねえ、ママ、今日よーくんのお誕生日よね。よーくんに電話でお誕生日おめでとうしてあげたい」

『うん、電話はできるけど、平日は無理よ』

「どうして?学校は夏休みなんでしょ?」

『学校は夏休みだけど、芳幸よしゆきくんは、来年大学受験だから毎日こーちゃんが寝た後まで予備校で勉強してるそうよ』


『……邪魔しちゃいけないのね……でも、よーくんとお話ししたい』

『わかった、美登莉みどりさんに聞いておくわ。前に平日に頑張って土日は融通が利くようにするって言ってたから、多分26日の土曜日になら大丈夫なんじゃないかしら』

「お願いね、ママ」




『こーちゃん、芳幸くん25日の金曜日の夜の8時ならいいんだって』

「本当、ママありがとう。楽しみ」

『こーちゃん、電話でどんなお話しするの?』

「お誕生日の歌を歌うの」

『ああ、Happy birthday to youね。じゃあ、練習しないとね』

「うん」


 ママが、スマホでHappy birthday to youのカラオケを流して練習


「Happy birthday to you」


 …………


「うまく歌えたかな?」

『うん、上手よ。芳幸くん喜ぶと思うわ』




『――中心付近の最大風速は30メートル、中心から半径130キロの円内では、風速25メートル以上の暴風――』




◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。


 男を奮い立たせるのはいつだって女です。

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