第44話 おそろい◆side琴菜◆

 よーくん寝ちゃった。


 ちゅー、か……


 パパとママがちゅーしてるのを見たことがある。パパもママもすごく嬉しそうな顔をしてた。


 ちゅーしてほしいってお願いしてみようかな?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「おはよう、よーくん」

『んん……ことちゃんおはよう。もう起きるの?』

「まだ、起きないけど……」


「ね、よーくん」

『うん?』


 やっぱり、恥ずかしくて言い出せない。


「えっと、おっきいおばあちゃんはよーくんのひいおじいちゃんが好きで、よーくんのひいおじいちゃんもおっきいおばあちゃんのことが好きだったと思うの』

『ああ、多分そうだね。いきなり手を握られたのにはびっくりしたよ』


「よーくん、おっきいおばあちゃんに手を握られてうれしかったんじゃない?」

『そ、そんなことないよ。僕にはことちゃんがいるから』


 よーくん慌ててる。なんか可愛い。


『本当だよ』


 よーくんの腕の中……今はこれでいいや。



『今日、お祭りなんだよね』

「うん。毎年行ってるけど、今日は浴衣を着るの。初めてだから楽しみ」

『あ、だから、江梨えりさんが浴衣を持ってこいって言ってたんだ』

『僕、子供のころの浴衣しか持ってなくて、膝が出ちゃうからちょっと慌てちゃった』

「浴衣持ってきてないの?」

『いや、父さんが貸してくれた』

「じやあ、あとで見せっこしようか?」

『そうだね。ことちゃんの浴衣姿、楽しみだよ』



 浴衣の着付けは、私の部屋でママがやってくれた。


 お兄ちゃんが、“浴衣を着るときはパンツはかないんだ~”て言ってたから、ママに聞いたら、昔はそうだったけど今は違うんだって。

 お兄ちゃんったら、変なことばっかり言って……慈枝よしえさんに言いつけちゃうよ。



 着付けが終わったのでリビングに行ったら、浴衣姿のよーくんが待ってた。

 ……かっこいい。


『ことちゃん、ちょっと大人っぽい浴衣だね。良く似合ってて可愛いよ』

「本当。うれしい」

「よーくんの浴衣姿もかっこいいよ」


 私は、紺地に白い菊と赤い牡丹の模様の浴衣と、ティッシュで作るお花みたいなくしゃくしゃの結び目の赤い帯。


 よーくんの浴衣は、紺に縦じま、帯は赤。


『帯がおそろいだよ。ちょっと後ろを向いて』

「こう?」

『帯の結び目がティッシュで作る花みたいで、かわいいね』


 よーくんも同じこと考えてたんだ。


芳幸よしゆきくん、おもしろいたとえね。でも、フラワーボールって言うこともあるから、あながち間違ってないかもね』



『じゃ、私達も着替えてくるから待っててね』


「よーくん、ジュース飲みたい」

『待ってて』


 よーくんが入れてくれたジュースを飲んで、テレビをつけた。




『お待たせ、芳幸くん、こーちゃん』

『よーし、みんな、行こうか』

勝旦まさるさん、お財布忘れてるよ』

『ああ、すまん』


『あ、テレビ消しますね』


『南鳥島近海の北緯24度20分、東経148度40分には、1002hPaの熱帯低気圧が』

『電源断 ヨシ!』


『どこで覚えた?』

『バイト先で』

工場ラインに投入されたか?』


 ?




 お祭りのお囃子が聞こえてきた。

 よーくんは、お祭りをやってる神社の隣のドラッグストアの前で立ち止まってしまった。

 ?


『へーここにはAEDが置いてあるんですね』

『あら、芳幸くんAEDを知ってるの?』

『はい、自治会主催の普通救命講習会で習ったんです。母が自治会の役員をやっているのでにはよく駆り出されるんです』

『私達も受講済みよ』

『そうなんですか』

「よーくん、早くお祭り!」

『あー分かった』




 私達は、二人組で廻ることにした。


はやて、一緒に廻るわよ』

『え、おっきいおばあちゃんは、芳幸さんと廻ったら? のぼるさんそっくりなんでしょ』

『野暮なこと言わないの』


 お兄ちゃんったら……他は、よーくんと私、パパとママ、おじちゃんとおばあちゃんの組み合わせになった。




「ねえ、よーくん。わたあめ買って」

『うん。いいよ』


『毎度〜可愛い子が買ってくれて、うれしいよ』

「おじちゃん、ありがとう」



「よーくんは?」

『僕は、あっちで売ってる焼きそばにするよ。買ってくるからそこのベンチで待ってて』

「うん、待ってる」


 よーくん、焼きそばを買いに行った。



琴菜ことなちゃん。何してるの?』


 あ!


『お祭り一緒に廻ろ』


 イヤ、よーくんと一緒がいい。


『ことちゃん、お待たせ。ん、この子お友達?』

「同じクラスの男の子だけど、お友達じゃない」

『誰だお前……琴菜ちゃん、行こ』

「やめて、袖を引っ張らないで!」

「よーくん助けて!」


『君は、ことちゃんが好きなのか?』


 よーくん、大きくないけどすごい低い声を出してる。

 雅樹まさきくん、びっくりして引っ張るのをやめた。



『好きな子の』

『嫌がることは』

『しないんだよ』


 よーくんのこんな怖い顔見たことがない……


『くそっ』


 よかった。雅樹くん逃げてった。



「よーくんありがとう」

『ごめんね。一緒にいればよかった。あ、ちょっと立ってみて』


 いつもの優しい顔に戻った……よかった。


「ううん、よーくんのせいじゃないよ。あの男の子は雅樹くんっていうんだけど、いつもイジワルするの」


 よーくん、私の前にしゃがんで襟元を見たり、襟から袂を触ったりしている。

 雅樹くんみたいに乱暴な触り方じゃない。

 やっぱりよーくんは優しい。


『うん、浴衣は着崩れてない。よかった。それで、その雅樹くんはほかの子にもイジワルするの?』

「ううん。私だけ……イヤになっちゃう」


『それはね、雅樹くんはことちゃんが好きなんだよ』

「みんなそう言うけど、イジワルする人に好きになられても嬉しくないよ」

『そりゃそうだろうな。まあ、僕もことちゃんにちょっかい出されたらイヤだけどな』


 よーくん、ヤキモチ妬いてくれるの……なんかうれしい。



「ねえ、わたあめ食べてもいいよ」

『え、いいのか?』

「食べて」

「じゃあ、焼きそばいいぞ」


 やっぱり、イジワルしないよーくんがいい。


「ありがとう」


 うん、この焼きそばおいしい。

 よーくん、わたあめをちぎって食べてる。かぶりついてもいいのに…



『おいしい焼きそばだったね』

「うん、わたあめもおいしかった」



『あれ、なんか騒がしくないか?』

「うん」

『ちょっと行ってみようか』



『あなた、しっかりして、目を開けて!』


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。


 古来、浴衣とは文字通り風呂上りに着るもので、寝間着であったとか。

 だから下着は付かなかったということです。

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