第42話 お誕生会◆side琴菜◆

 よーくん、おばあちゃんやおっきいおばあちゃんにいろいろ聞かれて、恥ずかしくなってるみたい……


 ちょっとかわいそう。


 そうだ、連れ出してあげよう。

 確かよーくんもお花好きなんだよね。


「よーくん、庭で花壇作ってるの。見に行かない?」

『うん、行こう』

『皆さん、ことちゃんに誘われましたので、行ってきます』



「サンダルこれ使って」

『うん、ありがとうね、いろいろ聞かれて恥ずかしくなってたんだ』

「どういたしまして。私もちょっと恥ずかしかった。ここが私の花壇」

『うん。綺麗に雑草がとってあるね。えらいえらい』


 よーくんが、頭をなでてくれた。


『アサガオ、ヒマワリと、これはなんて花?』

「えーと、これは……」

『あ、札があるね。えーと“オオマツヨイグサ ”か。どんな花だろう?』

「これはパパが好きなんだって。夜咲くのよ。私も好き」

『だから今は蕾なんだ。ちょっと検索してみようか』


『うん、可憐な感じがする花だね』

「でしょー」

『いい花だろ』

『あ、鐘治かねはるさん』

『ほかの花は、特にこっちのヒマワリは太陽に全力だけど、オオマツヨイグサは月に静かに微笑む花だよ』


「パパはヒマワリ嫌いなの?」

『いや、違う。ヒマワリが嫌いなわけではないぞ。ヒマワリはヒマワリで元気いっぱいなところがいいぞ』


『まあ、それで、今考えると非モテの拗らせだがな、俺は江梨えりと知り合うまでは彼女ができたことがなかったから“ほとんどの花に顧みられない月”に共感を覚えてな、自分にとってのオオマツヨイグサは誰だろうと思ってたんだよ』


『それは、江梨さんだったと』

『うん』

『共感します。僕も、ことちゃんと知り合うまでは、彼女ができたことがありませんでしたから。ただし月や花になぞらえて考えたことはありませんでした。鐘治さんは詩人ですね』


『詩人は言い過ぎだけど、まあありがとう……これは江梨には内緒だそ、こーちゃんも言うなよ。江梨の性格というか勢いはヒマワリだな』

『はい、確かにそうですね』


 ママはいつも元気いっぱいだから、ヒマワリに似てるかも。


…………


「ご飯できたよ」


 今日は、人数が多いので普段の食卓だけでは足りなくて、ローテーブルにもフーカデンビーフの大皿、マカロニサラダ、ザワークラウト、ジャガイモのポタージュをよーくん、おじいちゃん、おばあちゃんが並べた。


「ロールパンとご飯、食べたいほうを言って」


 ご飯とかパンとか声が上がり、おっきいおばあちゃんがご飯をよそって、私がパンを用意する。


『ビールがほしい人は手をあげて……他の人は麦茶でいい? こーちゃんはオレンジジュースね』


 ママとパパは、飲み物を用意している。



「取りに来てくださーい」



 準備完了。


『『『『『『『「いただきます」』』』』』』』


 よーくん、いつもおいしそうに食べる。

 うれしいな。


「よーくん、おいしい?」

『うん、おいしいよ。ことちゃんの作ったのはどれ?』

『分業で作りましたから、全部に私と江梨、こーちゃんの手が入ってますよ』


『芳幸さんは一生これを食べることになるのか』


 え、どういうこと?


『こーちゃん、わからない? 芳幸さんは、ずっとこーちゃんが作るフーカデンビーフを食べるんじゃないの』


 お兄ちゃんったら……


『颯さん、気が早いです』

『いいじゃん予約済みにしておけば。こーちゃん結構モテるから誰かにとられるかもしれないよ』


『江梨、こーちゃんはそんなにモテるのか?』

『そうよお父さん。幼稚園で男の子たちの注目の的だそうよ』

「ママやめて。よーくんに嫌われちゃう」

『それは初耳だな。あ、僕はことちゃん嫌いになったりしないよ』

「男の子たちってみんな子どもなんだもん、興味ないよ」


『おい、と評価してるぞ』

『勝旦さん、女の子は年上にあこがれるものよ』

『そうか? うちは姉さん女房だけど?』

『だから人それぞれよ。私は勝旦さんがいいのよ』


『……江梨、俺たちゃどうすりゃいいんだ。こんな連中に挟まれて』

『“連中”なんて言わないの……でも、まあ口直しが欲しいかもね。とりあえずゴーヤの漬け物いっちゃう?』



『颯、この前見た時よりいい顔になってるけど、何かいいことあった?』


 おっきいおばあちゃん、するどい。


『いや、その……』


 お兄ちゃん、恥ずかしがってる。

 そういえば、今日図書館で慈枝よしえさんに勉強を教えてもらったのね。

 もうみんな知ってるんだから寄ってもらえばいいのに、ヘタレね。


『フフフ、なるほどね……幸嗣よしつぐさんに還って来てほしいわ』



『颯、ケーキ持ってきて。こーちゃんはプレゼントがあるんでしょ』


『『『『『『芳幸くん(さん)お誕生日おめでとう』』』』』』

「よーくん、お誕生日おめでとう」

『ありがとうございます』

『ここで古典的にはローソクに点火して吹き消すってことになるんだけど、ケーキにロウが垂れるといけないから、で切り分けて配っていい?』


 前に、パパの誕生日にケーキにロウが垂れちゃったんだよね。


『はい。そうですね。お願いします』


「いただきます」


 おいしいって言ってくれるかな?


「おいしいです」


 やった!


『それ、こーちゃんが作ったのよ』

『ことちゃん。このオレンジ色のドライフルーツは何?』

「そのドライフルーツはアプリコットよ。気に入ってもらえた?」

『甘くておいしいよ』

「良かった。喜んでくれてうれしい」


 今度はプレゼント。


「こっちはプレゼント」

『ありがとう、開けてもいい?』

「いいよ」

『あ、皮のブックカバーだ。いい手触りだね。匂いもいい』

「よーくんの部屋、本がいっぱいあったからこれがいいかなって思ったの」

『ありがとう、本を読むのがもっと楽しくなるよ。大事に使うよ』

「よかった」


 いつか、お揃いのブックカバーで本を読みたいな。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。


 “とりあえずゴーヤの漬け物”

 “とりあえず”ということは、次があるんですよね?江梨さん?鐘治さん?

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