第35話 よーくんはよーくん、でしょ?

 目が覚めた。


 左腕での腕枕は継続していたが、なんと右腕でことちゃんの肩を掴んで、抱き寄せてる!


 向かい合ってるから、胸が、顔が、唇が近い!!


 まず、右手を離して。


 うおぅ!


 ことちゃんの体が僕の方に倒れ込んで、胸同士が密着した!


 落ち着け!落ち着くんだ!!

 こういう時は、

 2、4、8、16、32、64、128、256、512、1024、2048、4096、8192、16384、32768、65536

 うん、いくらか落ち着いた。ありがとう2のべき乗たち。


『ううん……よーくん……おはよう……』

「おはよう、ことちゃん。その、顔が近すぎるんだけど」

『いやじゃないよ?』

「い、いや、僕のほうが……いやじゃないけど……」


 ことちゃんの手が頬に触れた。

 え?何??


『ひげが生えてるよ。ひげ剃り持ってきた?』

「母さんが作ったお泊りセットだからわからない……昨日剃ってないから、剃りたいかな」

『デラさんみたいに、早く伸びたの?』

「デラさん? ああ、売れないけどそうかもね」

『フフ、持ってなかったらコンビニ連れてってあげる』

「うん、よろしくね」



『……ねえ、写真撮って』

「えっ?」

『撮って』


 ことちゃんに頭をあげてもらって、スマホを取り、


「じゃ、撮るよ」


 パジャマで腕枕、ことちゃんドヤ顔、onベッド……これは……話に聞くニャンニャン事件だよ!

 パソコンに移して、暗号化しておこう。厳重に!


『よーくん?』

「ああ、ごめん。この写真は、ほかの人に見られたら大変だから印刷できないよ」

『くれないの?』

「ことちゃんが大きくなって、スマホかパソコンを買ってもらったらあげるよ」

『うん。忘れないようによーく見ておくね』

「写真撮ったのも内緒だよ」



「ことちゃんは大きくなったら何になりたいの?」

『まだわからない』

「ことちゃんは、絵を描くのも上手だし、水泳もできるし、ゆっくり決めていいと思う。応援するよ」

『よーくんのお嫁さんになっちゃダメ?』

「そ、それはうれしいけど……その……」

『おいしい料理が作れるようになるまで待ってくれるんでしょ』


 それ覚えてたんだ。うれしいけど……もちろん、その場しのぎで言ったわけじゃなかったけど……実現するのかな?


「すごく年が離れてるよ。ことちゃんが大人になった時、僕おじさんだよ?」


 言いたくはないけど、現実だから。


『?』

『……よーくんはよーくん、でしょ?』

「うん……ありがとう」


 もう少し大きくなると変わるかもしれないけど……できれば心変わりしないで欲しい……



芳幸よしゆきくん、こーちゃん、ご飯できたわよ』



『おはよー』

鐘治かねはるさん、江梨えりさん、はやてさん、おはようございます」

『『『二人共おはよ』』』


『よーくん、ここに座って』

『あれ、ここ、ことちゃんの席じゃないの?』

『私はこっち』


 向かいに来ましたか。


『フフ、差し向かい。ほら颯、二人の間に割り込まないの』

『いや、割り込んだわけじゃ……』

『颯、こっちに来い。NTRされた者同士仲よくしようぜ』

『よーくん、NTRってなに?』

『鐘治さん、こーちゃんの前でなんてことを言うの!こーちゃん、まだ知らなくていいのよ』

『えー知りたい』


 ことちゃん納得してないみたいだし……さて、何て言いますか……


「あのね、NTRって好きな人をとっちゃうことだけど、悪い言葉だから使っちゃだめだよ」

『……うん、使わない。パパも使わないでね』


 よかった。


『ごめんね~芳幸くん、フォローしてもらっちゃって。ほら鐘治さん』

『うう、すまん』

「大丈夫ですよ」


『芳幸さん真面目っすね。普通“知らなくていい”とかごまかすんじゃないっすか』

「いや、かえって“余計なことを言うな”なんて言われたりもするから、いいんだか、悪いんだか」


『はい、よーくんごはん』

「ありがとう。お味噌汁は熱いから僕が運ぶよ。ことちゃんは他のおかずをお願い」

『うん、わかった』

『芳幸くん、主夫しゅたるおっとしなくていいのよ』

「いや、ことちゃんが働いてますから」

『フフ。じゃあ、二人の分はよろしくね。ほら、鐘治さん、颯運んで』

『はい〜』


 ごめん。鐘治さん、颯さん、流れ弾が飛んでった。


『よーくん、おいしい?』

「うん、サツマイモのお味噌汁おいしいよ。あと、この醤油漬けがご飯によく合うよ」

『よかった。その葉……それ私が作ったの』

「そっか。ごはんが進むよ」

『おかわりしたくなったら言ってね』


『あれは……割り込めないな』




 ごはんが終わって、食卓には半分に切った、大きめの柑橘がだされている。

 これは、文旦ブンタンかな?


「これ、何て果物ですか?」

『メロゴールドっていって、文旦の一種とグレープフルーツをかけたものだそうよ』

「え、グレープフルーツ……苦かったりしない?」

『メロゴールドは苦くないよ。こーちゃん大好きだよね』

『よーくん、苦いの嫌いなの?』


 ことちゃんには余り知られたくないが……


「実はちょっと苦手で……」

『わかった。グレープフルーツは出しちゃいけないのね』


 ?


『芳幸くん、騙されたと思って食べてみて』

「はい……いただきます」


『よーくん、我慢しなくていいからね?』


 あ、おいしい。


「おいしいです」

『でしょー』

「グレープフルーツの苦さだけがうまく抜けたんだ。大したものです」


『よーくん、グレープフルーツはいいけど、ゴーヤは体にいいからちゃんと食べてね』

「う、努力するよ」


 誰かの口真似?


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。


 私はゴーヤも苦手です。

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