第30話 みはらしの丘◆side琴菜◆

『ここからは、四組のペアに分かれて、別々のルートで丘の頂上を目指しましょう』

『一位のペアは晩御飯がゴージャスになるかも』


「ねえ、よーくん。晩御飯はどこで食べるの?」

『ファミリーレストランだから、そんなにゴージャスなメニューってないぞ』


『組み分けは、芳幸よしゆきくん・こーちゃんペア、はやて慈枝よしえさんペア、武川たけかわシニアペア、そして私たち涼原すずはらシニアペア』


『母さんたち、なんでこんなことを言い出したんだろう?』


 お兄ちゃんと慈枝さんを仲良しにするため……さっきママとおかあさんが話してたのはこれね。

 でも、私が言っていいのかな?


『ことちゃん一位になりたい?』

「よーくんと一緒ならいいよ」

『うん、じゃあ一緒に楽しもうね』


『じゃあ、よーいどん』

『踏み出せば無限にときめきが拡がるわよ』


『あの掛け声はなんだろう?』



『坂道だから手を繋ご』

「うん」



『ネモフィラって、一つ一つの花は意外と地味なんだね』

「えー、かわいい花よ」


 お花に負けないようにしなきゃ。


『ことちゃん。どんどん写真を撮っていくからね。撮ってほしいときは声をかけて』



『ことちゃん、しゃがむときは足を閉じて』

「どうしたの?」

『その、パンツ見えてるから』

「……よーくんのエッチ!」

『ち、違うよ、パンツが見えるのは恥ずかしいことなんだよ』


 幼稚園で、ミニスカートをはいてる子のパンツが見えることがある。

 男の子たちはパンツが見えた見えたって騒ぐだけで、よーくんみたいに教えてあげない。


 やっぱりよーくんは優しい。


「ありがとう」

『え、何が?』



「何枚写真撮ったの?」

『いっぱい撮ったよ。今度、アルバムを作ってプレゼントするよ』

「ほんとに、ありがとう」


 よーくんの手に力が入った?


『あ、ごめん、痛かった?』

「大丈夫だよ。ギュってされるとちょっとうれしい」


『こんなにきれいなところだとは知らなかったよ……あのね、僕ここをことちゃんと歩けてうれしい』


『僕は、ことちゃんのことが好きだよ』


 うれしい。

 お買い物もラブラブ傘もよかった。けど、ここはチューリップも菜の花もネモフィラもすごくきれいで……連れてきてくれてうれしい。


「私もよーくんが好きよ」


 ちょっと立ち止まって、よーくんの腕にぽっぺをくっつけた。

 暖かくて気持ちいい。



『お、颯さんと慈枝はもう着いてるね。僕たちも行こうか』


 そうだ、お兄ちゃん、ちゃんとできたの?



『一着は、颯・慈枝さんペアでした』

『おめでとう、颯さん、慈枝。ドンドンパフパフ!』

『ありがとうございます。慈枝さんのおかげです』

『この二人は帰りのファミレスでデザート一品追加だよ。なんでも注文してくれ』


 お兄ちゃんと慈枝さんはお話してる。仲良くなったみたい。よかった。



 私たちは見晴らしの丘の次に沢田湧水ネイチャーハウスという所に行った。


 トンボが二匹くっついて飛んでる写真が不思議でよーくんに聞いたら“仲良しだから一緒に飛んでる”って教えてくれた。


 仲良しのトンボはいつも一緒にいるんだ。ちょっとうらやましい。



 森の中を歩いて、レイクサイドカフェに到着。


「よーくん、ブルーベリーアイスおいしい?」

『うんおいしい。ことちゃんのネモフィラアイスもおいしそうだね』

「おいしいよ」


『(ヒソヒソ)あのさ、ことちゃん』

「(ヒソヒソ)何?」


『(ヒソヒソ)僕が鐘治さんや江梨さんと話すときとか、年上の人と話すときには“敬語”っていって丁寧な言葉を使うんだ』

「(ヒソヒソ)うん」

『(ヒソヒソ)初めてことちゃんちに行った日に、ことちゃんと颯さんに駅まで迎えに来てもらったじゃない。あの時、僕との間は敬語はやめようって言って、普通の言葉で話すようになったんだけど、今日の颯さんは敬語ばっかり使ってる』

「(ヒソヒソ)うん」

『(ヒソヒソ)何か緊張してるのかな。鐘治さんたちに叱られたとか』


 お兄ちゃんと慈枝さんが話をしてる。

 お兄ちゃん相変わらずうれしそうだし、慈枝さんもずっとニコニコしてる。


 ヨシ!


「(ヒソヒソ)あのね、まだ内緒だよ」

『(ヒソヒソ)うん?』

「(ヒソヒソ)お兄ちゃん、慈枝さんが好きになったみたい」

『え!』

「(ヒソヒソ)大きな声出さないで。お兄ちゃん、ネモフィラの所で写真を撮らせてもらってた」

『(ヒソヒソ)そんなことが……なるほど』


「(ヒソヒソ)ママたちもわかってたみたい」

『(ヒソヒソ)だから、二人にするために別々に見晴らしの丘を登ったのか』

「(ヒソヒソ)パパはちょっと邪魔しちゃったみたいだけど」

『(ヒソヒソ)鐘治さんが……ああ、あれ』


「(ヒソヒソ)よーくん、どうするの?」


 まさか反対しないよね。


『(ヒソヒソ)僕は“お兄ちゃん”だから妹にいいことがあったらうれしいよ。颯さんがいい人だって知ってるし。颯さんは琴菜ちゃんと僕が仲良しになっても反対しなかっただろ。同じだよ』


 よかった。


『(ヒソヒソ)そっかー。颯さんがね……今もあの二人いい雰囲気だね』

「(ヒソヒソ)Alyssa(アリッサ)達みたい」

『(ヒソヒソ)ことちゃんは仲良しを見慣れてるんだ。だからわかったんだね』

「(ヒソヒソ)内緒だよ」

『(ヒソヒソ)うん、わかった。そうかそうか、あの人見知りだった慈枝がね……』


 慈枝さん人見知りだったの?

 わかるような気がする。私もよーくんと知り合うまでは大人の男の人が苦手だったし。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ここで、夕食にしましょう」


『ことちゃん何食べたい?』

「パスタ!」


 よーくんがパスタのページを探してくれた。


「これは?」

『これは辛いからやめといたほうがいいよ』

「じゃあ、カルボラーナある?」

『たっぷりペコリーノチーズのカルボラーナにしようか。ドリンクバー付ける?』

「うん。よーくんは?」

『僕はきのことチキンのスパゲッティとドリンクバーにしよう』

『うん』

『こーちゃん、全部食べられる?』

『残ったら、僕が食べますよ』

『俺の役が芳幸さんにとられちゃったみたいだね』


 お兄ちゃんは、慈枝さんの相手をしてて。



『ことちゃん。もうすぐ誕生日じゃない。だからプレゼントを持ってきたんだ』

「え、ありがとう。開けていい?」

『うん』

「あ、ポシェットだ」

『何が欲しいか聞かなかったんだけど、大丈夫だった?』

「うれしい。大事にするね」


『芳幸くん、ありがとね。こーちゃん、良かったわね』


 今日から使いたい。


「あのね、今日から使いたい」

『はい、じゃ、包み紙と箱は捨てるね』


 あ、可愛い包み紙……


「待って、ママ。包み紙と箱はママが持ってて」

『持って帰るのね』

「うん」


 写真ができるの楽しみ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。

 ブーストがかかってしまい2,700文字以上も書いてしまいました。

 なお、作中に登場するフードは、2023年春時点のメニューの中からストーリーの都合で選択しており、必ずあるとは限らない点をご了承ください。

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