第27話 ラブラブ傘◆side琴菜◆

 よーくんは小松菜ミックス、私はバナナミルクにした。


『おいしいね』

「うん。ねえ、今度行く公園ってなんていうところなの」

『国営ひたち海浜公園っていうんだ』


『お昼は、公園の中で食べることになるかな』

「どんなところで食べるの?」

『うん、屋台というかキッチンカーもいっぱい来てるしカフェもあるね』

「アイスあるかな?」

『ブルーベリーアイスとかネモフィラアイスというのがあるよ。楽しみにしてて』

「うん」



「よーくん、あいちゃんって覚えてる?」

『……藍ちゃんって、この前の迷子? うん、覚えてるよ』

「年少さんに入ってきたの」

『幼稚園の? この前はよくわからなかったけどことちゃんの二つ下なんだ』


「藍ちゃんは、ネモちゃんの従妹なんだって」

『ああ、あのネモちゃん』

「それでね、毎日年長さんの部屋に来るんだけど、ネモちゃんのところにはいかなくて私のほうばっかり、おねえちゃんおねえちゃんって来るの。大変よ」

『それはね、助けてくれたのがうれしかったんだよ。ちっちゃい子のお兄ちゃん、お姉ちゃんってそんなもんだよ』

「ちょっとはうれしいんだけどね」



琴菜ことなちゃん』

『おねえちゃん!』


 ネモちゃんと藍ちゃんだ。こんなところで会うなんてびっくり。


『あ、おにいちゃん。この前ありがと』

『琴菜ちゃんと一緒に藍を助けてくれた人ですね、従姉の斉木さいき ネモです。ありがとうございました』

『どういたしまして……ことちゃん、挨拶していい?』

「うん」

『こんにちは、僕は武川たけかわ 芳幸よしゆきです。ことちゃんと仲良しだよ』

蘭華らんかちゃんが言ってた琴菜ちゃんのカレシってこの人かー』


 よーくん、また、赤い顔してる。


『かっこいい』

『藍もそう思う。芳幸さんってかっこいいよね』


 藍ちゃん、ネモちゃん、何言ってるの!


「私のよーくんをどうする気! ネモちゃんはれいくんでしょ!」

『玲くんはカレシじゃないよ』

「そろそろ好きになってあげたら。玲くんいつもネモちゃんのことを見てるよ」


 だからネモちゃんも玲くんだけ見てあげて。よーくんじゃなくて。


『フフ。あ、パパが呼んでる。琴菜ちゃん、よーくんバイバイ』

「よーくんって言っちゃダメ!」

『ダメなの?』

「他の呼び方して」

『じゃあ、芳幸さんバイバイ』

『バイバイ』



「よーくん、ネモちゃんは玲くんをもてあそぶ悪い女なのよ、ダメだからね」

『どこでそんな言葉を覚えた? 僕にはことちゃんがいるから』

「うん」


『じゃあ、そろそろ行こうか』

「うん。おいしかった」



『ありゃりゃ、雨が降ってる』

「降ってるね」


 どうしよう。


『ママに車で迎えに来てもらう?』


 そうだ!


「ラブラブ傘やってみたい」

『ラブラブ傘って何?』

「よーくんが傘を持って、私がその中に入るの」

『相合傘のこと? そんな言い方するの?』


 言っちゃった。“ラブラブ”って。


「うん」


『うん、わかったよ。傘はあそこに売ってる。それなりに大きい傘が必要だな』


 OKみたい。よかった。

 これで、よーくんと私はラブラブ。


「お金大丈夫?」

『ことちゃんが安くていい服を選んでくれたから傘ぐらいOKだよ』

「よかった」


 よーくんが傘を広げた。

 やっぱ、大人の傘は幼稚園で買う傘とは違って大きいね。


 この傘で一緒に……


「お邪魔します」


『うーんと位置はこんな感じか。よし、出発だね』


 雨の街に歩き出した。


「ちょっとドキドキするね。これがラブラブ傘か~」

『僕もドキドキしてるよ』

「よーくん、ラブラブ傘初めて?」

『初めてじゃないけど、あきらとか、母さんとだ』

「女の子は私が初めて?」

『うん』


 よかった。



『ことちゃん、雨が当たってない?』

「大丈夫だよ」


「よーくんこそ、傘が頭に当たってるんじゃない?」

『うん、こうやって低く差さないとことちゃんが濡れちゃうから。あ、別に痛いとかないよ』

「無理しないでね」



『Yoshiyuki!』

『おう、Taoufik(タウフィク)』


 誰、よーくんの友達?


『そちらは例の子か? こんにちは、僕はTaoufik Boutella(タウフィク ブテラ)だよ。Yoshiyukiとは友達だよ』


 前に、よーくんが話してたアフリカから来た人ね。

 一緒にいる女の人が気になる……


「こんにちは、鈴原すずはら 琴菜ことなです。よーくんとはラブラブです」

『Yoshiyuki、いつの間にかずいぶん進んだな』

『ほんとにいつの間にかだよ。ところで一緒にいる人は』


 よーくん、また女の子を見てる!


『ああ、彼女は、宇都宮うつのみや 椿つばきさん。この辺の生まれじゃなかったかな』

『お久しぶり、芳幸くん。幼稚園一緒だったでしょ』


 あ!


 ●●●●●●●●●●


 幼稚園の時の写真。園児服のよーくんは可愛いけど、女の子と手をつないでる。


「この子誰?」

『この子…外国に引っ越したんじゃなかったかしら。名前は憶えていないわ。』


 ●●●●●●●●●●


『幼稚園のとき、外国に引っ越した女の子がいたのは覚えてるけど、すいません、名前も顔も覚えてないです』

『えーショック、芳幸くんに会えるのを楽しみに帰国したのに』

『えっと、一時帰国じゃないんですね。お帰りなさいというべきですか』


 よーくん!


『琴菜ちゃんだっけ、“芳幸くん”って呼んでもいいのかしら?』


 “よーくん”はダメだけど“芳幸くん”なら。


「……うん」


『ことちゃん、ちゃんと挨拶して。僕なら大丈夫だから』


「鈴原 琴菜です。幼稚園の年長さんだけど、よーくんにはご飯作ってあげたし、一緒に寝たこともある」

『あらあら、ラブコメお約束の展開じゃないけど、幼馴染が入り込む余地はなさそうね。大丈夫よ、琴菜ちゃん』


『あの、お二人の関係は?』

『それは……今度な』

『ふーん。恋バナ以外だと高屋敷たかやしきさんにどやされるぞ』

『茶化すな』


『この子を送っていかなきゃいけないから、またな』

『うん、またな』

『琴菜ちゃん。またね』

「宇都宮さん……またね」



「よーくん」

『ああ、安心してもいいと思うぞ。多分さっきの女の子はTaoufikのことが好きなんだと思う』

「よーくんに興味があるみたいだった!」

『幼馴染だし、からかっただけだと思うぞ。まあ、Taoufikから教えてもらったら、ことちゃんにも話すよ』


『ほら、おうちについたぞ』


『おかえり、芳幸くん、こーちゃん。お昼ご飯できてるわよ』


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。


 口に出すと遭う……引き寄せてしまうんですかね?

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