第23話 涼原家再び
『だから、よーくんのお味噌汁すっごくおいしかったの』
『どんな具が入ってたの?』
『昆布、大根、小松菜とネギよね、よーくん』
「冷蔵庫にあったありあわせのもので……作り方は母に習ったまんまのやり方ですし、その、たまに作るのは毎日作るのと比べたら全然どうということはないです」
『
『
颯さん、ごめん。流れ弾が飛んで行った。
『いや、それは……』
『こーちゃん、寝るときは誰と寝たの?』
『よーくんと一緒に寝たの』
予想通り、
「ことちゃんが希望したのと、父母から初めて来た家で一番頼りたいと思う人じゃない人と一緒に寝るのは不安になるだけ、との忠告がありまして」
『……』
鐘治さん、男親が黙っちゃていいのか?
『手出ししてないだろうな!』
「腕枕はしました」
『本当か!』
前言撤回。鐘治さんは男親だった。
『こーちゃん、エッチなことされてない? ちゅーとか』
『エッチなこともちゅーもされてないよ。パパ、よーくんを信じてあげて!』
「実は僕のほうが先に寝落ちしちゃいまして」
『芳幸さんのほうが添い寝してもらったんですね』
颯さん、ナイスフォロー!
「そうです。だから、そういうことのやりようがなかった、ということで」
「朝はアラームで二人同時に目が覚めて、朝ごはんの支度を手伝ってくれました」
『あら、こーちゃんどんな手伝いをしたの?』
『テーブルを拭いて、ウインナーをチンして料理を運んだの。えらいでしょ』
「とっても助かりました」
『“初めての共同作業”だったのかな?』
江梨さん、江梨さん。鐘治さんに再びスイッチが入ってしまいます。
「
『慈枝さんにスピーチを頼んだの』
ことちゃんまで、鐘治さんを刺激しないで。
あれ、何にも言わない?
『よーくん、迷子の
ことちゃんが、藍ちゃんの手を握り続けたこと、藍ちゃんを励ましていたことを交えてざっと説明した。
沈黙……なんで?
『……颯、迷子を保護したことあるか?』
『いや、ない、というか出くわしたことがないよ』
「僕は2回目ですが、ことちゃんが藍ちゃんを安心させてくれたからうまくいったんだと思います。前回は今回ほどはうまくいきませんでした」
『私は年少さんの子が泣いていたとき先生が手を握っていたのを思い出して』
『どうして保護しようと思ったのかね。今の時代不審者と見られるリスクもあるのに』
「実は何も考えてなくて、泣き声に反応したというか、僕もことちゃんも保護しようと思ったからというか」
『二人とも良いことをしたよ』
『えらかったわね。芳幸さん、琴菜』
『すごいよ、芳幸さん』
実は、褒められたり、感謝されるのが照れくさくてちょっと苦手なんだけど、今回はことちゃんも褒められているので、素直に受けておこう。
「ありがとうございます」
『ありがとうみんな』
「ことちゃん」
『うん。よーくんにこれ買ってもらったの』
ことちゃんが包み紙からソフトペンケースを取り出した。
『こーちゃん買ってもらったのか。芳幸くん、すまんね』
『なんで名前を呼んだだけで伝わるんだろう? 芳幸さん、こういうキャラクター商品って版権がかかってるから値が張るんじゃないの?』
『こーちゃん、ありがとうって言った?』
『言ったよ』
「ちゃんとありがとうされてますよ。値段については……僕が使っているのは百均のペンケースですから比較できませんが、ことちゃんが喜んでくれると僕もうれしいので、全然大丈夫ですよ」
『芳幸さんは、根っからの“お兄ちゃん”だね』
「そろそろお暇させていただきます」
『あら、夜までいても構わないのよ』
『よーくん、帰っちゃわないで』
ことちゃんが泣きそうな顔になってる。心が痛い。
「ゴメンね。まだ宿題が残ってて」
『ねえママ、よーくんを送っていきたい』
「ことちゃんありがたいけど……その、近いとはいえことちゃんを駅から一人で帰すわけにいきませんし……」
『颯、一緒に行って駅前のスーパーで買い物してきて。買ってくるものはメールしとく』
『帰りはこーちゃんをエスコートしろと』
『よくできました。おりこうさんね』
…………
「ことちゃん。カチューシャよく似合うね」
『ありがとう。昨日プールの前にママに買ってもらったの』
『ことちゃんは最近おしゃれに目覚めたみたいで』
「ことちゃんはもともとおしゃれだったよ。プールでも他の子がジャージとかで来てるのに、レースのついたスカートで来てるとか」
『母が可愛い系のファッションが好きでして』
「将来が楽しみ、かな」
『そうっすね』
駅についた。名残惜しいけど、
『あれ、琴菜ちゃんじゃない』
ことちゃんの同級生かな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ご訪問ありがとうございます。
二人は息があってきました。
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