第22話 日曜日の朝

♫♫♫♫♫♫♫♫


「う、ことちゃんおはよう」

「僕はこれから朝ごはん作るからまだ寝てていいよ」


『おはよう……よーくんがご飯を作るのを見たいから起きる』



『昆布は何に使うの?』

「味噌汁に使うよ。細く切った昆布を入れると、ダシも出るし、具にもなるんだ」

『他に具は何を入れるの?』

「大根、小松菜、ネギだね」



『一緒に作る』


 包丁は、扱わせないほうがいいかな。


「ん-と、じゃあ、テーブルを拭いてもらえる?」

『うん』

「ふきんはこれね」


 よし、一品追加。確か、ウインナーがあったな。ことちゃんに作ってもらおう。


「おーきれいになってるね。ありがとう」

『どういたしまして。次は?』

「ウインナーをチンしてもらえる」

『うん』



『お兄ちゃん、琴菜ことなちゃんおはよう』

慈枝よしえ、おはよう。できてるぞ」

『慈枝さん、おはようございます』



『『「いただきます」』』


『琴菜ちゃんは何か作ったの?』

『ウインナーをチンしたの』

「あと、テーブルを拭いたり、色々運んでもらったんだ」

「ふーん、“分担”したのね」


 また、なんか言いたそうだな。



『『「ごちそうさま」』』

『よーくんの味噌汁おいしかった』

「うれしいよ。ありがとう」

『“初めての共同作業”、おいしくいただきました』

『よーくん、初めての共同作業って?』

「結婚式のときのケーキカットのことを初めての共同作業っていうんだ。慈枝、からかうんなら食ったものを返せ」

『え~望まないの?』

「望む望まないでなくて!」

『慈枝さん、スピーチお願いします』


 ことちゃん、“スピーチ”なんて言葉をどこで覚えた?


『ほら、琴菜ちゃんのほうが大人だよ』

「……琴菜、お前もか」

『それ、カエサル? あ、琴菜ちゃん、気にしなくていいよ。お兄ちゃん頭に血が回ってないみたい』

「うっさい!こっちは10時ぐらいに出かける。ことちゃんを送っていかなきゃ」

『わかった。私はKamal(カマール)の家に行ってくるから』



「洗い物をするから、ことちゃんはテレビでも見てて。もうすぐ日朝アニメじゃないかな」

『洗い物までが料理だから。手伝う』


 5歳児が言うこと?


「ありがとう」


 洗いものを終えてソファでテレビをみた。


『また、もたれていい?』

「いいよ」

『ヒューヒュー』


 うっさい!



「じゃあ、そろそろ出かけようか」

『お兄ちゃん。バッグ持ってあげたら』

「そうだな。ほら、ことちゃん」

『うん、ありがとう』


「じゃあ、ことちゃんを送ってくるよ。慈枝、お昼は?」

『気を付けてね。お昼はKamalたちと食べるよ。琴菜ちゃん、また来てね』

『慈枝さん。ごちそうさまでした。また来ます』



「手、繋ぐか」

『うん』



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



『――です。お出口は左側です。お降りの際は電車が止まってからドア横のボタンを――』


「着いた」

『あ、ことちゃん止まってから立って』



『よーくん。あそこ寄ってこ』


 ことちゃんが指さしたのは、駅前のスーパーを中心としたショッピングモール。


「うん。いいよ」



 ショッピングモール内の雑貨屋さんに入った。

 そういえば、こういうところに来るのも久しぶりだ。


『可愛いものがいっぱいある。あ、よーくんこれ欲しい』


 ことちゃんが手に持ってるのは、アニメのキャラクターがプリントされたソフトペンケース。

 なんだ、後片付けの手伝いなんかさせずに、見せてあげればよかったかな。


「可愛いね。もちろん、いいよ」

『ありがとう』

「ママに、買ってもらったって言ってね」

『うん』



『ママー!』


 お店から出たところで、女の子の声に気が付いた。

 ことちゃんよりちっちゃいかな。


『よーくん大変。女の子が泣いてる』

「ほんとだ。迷子かな?」

『「助けてあげよ」』


 定石通りしゃがんで、


「どうしたの、ママがいなくなっちゃったの?」


 泣き止んだけど不安そうな顔になった。そりゃそうだ。


「怖いよね。でも僕とお姉ちゃんが一緒にいるから大丈夫だよ!」


 その子はことちゃんの顔を見てやっと警戒を解いてくれたみたい。

 これ僕一人だとダメだったかもしれない。


『ママがいなくなっちゃったの』


 やっぱり迷子だ。


『ママとお買い物に来たの?』

『うん』

『そう、怖かったね。でももう大丈夫』


 おっと、ハグした。

 “お兄ちゃんモード”じゃなくて“お姉ちゃんモード”だな。


「どこのお店でお買い物したの?」

『ここ』


 僕たちが買い物をしてた雑貨屋さんの隣のドラッグストアだ。


「じゃあね、お店の人にママを探してもらおっか?」

『うん』


『一緒に行こ!』


 ことちゃんが、その子と手を繋いで、お店に入っていく。

 全館放送があればいいんだけど……


『私は琴菜よ。何ちゃんって言うの?』

『……あいちゃん』

「藍ちゃんね。藍ちゃんには私とよーくんが付いてるよ」


 お店の人に、迷子らしいこと、名前は藍であることを告げると、全館放送してくれるとのこと。よかった。


 レジカウンターの内側で僕とことちゃんでその子をはさむように座る。


 川の字?


 ことちゃんはずっと藍ちゃんの手を握ってる。


「藍ちゃん、僕は芳幸よしゆきだよ。放送してもらったからママすぐ見つかるよ」


 と、そこにお母さん風の女の人が慌ててやってきた。


『すいません、こちらに藍がいると聞きましたが!』

『ママー!』

『藍! 良かった!』


 安心したのか、藍ちゃんはまた泣き出してしまった。


『あなたがたが、藍を保護してくれたんですね。どうもありがとうございました。私は霧邑きりむらといいます。ほら、藍、ありがとうっていいなさい』

『おねえぢゃん、おにいぢゃん、ありがどう』

『藍ちゃん、ママが見つかってよかったね』

「お役に立てて幸いでした」


 お母さん。何かお礼を、と言ってたけど、まだ泣いている藍ちゃんのことを考えて、固辞し、ショッピングモールを後にした。


『よーくん、かっこよかったよ』

「ことちゃんがいたから、藍ちゃんに怖がられなかったんだよ。ありがとう」


『「よかったね」』


 そういえば、マンガ動画で、デート中迷子を保護したら放置されたとか言われてフラれたっていう動画があったな……よかった、そんなことにならなくて。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。


 Kamal Ramanujan(カマール ラマヌジャン):慈枝ちゃんのお友達(インド系)、"Kamal"は“蓮”又は“紅い蓮”です。

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