第21話 無駄遣いしちゃいけないのよ◆side琴菜◆

「この赤ちゃん、よーくん?」


 よーくんがお風呂に入っている間、よーくんのアルバムを見せてもらった。


『そうよ』

「可愛いです」

『なかなか寝ない子でね。大変だったわ』

『ドライブもよく行ったな』


 おっぱいをあげてるところを想像しちゃった。



 よーくんが木登りをしてる写真があった。木の下には慈枝よしえさんがいる。


『このころは俺の実家に住んでてな、近所に年の近い男の子がいなかったからいつも慈枝を連れ歩いてたな』

『慈枝と結婚するって言ってたんだよな』

『そうそう、兄妹は結婚できないって言ったら、しばらくしてからこの前はダメだったけど今度は? って。おかしいでしょ』


 慈枝さんじゃないよ。



 幼稚園の時の写真。園児服のよーくんは可愛いけど女の子と手をつないでる。


「この子誰?」

『この子……外国に引っ越したんじゃなかったかしら。名前は憶えていないわ』


 じゃあ、安心?


芳幸よしゆきが上がってきたら聞いてみる?』

「ううん。大丈夫」



 赤ちゃんに離乳食を食べさせている写真があった。


『ヒマちゃんですね』

『芳幸、ヒマちゃんが生まれたら喜んでな』


 “お兄ちゃん”じゃなくて“お父さん”だ。



「この赤ちゃん抱っこされてるのは、あきらくん?」

『赤ちゃん抱っこ? ああ、横抱きのことね。そう、まだ首が据わっていない時だったからね』


 ももちゃんは、お座りができるようになるまで抱っこさせてもらえなかった。


『練習に付き合わされたんだよな』


 ……本当に“お兄ちゃん”なのね。


『でも、あんまり上手に抱けてないわね』

「え?」

『抱いてる人が緊張してると、赤ちゃんも緊張しちゃって、こんな風に体をそらしたり、泣いたり』

『まあ、これは子供ができてみないとわからんよ』



 よーくんがお風呂から上がってきた。


「アルバム見せてもらってるの」

『あんまり変な写真を見せないでくれよ』

「赤ちゃんのよーくん、可愛かったよ」

『遅かった!』



『ち、ちょっと先に部屋に行って。部屋を暖めておくよ』

『見られて困るものは隠しとくのよ』

『そんなものないよ!』



 あ、これ、高校かな。ブレザー姿、かっこいい。


 女の子と一緒の写真は、幼稚園の時だけだった。よかった。


『琴菜ちゃん、そろそろ芳幸の部屋に行ったら』

『あのね琴菜ちゃん、申し訳ないんだけど、俺たちは、明日は朝早くから仕事に行かなきゃいけないんだ』

『だから、琴菜ちゃんが起きるころにはいないのよ』

「はい。今日はごちそうさまでした。また来てもいいですか?」

『琴菜ちゃんなら大歓迎だよ。いつでも来ていいぞ』

『明日の朝ごはんは芳幸が作るからね。あれでなかなかおいしいごはんを作るから安心していいよ』


「じゃあ、おかあさん、おとうさん、ありがとうございました。おやすみなさい」

『『はい、おやすみ』』


 よーくんの部屋に向かう。

 パジャマのボタン掛け違ってないよね。


「よーくん、入るよ」

『どうぞ』


 ベッドに座っているよーくんの隣に座る。

 机に、私にくれたのと同じ写真がある。その隣には、青地に白いエプロンドレスを着て剣を持っている女の人の人形。


 可愛いけど、かっこいい。


「ねえ、あの人形は?」

『ああ、あれはね、アニメに出てくる女の人で、世界で3番目に強いんだって』

「よーくん、そのアニメ見たの?」

『見たことなかったんだけど、古本屋さんのフィギュアコーナーで見つけて、なんとなく気に入って買ったんだ』


「そういうの“衝動買い”っていうんでしょ。無駄遣いしちゃいけないのよ」

『や、安かったから』

「よーくんが気に入ったんだったらいいよ。でも次から気を付けてね」



『明日の朝は僕が朝ごはんを作るんだけど、パスタとオムライスが好きなんだよね』

「明日の朝は、よーくんが得意なものが食べたい」

『えっと、得意って程じゃないけど、白いご飯とお味噌汁とおかずってことになるけど、それでいいの?』

「ウチも朝は白いご飯よ。よーくんが作ってくれるお味噌汁楽しみ」

『そんなに期待されても……まあ、頑張るよ』


 眠くなってきて、あくびが出た。


『眠くなってきたの? ことちゃんの布団はそこに敷いてあるよ』

「よーくんのベッドで寝たい」


 よーくんがちょっと困った顔になってる。

 どうして? 一緒に寝るだけじゃない?


『えっと……セミダブルだから狭いよ』

「私、まだちっちゃいから大丈夫だよ。」

『……臭いかもしれないよ』


 布団に顔を埋めてみた。


「全然臭くないよ……よーくん私と一緒に寝るのがイヤなの?」


 よーくんがおろおろしてる。


『ごめん。イヤじゃないけど、女の子と一緒に寝るの初めてだから』

「慈枝さんとかヒマちゃんとは寝たことがないの?」

『それは、あるけど……その……』

「私はよーくんと一緒がいいよ」


 ベッドに入る。


 これが、よーくんの匂い……


「腕枕してほしい」

『う、うん』


『脇の下とか、臭くない?』

「ぜんぜん大丈夫だよ、スイカのような匂いがするよ」



『ことちゃんは、なぜ、僕の父さん、母さんを“おとうさん”、“おかあさん”って呼んでるの?』


 そんなの決まってるじゃない、ニブチン!


「内緒」

『えー教えてよ』

「……教えてあげない」

『……教えてくれてもよくなったら教えてね』

『……そうだ、明日の朝は、目玉や……』


 よーくん、寝ちゃった。


 よーくん、子どもみたいな顔して寝てる。


「よーくん、ありがとう。おやすみ」



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 目が覚めた。

 空がちょっとだけ明るくなってる。


 そうだ、よーくんと一緒に寝たんだ。



「可愛い顔して寝ちゃって」



『ことちゃん……』


 ……私の夢?


 もう一回寝よ。よーくんの胸に顔を埋めて。


 “あの夢”が見られるか……な……


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


♫♫♫♫♫♫♫♫


あ、アラーム。


「う、ことちゃんおはよう」

「僕はこれから朝ごはん作るからまだ寝てていいよ』


 “あの夢”は見なかった……けど、よーくんに腕枕してもらったから。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。


 寝かしつけドライブは…大変です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る