第20話 お風呂は一緒じゃないけど……

 食卓の上には、デザートと飲み物が出ている。

 デザートは、Belle Equipe(ベルエキップ)のケーキと、ことちゃんが持ってきたクッキー。


『ねえ、琴菜ことなちゃん。江梨えりさんに聞いたけど、琴菜ちゃんは芳幸よしゆきのためにポテトサラダを作ったんでしょ』

『ごめんねーお兄ちゃんったら、手間のかかるものが好きで』

『ジャガイモは熱いうちにつぶさないといけないから、やけどとかしなかった? 芳幸が好きなメニューだからといって無理しなくていいのよ』

『よーくん、おいしいって言ってましたので嬉しかったです』


 そうだよね、おいしいって言ってもらえると嬉しい。


『琴菜ちゃん、ありがとうね。芳幸、軽い気持ちであれが食べたい、これが食べたいって言っちゃだめよ』

「わかってるよ」

『わかっていればいいのよ。それと、手伝っていればいいってもんじゃないのよ』


 どういう前提がよくわからない……まあ、ためになる話しっちゃ話だけど。



『ねえ、琴菜ちゃん。お兄ちゃんのどこを好きになったの』


 ほら、両親が……聞き耳を立てた。

 しかも、慈枝よしえたちのほうに、同じ角度で体を傾けて……シンクロっぷりがちょっと可笑しい。


「こら、慈枝、ことちゃんびっくりしちゃうだろ」

『カップケーキを受け取ってもらったんだから、自信持ちなよ』

「あれは、あっちのおかあさんに指摘されて、めちゃくちゃ恥ずかしかったぞ」


 検索してその意味を知った時、顔が熱くなったことを思い出した。


『芳幸、割り込まないの』

『おや~二人とも顔が赤くなってるのはなぜかな~』


「えーと、ことちゃん。無理しなくていいんだよ?」

『うん。大丈夫』


 ことちゃんの表情が、最初に会ったときみたいにちょっと凛々しい表情に変化した。


『よーくんは、とっても優しいの。いつも、あーんしてくれるし、私がローテーブルの下を通るとき頭をぶつけても痛くないよう、テーブルの角を持ってくれるの』

『お兄ちゃん、やるじゃん。見直したよ!』


『よーくんは、とってもかっこいいけど、私が話しかけると優しい顔になるの』


 いくらなんでも過大評価だよ。正直、すっごい恥ずかしい。


『我が息子ながら、ここまで高評価だと、面はゆいというか、親として誇らしいというか』


「ことちゃん、僕のことあんなにほめてくれてありがとう」

『よーくんはかっこよくて優しいんだからもっと自信を持って!』

「うん」



 デザートも終わった。


「ごちそう様。おいしかった。こういうのを福利厚生の充実っていうんだ?」

『なにか?』

「い、いや、充実してよかったというか、ことちゃんのおこぼれにあずかることができて良かったというか」


『慈枝、少し休んだら琴菜ちゃんをお風呂に入れてあげて』

『よーくんと入りたい』

『琴菜ちゃん、お兄ちゃんと一緒にお風呂に入ったら裸を見られちゃうわよ』

『……今は、慈枝さんと一緒に入る』


 何か今すごい不名誉な判断があったような……


『じゃあ、よーくんお先に』

「温まっておいで」

『うん』


『芳幸、琴菜ちゃんに何かしたのか?』

『不埒なことをしたら許さないわよ』

「してないしてない」


 ただでさえ足許が危ない高校2年生と幼稚園児なのに……


『今まで以上に誠意をもって接していれば、そのうち濡れ衣? は晴れるぞ?』


 父さん、濡れ衣って何? なぜ疑問形?

 楽しんでないか?



『それはそうと、美都莉みどりよ。琴菜ちゃんにどこで寝てもらう?』

『芳幸の部屋でいいんじゃない』


 おい、うちには客間というか、使っていない部屋があるぞ。


「ちょっと待て、客間って何のためにあるんだ?」

『琴菜ちゃんは芳幸と一緒に寝たいって言ってたけど芳幸も客間で寝るのか? わざわざ』


 ……さっき、誠意がどうのこうのって言ってたのは誰だ。


「本人が希望してるからといっても同性の慈枝とか母さんと一緒ってのが順当と思うぞ」

『琴菜ちゃん視線で考えなさい。初めて来た家で一番頼りたいと思う人じゃない人と一緒に寝る? 不安になると思うわよ』


 質問をぶつけた相手と回答者が違うぞ。


『だから、芳幸が一緒に寝るのは確定だろ』


「わかったよ」


 こりゃ、“僕の部屋で僕と寝る”ことを最初から決めてて、そのうえで話し合ってるように見せかけてたんだな。なぜそこまで手の込んだことをする?


『わかってくれて嬉しいよ。そんな息子に父さんからささやかなプレゼントだ。布団を運んどいてやる』

「とりあえずありがとう。ことちゃんたちが終わったら、風呂に入って部屋に引き上げるよ」


『そうそう、明日母さんたちは早出だから』

「ああ、朝ごはん」

『ご飯は炊いとく。おかずは、あるもので適当に作って』

『それから、琴菜ちゃんの下着を洗濯しておくから、乾いたら衣装ケースに収納して、芳幸の部屋に保管しておきなさい』

「え、持ち帰らせるんじゃなくて?」

『いいじゃない。ここは琴菜ちゃんの“おとうさん”と“おかあさん”の家よ。あ、くれぐれも目的外使用はダメだからね』

「そんなことするか!」


 あなた方は、あなた方の息子がそういう性癖を持っているとお思いで?


「朝ごはんのあと適当なタイミングでことちゃんを送っていくよ」

『気を付けてね』



『よーくん、お風呂空いたよ』


 頬が紅潮してるじゃないか、チクショウ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。


 お風呂上がりで頬が紅潮……いいですよ。中学生時代、修学旅行の入浴後の自由時間。廊下ですれ違った慈◯さんが……

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