第17話 恋バナとツーショット

れいくんは、ネモちゃんがハンカチを忘れた時にハンカチを貸してあげたんだって。それで、ネモちゃんはバレンタインのチョコをあげたんだけど、ネモちゃんは玲くんのことがまだ好きじゃないんだって』


「ふーん。玲くんは優しいね。どうしてネモちゃんは玲くんを好きにならないんだろうね」

『不思議ね』


Alyssaアリッサは、遠足の時お弁当を健太郎けんたろうくんのとなりで食べてたの』

「Alyssaは健太郎くんのことが好きなのかな?」


『うん、Alyssaは健太郎くんとちゅーしたいんだけど、健太郎くんに“ちゅーは大人になってから”って言われて我慢してるみたい』

「健太郎くんはまじめだね」


『よーくん』

「なに?」

『よーくんは私とちゅーしたいと思う?』


 爆弾!


「え、えっと……したくないわけじゃないけど、早すぎるというか、やっぱり大人になってからというか……いや、ことちゃんとちゅーしたくないわけじゃないよ」

『私がもっと大きくなったらね』

「お、おう」


 最後はともかく、恋バナである。


 おかげで、ことちゃんの同級生の恋愛事情にずいぶん詳しくなった。ただ、苗字がわからないから、情報としての価値はほぼないし、当然活かしようがない。活かすつもりもないけど。

 まあ、ことちゃんと話をしてるときは楽しいし、ことちゃんも喜んでくれるから、いいんだけど。


 今日はマシュマロを用意した。


 先週から、ことちゃんとヒマがつるんでおり、プールに向かう2人を見送ってプールが見渡せるギャラリーから手を振った後、いつもの通りキッズコーナーに戻ると、また、ももちゃんが遊びに来た。


 桃ちゃんはこの前と同じ、おもちゃで一緒に遊んだり、着ていたジャケットを脱いで僕に預けたり、マイペースだ。



『よーくん!』

「ああ、ことちゃん」

『また、桃ちゃんと遊んでたの? ヒマちゃんに聞いたけど、ちっちゃい子と遊ぶのが好きなんでしょ?』


 ことちゃんに目ヂカラを感じる。江梨えりさんの娘だから、ワルキューレ見習いとか?


「あの、ちっちゃい子が好きっていうか……遊んであげたというか……見守ったというか……えっと、桃ちゃんは、僕に甘えないで、そこらを走りまわってた……どちらかというと、同級生と遊んでいるような感じだったかな」

『楽しかった?』


 しまった、ことちゃんだけを信じると決め、約束を交わしたんだった。

 つい、お兄ちゃんモードを発動させて桃ちゃんの相手をしたけど……これはダメだったよな。


 どうしよう。


「僕は、ことちゃんがいいよ」


 ダメだダメだ、これは完全に浮気男のいいわけだ。


『……』

「……」


 無言に耐えられないよ。


『写真撮って』


「え?」


『写真撮って』


 写真で許してもらえるのかな。

 ずいぶん安いような気がするけど、それに見合うよう、気合を入れて撮ろう。


「うん、いいけど、ここでは写真を撮っちゃいけないんだって。だから外に行って撮ろう」

『どうして、ここで写真を撮っちゃいけないの?』


 多分、キッズコーナーで着替え……裸になってる子がいるからだと思う。

 そりゃ、スクール的に写真撮影お断りだろうし、仮に禁止されていなかったとしても撮りたくはないな。

 その点、ことちゃんはちゃんとロッカールームで着替えてるんだからえらいよね。


「ここで着替えてる子がいるからだと思うよ」

『着替えてる?』

「あの、裸になってる子がいるからだと思う」

『エッチ!』


 !!


「いや、裸の写真は撮らないよ」

『……』


『ふーん……ママー』

『なあに、こーちゃん』

『よーくんにお外で写真を撮ってもらうの』

「ことちゃんに撮ってほしいと希望されました」

『大変ね、こーちゃんのご機嫌をとらなきゃいけないから』


 江梨さん知ってたんだ。


「ことちゃんは、江梨さんの娘だということを改めて認識しました。目ヂカラ強いです」

「フフ、女はみんなそうよ。真剣になれる相手にはね」


『よーくん!』

「はーい。今行くよ」



 今日はいい感じの夕焼けだ。


 昼間の屋外撮影は真上から入射するから顔に細かな影が入るが、この入射角であればその心配はない。

 また、赤みのある光は肌をきれいに見せてくれる。

 おまけに“明日は晴れる”と。


「じゃあ、ことちゃん。そこに立って」


 スマホのカメラを起動。

 スイミングスクール前の道路を中央……遠近法を効かせて…スクールの建物と看板を配置。


「ごめん、ことちゃんもう少しこっちに寄って」

『このぐらい?』

「うん、OK」


 僕の立ち位置も微調整……よし、ことちゃんの顔は定石に従ってこの座標に……

 よしOK。


 人通りが途切れた。撮影。


 ちょい露出をオーバー目にしてもう一枚。


「撮れたよ。見てみる?」

『うん』


『可愛く撮れてる』

「上手に撮れてよかった」

『ありがとう』



『ねえ、よーくんと一緒に撮りたい』

「う、うん」


 インカメラに切り替えて…少し顔を寄せて……ドキドキだよ。


「うんOK。じゃあ、ママのスマホに送っておくよ。あと、今度フォトフレームに入れて持ってくるよ」

『ありがとう、お願いね』


 自分用にも……



「あの、桃ちゃんは妹と遊んでいるというか、妹が遊んでいるのに後ろにくっついていってる、という感じかな」

『私は違うの?』

「ことちゃんも最初は妹だったけど、今は大切な友達で、好きな女の子だよ」

『……』

『……許してあげる』

「ありがとう、ゴメンね」


 言わされたよ。まあ、本当のことだから。

 桃ちゃんは……何とかしよう。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。


 この物語に登場する女性は、下の名前またはgiven nameに植物に関係する言葉を含んでいます。

 琴、江、美都、陽Alyssa、慈、ネモはネモフィラの略……

 こういうの考えるのは楽しいですね。




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