第2章 夢の先にまた夢がある

第16話 良き友

 月曜日。


 昨日の余韻……及び家族からの冷やかしを持ったまま、登校した。

 “余韻”はいいけど、“冷やかし”は、いただけない。


『おはよう、Yoshiyuki』

「おはよう、Taoufikタウフィク


 アルジェリアからの留学生のTaoufikタウフィク Boutellaブテラ、次いで七重ななえ 和真かずま高屋敷たかやしき すみれさんが合流してきた。


芳幸よしゆき、おはよう。いい天気だな』

武川たけかわくん、おはよ』

「おはよう、和真、高屋敷さん。相変わらず仲いいね」



『……武川くん。何かいいことあった?』


 え、僕いつもと違う顔をしてる?


『なんかオーラが変わったみたい……ひょっとして、女の子?』

『そういえば、いつもは僕たちの繋いだ手をチラチラ見てるのに、今日は見ないな。ひょっとしなくても女関係だな』


 これだからリア充は。


「彼女とは違うんだけど、僕スイミングスクールに近所の子どもを連れて行ってるだろ。そこで、仲良しになった女の子がいて、昨日、その子のうちでお昼ご飯をごちそうになったんだ」

『それ、ちっちゃい子か?』


 和真よ、なぜわかる。


「……そうだよ。幼稚園の年中さんだよ」

『ロリコン!』

「高屋敷さん、勘弁して。別にそういう対象として見てるわけではないから」

『Yoshiyukiはちっちゃい子にモテるぞ』


 Taoufikありがとう。君だけが僕の名誉を守ってくれるよ。


『犯罪性はなさそうね。詳しく聞きたいわ』


 犯罪性って……失礼な!


「じゃあ、今日の放課後、勉強会を兼ねていつものファミレスで」

『『『OK!』』』


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 学校帰りによく利用しているファミレス。パンケーキとドリンクバーのみ頼む。



『虚数ってよくわからない』

「虚数はマイナス1の平方根だから完全に抽象的な存在だけど、いろいろ不思議な性質が――」



「meの前に置く前置詞について、toとforの使い分けがわからない」

『それは私から。これは、本来の意味で判断――』



『ちょっと休憩にしましょうか。じゃあ武川くん』


 忘れてなかったか。


「大した話じゃないぞ。スイミングスクールのキッズコーナーでチョコを食べてたらその子にねだられて、その後ビスケットをくれた、から始まった」


 その後の経緯もざっと説明したが、約束をした的なことは恥ずかしいから言えない。


『いきなりねだられたの?』

「いきなり」

『話をしたことがあったとか?』

「ぜんぜん。ナンパしに行ってるわけではないので」

『そうなると、なぜその子が武川くんに声をかけようと思ったのかわからないわ』


 確かに不思議だ。


『もうちょっと背景をはっきりさせましょう。キッズコーナーで寝てたわけじゃないでしょ』

「母に自治会の資料の作成を頼まれて、ノーパソで作業をしてることが多いな」

『それはいつごろから?』

「半年ぐらい前から」

『ただの文書作成?』

「文書作成もあるし、システム作り――大したものじゃないけど――もある」


 Taoufikが思い当たることがあるからと、高屋敷さんに断って口を開いた。


『そのシステム作りは結構集中するのか?』

「うん。今作っている住宅地図システムはエクセルでワークシート関数を使って組み上げていくから、結構集中力を要する」


『……Yoshiyukiは意識していないかもしれないが、君が集中してるとき、何かに打ち込んでいるときは、とても真剣な目をする』


 僕はそんなに顔に出るのかな。

 そういえば、慈枝よしえが、おいしくないチョコ事件――勝手に名前を付けおって――のとき“死にそうな顔をしてた”って言ってたっけ。


『私は和真以外にはあまりセンサーが働いてないんだけど、何かに頑張っている武川くんは目がらんらんとしてるというか、雰囲気というかオーラが違うと感じたことはあるわ。』


『そういえばそうだな。菫、そういうオーラは、女子的にはどう?』

『オーラというか、真剣に取り組んでいる男子に惹かれる女子はいるわ』


『……多分その子は芳幸のオーラに惹かれたんじゃないかな……ふーん、そういう“きっかけ”ってあるんだ……』


 全員がニヤニヤしてる。


『おめでとう武川くん。春が来たね』

『芳幸、彼女だぞ。その関係を大事に育てていくべきだ』

『やっとYoshiyukiを評価する女性が現れたんだ。良かったじゃないか』


 “女性”ってなんだよ。もっとも“女性とは何歳以上”という定義があるわけではない。


「みんなありがとう。と言いたいところだけど、こういうパターンって小学校に上がったぐらいでよそよそしくなる。“卒業”と言ったらいいのかな。父さんの幼馴染の子は年少さんのときは“大きくなったら芳にぃと結婚する”とか言ってたけど、小1で手を繋いでくれなくなった」


『そう悲観的になるな。幼馴染同士が結ばれるというケースはゼロでないぞ』

「幼馴染? 高2だぞ」

『その子視点! ファーストコンタクトが幼稚園の年中さんならば十分幼馴染……年齢の離れた幼馴染って言うやつだろ』


『武川くんの言わんとしていることはわかるよ。だからと言って手抜きをしていい理由にはならないよ』

「わかってるよ。“今”にはちゃんと向き合うよ。卒業されたとしても“成長のあかし”と祝うよ」


 とはいったものの、二の腕が"質量を覚えてるから、実は卒業されたくない気持ちは発生している。


『俺たちは芳幸の味方だから、困ったら相談にのるぞ。俺には彼女がいるし、Taoufikは俺たちとは違う文化で育ったから、違う見方ができる』


「みんなありがとう。もしもの時には相談させてもらうよ」


『よし、ここのお代は、芳幸に対する餞ということで俺とTaoufikとで持とう』

「え、いいのか?」

『お祝いだよ、Yoshiyuki』

『ちょっと、水臭いよ! 私も負担するわ!!』

『そうか……ありがとよ』


 本当に、卒業されたくなくなった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。


 ここで“重さを覚えてる”と表現すると問題があるかも知れないです。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る