第12話 二人だけの約束

「こんにちは、ことちゃん、江梨えりさん……あれ、ことちゃんは4時半からだったと記憶してますが?」

『3時半からに変えてもらったの』

『こーちゃんが、“向日葵ひまわりさんとお友達になりたい”って言ってね』

「そうですか、じゃ紹介しなきゃ。ヒマ、この子は『こんにちは。貴女が琴菜ことなちゃんね。私は槙野まきの 向日葵ひまわり、こっちは弟のあきら。よろしくね』」


 食い気味に来るな。ヒマってこんなガンガンくるほうだっけ?


『僕、晶』

『こ、こんにちは、向日葵さん、晶くん。涼原すずはら 琴菜ことなです。よろしくお願いします』

「こら、ヒマ、ことちゃんビビったじゃないか」


『ごめんなさいね。私のことはヒマって呼んでね』

『私のことは、こーちゃんって呼んでください』

『クラスが一緒になるといいな』

『いっぱいお話ししようね』

『うん』



『(ヒソヒソ)可愛いじゃない。よかったね。あと、ヒマは“ことちゃん”って呼んじゃダメなんでしょ?』


 そのニヤニヤをやめろ。


「ないことないこと吹き込むなよ」

『フフ、あんなこととか、あんなこととか、あんなこととかは言わないわよ』


 大丈夫かな……


 キッズコーナーのベンチに座ると、ことちゃんはすぐ隣に座ってくる。

 Ladyfirst……次からはことちゃんに先に座ってもらおう。

 江梨さんは、ママ友さんとお話をしている。


「僕の好きなものは話したけど、ことちゃんは何が好きなの?」

『ハンバーグとオムライス。カレーライスも好き』


 みんな、一応作れるな。母さんにはかなわないけど。


「今日のお昼ご飯はオムライスだった。父さん母さんが旅行に行ってていないから、僕が作ったんだけど、なかなかおいしくできたよ」

『いいなー』

「フワトロとはいかなかったけどね」


『あのね。こんど、よーくんが作ったご飯を食べさせて』

「うん、いいよ」


 と、答えたは良かったが、どうやってご馳走すればいいんだ?



 時間になり、ことちゃんとヒマはプールへ行った。

 プールが一望できるギャラリーへ移動し、プールサイドを歩く2人に手を振っていたら、江梨さんが来た。


「江梨さん。お招きいただいてありがとうございます」

『ご両親、仲がいいのね。私も今度ねだってみようかしら』


 仲が良すぎるというか……スーパーマーケットで手を繋いで歩いてて、子としてはちょっとはずかしい。それも、恋人繋ぎ。


「今週末は旅行ですが、普段も土日が仕事のことが結構あります」

『ご両親が留守のとき、ご飯はどうしてるの?』

「休日、両親とも留守の場合、料理と洗濯は僕の担当です。妹は受験生なので毎日じゃなくてもいい掃除が担当です」


『えらいのね。ウチの鐘治かねはるさんは、やる気はあるんだけど、あまり上手じゃないの』

「僕、あまり大した料理はできないんです」

『家事スキルがあるのはいいことよ。将来こーちゃんは楽ができるわ』


 江梨さん、なんてことを言うんですか。それよりも……


「その、おとうさんはどうなんですか?」


 クラスメートの和真かずまが彼女の家に挨拶に行ったら、“圧迫”ですごいプレッシャーだったとか。

 交際はちゃんと続いているらしいけど、和真は今も気にしてるようだ。


『あー“娘はやらん”的な?』

「はい。実は、クラスメートでそのような実例がありまして」

『フフ、ウチの鐘治さんは、ちゃんと話せば理解してくれる人よ。芳幸くんは、こーちゃんと私を落としたんだから大丈夫』


 だましたわけじゃないんですから、“落とした”とは人聞きが悪いです。


『まあ、任されました。明日なんだけど、11時着の電車で来てもらうってことでいい?』

「はい。11時」

『駅には、こーちゃんとこーちゃんの兄のはやてを迎えに行かせるわ。駅から我が家は、そうね、5分ぐらいかしら』

「はい。ことちゃんとお兄さんが駅に来る」


 地図アプリを起動して、駅周辺を確認していると、ことちゃんたちがプールから上がってきた。


『ママ、私、駅までよーくんを迎えに行くんだよね』

『もちろん、こーちゃんがいないと芳幸くんがわからないから、こーちゃんと颯で迎えに行って』

『やったー!』

「ことちゃん、明日よろしくね」

『まかせて』


 あれ、この駅……


「えーと、この駅には北口と南口がありますが、どちらに行けばよいのでしょうか?」

『あ、書いてなかった? ごめんなさい。南口の……そうね、獅子屋っていうお好み焼き屋さんのあたりね』


 江梨さんがスマホで地図を見せてくれたんだけど、体を寄せるようになってしまって、ことちゃんが間に割り込んできた。ちょっと不機嫌そうな顔をしている……なんだか可愛い。


『芳幸くん愛されてるわね。スクショを送っとくわ』

「いや、あの、からかわないでください」


『あと、使うことはないと思うけど、駅からウチまでの地図をメールで送るね』

「はい。何から何までありがとうございます」



「では、江梨さん、明日昼食に伺わせていただきます」

『期待してね』


 いつもの通り、ハイタッチして『「またね」』。


 早く明日にならないかな。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。

 琴菜ちゃんママは面倒見がいいです。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る