第11話 私のよーくんなのに

 いつものように、スイミングスクールに到着、ヒマがプールに向かうのを見送って、プールが見渡せるギャラリーからことちゃんに手を振った後、いつもの通りキッズコーナーに戻った。


 以前手を振ってくれた江梨えりさんのママ友さんの子どもが、近づいてきて、ニヤーっと笑う。


「何ちゃんていうの?」

ももちゃん』

「時々こーちゃんに遊んでもらってるよね?」

『こーちゃんに遊んでもらってる』

「僕と遊ぶ?」

『うん』


 テーブルの上にマシュマロを出して、


「はい、あーんして」


『ありがと』


 桃ちゃんは、最初は絵本を読んで欲しがったものの、2ページほどだけで、マシュマロもそんなに欲しがるでなく、キッズコーナーに備え付けのおもちゃで遊んだり、走りまわるのがいいみたいで、甘えてくるということはない。


 どうってことはない。いつものお兄ちゃんモードである。


 やっぱり、ことちゃんは、ただ単にチョコが欲しかったんじゃなく、僕に何か魅力を感じて僕に近づいたんだだと思う。


 ところで、僕が使っているマウスパッドは、トイプードルの写真がプリントされたものなんだけど、桃ちゃんはこれを一目見て“ワンワン!”と言ってえらく気に入ったようで、持ち歩いたり、自分のお母さんに見せに行ったりした。

 百均でなんとなく選んだだけなんだけどね。


「桃ちゃんちには、ワンワンいるの?」

『いない』

「ワンワン好き?」

『ワンワン好き』


 そうこうしているうちに、みんながプールからあがってきた。


『よーくん』

「ことちゃん、こんにちは」


『こーちゃん。この人誰?』

『いつもおやつをくれる人』

『桃ちゃん、お友達になって、あーんしてもらった』


『こんにちは、桃の姉の増元ますもと 咲良さくらで、こっちは弟の楓真ふうまです。妹と遊んでもらって、ありがとうございます』

『こんにちは』


 多分、咲良ちゃんは小学校高学年ぐらいかな。多分、察したな?


「咲良ちゃんに楓真くん、こんにちは。僕は、武川たけかわ 芳幸よしゆき。みんなマシュマロ食べていいよ」


 いつもの通り、ことちゃんが隣に来た。

 “あーん”もいつもの通り。


 どうしたんだろう、ことちゃんの笑顔が薄いような?

 服の袖が触れあった時もあまり表情の変化がない??

 こっちは、いつも通り“感電”だけど。


 帰り際、ことちゃんはハイタッチをしてくれた。もっとも身長差があるから、僕は座ったままだったけど。


 非モテの悲しさ、ことちゃんの手の感触、体温が頭から離れない。

 何かにつけ掌を見てしまい、その姿をヒマや慈枝よしえはニヤニヤして眺めてる。


 何がおかしい!



◆◆◆◆◆◆side琴菜◆◆◆◆◆◆


 いつも買い物をしているスーパーの駐車場。


「ママ、桃ちゃんがよーくんと友達になったんだって」

『うん、見てた。絵本は読んでもらってたけど、あんまり芳幸よしゆきくんに甘えてないわね。保育園で遊んでるみたいだった』


 桃ちゃんが生まれた時、妹ができたみたいでとてもうれしかった。

 今でも桃ちゃんは大好きだけど、よーくんにあーんしてもらったなんて……


『どうしたの、こーちゃん』


『ふーん……芳幸くんったら、こーちゃんがいるのに他の女の子と遊ぶなんて悪い子ね』


 違う。よーくんは優しいから、桃ちゃんと遊んであげたんだと思う。


「よーくんは悪い子じゃない……」

『でも、こーちゃんは面白くないんでしょ』


「……うん」


 桃ちゃんより好きになってほしい。いっぱい。


「ママ。明日よーくんをウチに呼んでお昼をごちそうしよう。ダメ?」


 ママが、私の目を見つめてくる。


『はい。でも明日じゃなくて、3月9日の日曜日に芳幸くんをおうちに招いて、お昼ご飯をごちそうしましょ』

「ママ、ありがとう!」

『芳幸くんに好きな食べ物を聞いて、それを出しましょう。こーちゃんも一品作ってね』

「うん」


 そうだ。


「よーくんは悪い子じゃないよ」

『わかってるわよ』

『じゃ、芳幸くんに電話するよ』


 ママは電話をかけ、スピーカーホンにした。


『あ、芳幸くん。プールお疲れ様。今度ウチにご飯食べに来ない? そうね、3月9日の日曜日のお昼ご飯とか』

『えっ、ご迷惑ではありませんか?』

「よーくん、一緒にご飯食べよ」

『私は歓迎するわ。こーちゃんの兄のはやては芳幸くんと話がしてみたいって言ってたから歓迎するはずよ。こーちゃんは聞いての通り。それより、芳幸くんちの予定とぶつかってないかしら?』

『ご配慮ありがとうございます。両親は8日の土曜日から10日の月曜日の夕方まで、結婚記念日の旅行で不在、妹は毎週日曜日は図書館で友達と勉強をする予定なので、まず大丈夫だと思いますが、家族に話して、折り返し連絡します』


「大丈夫かな~」


♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪


『家族の了解が取れました。すいませんが母が話したいことがあるそうなので代わります』


 ママがよーくんのママと話しているけど、スピーカーホンじゃなくなったので何を話しているかわからない。


 また、スピーカーホンになって、よーくんの声が聞こえてくる。


『芳幸くん。美都莉みどりさんからよろしくって頼まれたわ。細かい点は、今度の土曜日に話し合って決めましょう。それから、こーちゃんが話があるそうよ』


「よーくんは、ごはんは何が好き?」

『嫌いなものはないからなんでも食べるけど、カレーライスとポテトサラダが好きだな』

「うん。カレーライスとポテトサラダね」

『無理しないでいいよ』

「大丈夫」


『じゃあ、芳幸くん、9日はよろしくね』

『はい、お邪魔させていただきます』

「よーくん、またね」

『ことちゃん、またね。江梨さん、またです』


 でも、よーくん、元気になったみたいでよかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。

 “何かがおかしい!”おかしいのは君だよ!




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