第10話 そんな顔しないで◆side琴菜◆

『“おはよう。今日はプール来る?”っと。こーちゃんこれでいい?』


 今日よーくんが来なかったら無駄になってしまうから、ママに聞いてもらう。


「うん、お願い」


♪♪♪


芳幸よしゆきくん来るって』


「やった」


『じゃあ、フルーツ白玉を作りましょう。まず、手を良く洗いましょう。手首まで洗うのよ』


 私とママは洗面台で手を洗った。


『水が冷たかったわね。ではと、キッチンスケールの上にボールを置いて右端のボタンを押して。0.0になった?』

「なった」


『じゃあ、白玉粉を100まで入れる。95ぐらいになったら、ちょっとずつスプーンでいれて』

「……100になった」


『次は、水を計量カップで……そうね180ぐらいまで白玉粉に足して』

「サイトでは100ってなってるけど?」

『ああ、それはね……』



…………


 おいしくな~れ。おいしくな~れ。


…………


『完成ね。ちょっと味見してみましょうか』

「うん……おいしい」


 これなら、よーくん喜んでくれるかな?


『お、フルーツ白玉か。ちょっともらってもいい?』

「ダメー」

鐘治かねはるさん、ちょっとこっちに』


『――にあげるんだって』

『えっ、また――か』

『鐘治さんには――あげるから』


 パパとママが話してるけど、良く聞こえない。



「ママ、もっといっぱいのほうがよーくん喜ぶと思う」

『フフ、まあ、こーちゃんの気持ちはわかるけど、いつもはやてとこーちゃんが食べてるのもこれぐらいよ』


「よーくん、喜んでくれるかな」

『こーちゃんが作ったって言ったら芳幸くんは喜ぶわよ。タッパーに移して、冷蔵庫に入れておきましょう』


「ママ、小さいフォークを付けないと」

『そうね。フォークは1本? 2本?』


 ママったら、何を言ってるのかしら。よーくんが食べるんだから1本で良いに決まってるでしょ。


「1本じゃないの?」

『じゃあ、1本にしましょう』


 なんで、ニヤニヤしてるの?


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


『こんにちは、ことちゃん。江梨えりさん』

「こんにちは、よーくん」

『こんにちは、芳幸くん』


 ローテーブルを潜ってよーくんの隣……体をくっつける勇気はないので、ちょっと離れて座る。


 あれ、よーくん、この前みたいに何かつらそうな顔をしてるし、いつもみたいに話してくれない。

 どうしたんだろ……


 ヨシ!

 私が元気づけてあげないと!


 あっ、袖が触った。

 よーくん、びっくりした顔で私を見た。

 やっと目があったので、笑顔を向けると、話してくれた。


『ことちゃん、父さん、母さんがよろしくって』

「よーくん、お父さん、お母さんと話したの?」

『うん』

「私のこと気に入ってもらえた?」

『バッチリだよ』


 よかった。


「あの、今日はおやつを作ってきたの」

『……それは、うれしいな』

「ママ!」

『あいよ』


『これは何?』

「フルーツ白玉。白玉だんごに缶詰のミカンをかけてるの」

『おいしそうだね。これ、ことちゃんが作ったの?』

「ママに教えてもらって作ったの」

『そうか、ありがとね』


 あーんしてあげる。


「はい。あーんして」

『え???』


 よーくんの顔が赤くなった。

 可愛い……


「早く!」

『……ああ、いただきます』


 みんなが私とよーくんを見てる。

 私がよーくんに“あーん”したいんだから、みんなには関係ないよ。


『うん。おいしいよ』


 よかった。

 なんだか、ビスケットの時よりうれしい。


「よかった。今度はミカンね。あーん」

『これもおいしい』


『いっしょに食べる?』


 どうしようかな、フォークが1本しかないから、間接キスになっちゃう。ちょっと恥ずかしい。

 ママが笑ってたのはこれね……ママのイジワル……でも、一緒に食べたかった。


「よーくんに食べて欲しくて作ったから、よーくん食べて」

『じゃあ、チョコあるからことちゃんはチョコ食べて』

「うん」


 よーくん、おいしそうに食べる……なんかうれしくなっちゃうよ。


「チョコおいしい」

『そうか。よかった』


『ごちそうさま。とってもおいしかったよ。ことちゃんありがとね』


 フルーツ白玉を全部食べてくれた。よかった。


「フフ、どういたしまして」


『あ、白雪姫の服』

「ママに買ってもらったの」


 よーくん、私が着ている服を見つめてる。似合ってるかな?


『良く似合う……可愛いよ』


 うれしい。


「ありがとう」



 ママが来た。


『芳幸くん、“あーん”してもらってうれしかった?』

『“あーん”はちょっと恥ずかしかったですけど、おいしかったです。あの、お手数をおかけしました』

『何のこと? こーちゃんが芳幸くんに食べさせたかったんだから……そうそう、別の意味で気にしなければかもね!』


『はい。それは……認識してます』


 よーくん、つらそうな顔からいつもの顔に戻った。

 よかった。よーくんがつらそうにしてると私までつらくなるよ。


『フフ、じゃあこーちゃん帰りましょうか。芳幸くん、またね』

「よーくん、またね。元気にしててね」

『ことちゃん、またね。江梨さんまたです』



『こーちゃん、よかったね』

「よーくん、私が作ったフルーツ白玉をおいしいって言った」

「よーくん、この服が似合ってて可愛いって言った」


 私が、つらそうにしてたよーくんを笑顔にした!


『はいはい。今度は何を作りましょうかね』

『でも、料理をするときは、ジャージよ』


 ジャージは、可愛くないよ。


「ジャージ可愛くない……」

『いいじゃない。そのままで芳幸くんに会うんじゃないんだから』


 今日、私はよーくんの笑顔を作れた。よーくん。私のことを好きになってくれたかな……


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。

 

 芳幸くんは、いつもの顔をしているつもりでいましたが、琴菜ちゃんの目はごまかせませんでした。




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