第7話 新たなステージへ
『芳にぃ。彼女のお母さんと話をしてたんだって?』
帰りのバスの中でヒマが目をキラキラさせて聞いてきた。
「だから、彼女じゃないって」
『“she”という意味の“彼女”だけど? なんのことだと思ったのかな~』
「あのなー」
『それで、“金輪際あの子に近づかないで!”とか言われた?』
なんでニヤニヤしてるんだ!
「名前は“
『それでそれで?』
「ヒマと晶は今日うちで晩ご飯食べるんだろ、その時話すよ」
『じゃあ楽しみにしとく』
「ああ」
『みんなご飯よー』
「おー、これなんて料理?」
『フーカデンビーフっていうのよ。
あの世代の男って家事をしないんじゃ……
『ひいおじいちゃんは軍艦のキッチンで働いてて、そこで習ったそうよ』
『『『『「いただきます」』』』』
『ところで芳幸。何かおめでたいことになってるそうだな?』
『母さん芳幸の口から聞きたいわ。あ、心配しなくても、みんな芳幸の味方よ』
おめでたいって……
「スイミングスクールで、住宅地図のシステムを作りながらチョコを食べてたらその子にねだられた」
『私が頼んだ住宅地図のシステムが仲を取り持った、と……よかったじゃない!』
どっちかっていうと、チョコじゃないか? まあでも、出発点だから、一応母さんには感謝だな。
「今日は名乗りあった。名前は涼原 琴菜、幼稚園の年中さん」
『“おいしくないチョコ事件”は解決したの?』
『なんだそりゃ?』
『お兄ちゃん、ビターチョコを持って行ったらおいしくないって言われたんだって』
『勝負を焦ったな』
「勝負って……でも、たぶん解決かな? “もうちょっと大人になったら、きっとあのチョコを好きになるよ”だそうな」
『いい子じゃない。芳幸に歩み寄ろうとしてるんだから。“だそうな”なんてそっけない言い方をしないの』
歩み寄るって、幼稚園児なんですけど。
『今日、芳にぃは彼女さんのお母さんと話してました!』
晶……
『ほほう』
「おかあさん……
『それは親公認と受け取るべきか? よし、詳しく話せ』
父さん、野次馬。
「高校生かとか、どこに住んでるのかとか、彼女はいるのか、とか」
『お兄ちゃん彼女いたっけ?」
「彼女はいない、できたこともないと答えたよ」
『お兄ちゃん中学校の時ラブレターをもらったんじゃなかったっけ? 彼女のお母さんに嘘ついたらだめだよ』
「なんで知ってるんだ? あれは……結果がでなかった、ということで」
始めっから“結果がでない”のが予定されてた……
『お、ラブレターをもらったのか、俺もな『
『だ、脱線せずに芳幸の話を聞こうか』
『じゃあ、後で……ゆっくりね!』
痴話喧嘩はよそでやって!
「次に、好きな人がいるのかって聞かれて、いないって答えた」
『それはまずいよ、芳にぃ。好きな大人の女がいないのはロリコンだよ』
なんで、小学生がこんなことを考えつくんだ?
「あのなー、過去いたことはあるが、今は真剣に好きな人はいないって答えたんだよ」
『えー男っていつも好きな人がいるんじゃないの?』
「ヒマの同級生はそうなのか?」
『大変よ~』
「次に、どこが気に入ったかって聞かれた」
『……江梨さんといったか、すごい切り込んでくるな。で、なんて答えた?』
「言わなきゃダメ?」
『今日の核心じゃない』
「えっと、好意を持ってるっていうことが伝わるように答えた」
『『『『ヘタレ!』』』』
わかってるよ!
「最後に江梨さんとアドレスを交換した」
『芳にぃのエッチ』
『隼人さんごめんなさい。私が至らないばっかりに、芳幸が
『あっちの旦那さんは知ってるのか?』
父さんのいってることはもっともだけど、ヒマと母さんは何言ってるんだよ…
「なんだよ、エッチとか
「それと、盛り上がってるところを悪いけど、思い描いてるようなことにはならないと思うよ。あの年頃の子って、遊んでくれる相手をすぐ好きになるけど、小学生になると卒業っていったらいいのかな、離れていくよ。多分世界が拡がるからじゃないかな」
あれ、空気が変わった。なんで?
『芳幸。あなたは、琴菜ちゃんに喜んでほしいと思ってるんでしょ』
「そりゃ、まあ、だからチョコを分けてあげたり『チョコをあげて、琴菜ちゃんが喜んだことをどう感じた? そもそも何が根本にあるのかをよくよく考えること』」
『江梨さんは、琴菜ちゃんの親として芳幸のことを “見どころがある”と評価したんだぞ』
『前にも言ったけど、お兄ちゃんのいいところは、ちっちゃい子にもまっすぐ向き合うところ。そのことを考えてみて』
3人がヒートアップしてるが、たぶん“卒業”される……でも、
「いや、“今”にはちゃんと向き合うよ、言われるまでもなく」
「卒業されたとしても、それは当たり前で、“成長のあかし”ととらえるべきと思ってる」
『これだから非モテは! まあ、ご飯を続けましょう。そうそう、琴菜ちゃんによろしくって伝えておいてね』
卒業されることを決して望んでいないことは内緒だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ご訪問ありがとうございます。
ちょっとずつですが、コメディ要素を入れてみました。いかがでしょうか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます