第6話 ことちゃんのママと

『貴方が琴菜ことなと仲良くしてくれてる人?』


 ことちゃんのお母さんかな?


「この人は?」

『私のママ』


 キッスコーナーは、ローテーブルをはさんで、ベンチ代わりの木箱がおいてある。意外と座り心地がいい。


 ことちゃんのお母さんは僕の対面に座った。

 端正な顔立ちをなさってますが、この目ヂカラ……ワルキューレみたい……

 ということは、“検査”だ。


「えーと、こんにちは。僕は、武川たけかわ 芳幸よしゆきです。琴菜さんには仲良くしていただいています」

『いつも、琴菜におやつをくれて、ありがとうね。私は琴菜の母の江梨えり。“娘さんを下さい”じゃないんだから、そんなに緊張しなくてもいいわよ』


 緊張するなというほうが無理でしょう。


『あと、幼稚園児を“さん付け”はないでしょ。普段2人で呼び合っている呼び方でいいのよ』

「は、はい。僕は“ことちゃん”と呼んでます。ことちゃんのお母さん。ついさっきからですが」

『私は、“よーくん”って呼んでる』

『フフッ。可愛い呼び方ね。で、私は“よーくん”って呼ばないほうがいいのかしらね?』

『あと、そんなまどろっこしい呼び方をしなくてもいいわよ。“おかあさん”でも“江梨さん”でも。“おかあさん”が漢字2文字か1文字かは今は不問にしておくわ』


 漢字2文字か1文字かって……逆に意識してしまうじゃないですか。


『心配してるかもしれないけど、琴菜は慎重な子よ。その琴菜が気に入ってるんだったら反対する気はないわ。頭ごなしにはね』


 江梨さん……語順がめちゃくちゃ気になるんですが。


『芳幸くんは、高校生?』

「はい、市内の高校の2年生です」

『おうちはこの近く?』

「バスで5分ほどです」

『ウチは隣町。ここまで車で20分ってところかしら』

「隣町には、同級生のTaoufikタウフィク Boutellaブテラくんがいるので、月イチぐらいで行ってます」

『お友達? どちらの国の方かしら?』

「友達です。アフリカのアルジェリアからの留学生で、彼は日本語が堪能です」


『そう、Taoufikくんは頑張り屋さんなのね……ところで芳幸くんには彼女はいるの?』


 なんでこんな質問が?


「彼女は、いないです……その、彼女いない歴イコール年齢です」

『これはごめんなさい。悪いことを聞いちゃったかしら』

「いえ、大丈夫です」

『じゃ、好きな人はいるの?』



 “矢継早”とはこういうことか。


「今は好きな人はいません……過去にはいましたが、ヘタレで告白できなかったとか、告白したら断わられた、とか」


 ……


『琴菜、怖い顔しないの』

『だって、好きな人がいたって』

『で、琴菜のことはどう思ってるの?』


 もはや矢じゃなくて、レーザービームだな。


『ちょっとママ! よーくん困っちゃうでしょ!』

『琴菜は、芳幸くんの気持ちを知りたいでしょ』

『……知りたいけど……』


 武蔵坊弁慶ってやっぱりすごいな。矢がバンバン飛んできてるのに身動き一つしなかったんだろ……レーザーは知らんけど。


「あの、付き合ってるわけでは『気に入ったから、毎回おやつを持ってきて、あーんしてるんでしょ』」

「それは、その……すいません白状します」


 江梨さん、目ヂカラが一段と強くなった。ワルキューレからアテナ神に昇格か?

 絶対下手なことは言えない。


「僕が食べていたチョコが欲しいってねだられたんです。その時の第一印象は、“可愛いらしい顔立ちをした女の子”でした。そのあと、どうしてチョコを食べてるのかと聞かれ、おなかがすいているからと答えたら、ビスケットをくれました」

「これは、母性行動かとも思いましたが、僕は優しくしてもらったと信じたいです」


 あれ、ことちゃんが赤くなってる。


『母性行動って……まあ、女性はそういうところがあるけど、琴菜は優しくしたかったのかもしれないわ』

「ところで、あのビスケットは、ことちゃんのおやつだったのでは?」

『そうよ。琴菜は自分のおやつを芳幸くんに分けてあげたのよ』


 うれしいけど、ちょっと申し訳ないかな。


『ところで、いきなりチョコをねだられてどう思った?』

「僕は子供のころとっても田舎に住んでて、遊び相手が二つ年下の妹だけだったんです。だから、“お兄ちゃん”が身に染みていて、小さい子にねだられるのは、平気というかむしろうれしいです」


 江梨さんの表情はアテナ神から人間に戻った……と言うことは僕の対応は間違ってなかったんだ。よかった。


はやて……こーちゃんの兄も似たようなことを言ってたわね』

「ことちゃんありがとうね。あと、チョコをあげたり、僕がことちゃんに優しくされてびっくりしていると、吸い込まれるような笑顔になります」


『よーくんもうやめて。恥ずかしい』


 ことちゃん真っ赤だ。


『アドレスを交換しましょう』

「えっ!」


 合格、したんですよね?

 でも、僕、旦那さんに殴られない?


『なに、びっくりしてるのよ。事務連絡用よ』

『ママ、スマホ買って! よーくんとアドレスを交換したい!!』

『もっと、大きくなったらね』 

『むー』

「じゃ、ちょっとスマホを貸してもらえますか。自分宛てに空メール打っちゃいますから」

『はい、新規メールは立ち上げてあるよ』

「拝借します」


「はい、着信しました。で、返信。はい、スマホをお返しします。ありがとうございました」

『どうしてお礼?』

「女の人のアドレスは初めてでして」

『そうなの。まあそのうちこーちゃんと交換するといいわ』


『よーくん』

「何?」

『私以外の女の子と交換しちゃだめだからね』

「お、おう」


 いきなりの江梨さんの登場でびっくりしたけど……わかってもらえてよかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。

 

 タグにはしてませんが、男の子は妹を可愛がります。特に年齢が離れていると……




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