第4話 St. valentine's day

 さてと、宿題が終わった。

 今日のお昼ご飯は、野菜炒めにしようかな。その後は、プールの準備……コンビニでチョコを買っておかないと。無駄になるかもしれないけど……まあ、無駄になったらヒマにでもやろう。望まないけど。


♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪♪


 ん、着信。ディスプレイには"槙野まきの家"と表示されている。


『芳にぃ? ヒマよ』


 向日葵ひまわりからだ。


「どした」

あきらが熱出した。お医者さんに行ったら風邪だって言われた』

「それは大変だ、何か足りないものはあるか、スポドリとか?」

『ゼリーもスポドリもお粥のもともいっぱいあるから大丈夫だけど、今日はお母さんはパートだからヒマが晶を看る。だから、プールはお休み』

「えっ!」


 それは困る……けど、仕方ない……か?


『どうしたの~』

「いや、なんでもない」

『フフ、1回ぐらい会わなくたって忘れないと思うよ、彼女は……あっ、バレンタインか、それはごめんね』

「ちょ、彼女とかバレンタインとか、何言ってるんだよ!」

『スクールで女の子と仲良くしてるんでしょ』


 晶が“報告”したな。


「仲良くって、話しただけだよ」

『やっぱり。彼女になってもらったら?』

「彼女になってくれないと思うぞ。まず10歳以上年齢が離れているし、あれぐらいの年齢ではすごく仲良くしてくれても、小学校に上がったぐらいで“卒業”されるんだよ」

「ヒマだって小1で手を繋いでくれなくなったぞ」


 あの子だって……


『それは、芳にぃの頑張り次第』

「頑張っても、“卒業”されるって。それと、この話はどこまで広がってるんだ」

『知っているのは、ウチの両親、そっちのお父さん、お母さん、そして慈ねぇ』


 全員じゃないか……慈枝よしえも知ってるのか……


『そ~私も知ってるよ』


 いきなり背後から声をかけられてビックリ。


「あ、慈枝……ヒマ、わかった。晶をよく看てやれ。スポドリは薄めて飲ませろよ」

『じゃーねー』


 電話の向こうでヒマがニマニマしてる様子が目に浮かぶよ。


「いや、あれはチョコを食べてたらねだられて……チョコが欲しかっただけとか……」

『フフ、関心ない人にはねだらないわよ。ビスケットをくれたんでしょ。胃袋を掴みに来てるとか』

「あれは……母性行動かもしれな『ネガティブにならない! お兄ちゃんのいいところは、ちっちゃい子にもまっすぐ向き合うところよ。子どもは、自分に真剣に向き合ってくれる人を好きになるものなのよ』」


 食い気味に“いいところ”を言われた。どうとらえていいものやら。


「いや、それが……先週、チョコが“おいしくない”って言われて……」

『弱気にならない! 一の矢が躱されたら二の矢を放つ。二の矢が外れたら三の矢を放て!!』


 戦国武将か?


「別に口説き落そうと思ってるんじゃないぞ。それに、ヒマにもいったけど“卒業”されるかも知れない……でも、まあ、ありがとう」

『この前は、死にそうな顔をしてたけど、今はだいぶ回復してる。だから、がんばれ芳幸よしゆき!』


 そうだ、あの子が喜ぶことを第一に考えなきゃいけない……たとえ、期間限定であったとしても。


 だから、一度でいい、あの子がおいしいって言ってくれるものをあげるチャンスが欲しい。


◆◆◆◆◆◆side琴菜◆◆◆◆◆◆


 昨日の2月7日。幼稚園の園庭で、女子たちが話していた。


『来週の金曜日はバレンタインデーよね。ネモちゃんは誰かにチョコあげるの?』

『えーと、私は……れいくんにあげるの』

『ネモちゃんは玲くんが好きなの?』

『まだ、好きっていうのは違うかもだけど、玲くんは、すごく優しくて、私がハンカチを忘れたとき、貸してくれたの』


『そういう陽葵ひまりちゃんは誰にあげるの?』

『陽葵は……真司しんじくんにあげるの』

『陽葵ちゃんったら……真司くんのパパから真司くんに乗り換えたの?』

『陽葵が好きなのは真司くんよ。真司くんのパパがかっこいいって言ったのは、パパをかっこいいって言ったら、真司くんが陽葵のこと好きになってくれるかなと思って』


 こーちゃんは男子にはチョコはあげない。だってみんな子どもなんだもん。

 あげるなら、もっと大人で、かっこいい人に。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 あの人来てない。やっぱり、こーちゃんに嫌われたと思って来なくなっちゃったのかな。



「ママ、あの人が来てないの」

『いつも来れるわけじゃないよ。えーと、いつも男の子を連れてきてるでしょ、その子が風邪をひいたとか?』

「こーちゃんのこと嫌いになってないよね」


 なんでママはそこで笑うの!


『あの子がこーちゃんのことをどう思ってるかわからないから不安なのね?』

「うん」

『じゃあ、あの子とちゃんとお話ししなさい』

「お話しするだけでいいの?」

『お話しして、もっと仲良しになれば、あの子がこーちゃんのことをどう思ってるかわかってくるわよ。前に言ったように、おやつをねだって一緒に食べるのよ』

「うん」

『ママは、あの子はこーちゃんのことを嫌いになってないと思うわ』

『で、このチョコレートはどうする? これは長持ちしないチョコだけとはやてにやる?』

「こーちゃんが食べる」


 遠足の時、Alyssa(アリッサ)は、健太郎けんたろうくんの隣でお弁当を食べてた。

 隣にいるのがうれしいって……



 よし、こーちゃんも!


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。

 

 バレンタインは残念でした。が、ちっちゃい子がいると往々にしてこういうことはあります。

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