第3話 おいしくない

 今日2月1日は、クランベリーチョコレートを用意して、ヒマやあきらに取られないように隠してある。ちょっとビター系なんだそうだ。

 喜んでくれるかな。


 いつもの通り、キッズコーナーでパソコンを始めたが、なぜだかソワソワキョロキョロしてしまって、ちっともはかどらない……あっ、来た。


『今日はないの?』

「あるよ」


「あーんして」


 あれ、笑顔が消えた。


『おいしくない』


 !!


 吐き出したがってる……そこらに吐き出させるわけにはいかない。

 だから、手を差し出して、


「ここに吐き出していいよ」


 とは言ったものの、本当に吐き出されて、やっぱり、ショック。

 吐き出されたチョコは、どこにも持って行けないので僕が食べた。


 ちょっとまて、これ、間接キスじゃないか。それも、あの子が一度口に入れているから、たっぷり唾が付いており、かなりディープな間接キス。

 変態と思われたかも。


 あの子を呼ぶ声がして、あの子は何も言わずに行ってしまった。


 ……


◆◆◆◆◆◆side琴菜◆◆◆◆◆◆


 今回は、こーちゃんがあの人を見つけるより先に、あの人がこーちゃんを見つけてくれた。

 ちょっとうれしい。


 あれ、今日はおやつないのかな?


「今日はないの?」

『あるよ』


 あの人はポケットからチョコを取り出し、封を切って、


『あーんして』


 え、甘いんだけど、なんか、苦くて酸っぱい。


「おいしくない」


 あの人、すごい驚いてる。

 あの人、手のひらを上にして差し出し、『ここに吐き出していいよ』と言った。


 なんかつらそうな顔になってない??


 言われるがままにチョコを吐き出したけど……


 あの人は、こーちゃんが吐き出したチョコを食べた。食べて少したってから、もっとつらそうな顔になった???


 名前を聞こうと思ったんだけど、あの人すごくつらそうになっているので、聞けないし、私の名前も教えられない。



『こーちゃん』


 ママが、呼んでる。


 せっかくくれたチョコを吐き出してしまったのが、イジワルしたみたいで、何も言わずにママの許に走って行ってしまった。


 本当は、“またね”って挨拶をしたかった。



 でも、あの人、どうしてつらそうだったのかな?

 ママに聞いてみよ。


『こーちゃん。名前を教えてもらった?』

「あの人、つらそうにしてて、聞けなかった」

『どうしてつらそうにしてたのかな?』

「わかんない。」

『……今日なにがあったか、どんな話をしたか、ママに教えて』

「うん。」


「今日、あの人が持ってきたチョコは、甘いんだけど、ちょっと苦くて酸っぱかったの」

『うん……大人向けのチョコを持ってきたのね』


「それで、“おいしくない”って言ったら、あの人とてもびっくりしてた」

『なんとなく見えてきた、かな?』

「あの人、“ここに吐き出していいよ”って手を出してきたから、吐き出して……あの人が食べたの……しばらくしたら、もっとつらそうになったの」


「せっかくくれたのに吐き出しちゃって……イジワルしたみたいで、何も言わずに帰ってきちゃった」

「ねえ、ママ、どうしてあの人はつらそうにしたのかな」


『こーちゃんは、あの子からもらったチョコがおいしくないって言ったんでしょ、だからあの子はおいしくないものを食べさせて、こーちゃんに悪いことをしたと思ったんじゃないかしら』


 そんな!


「こーちゃん、悪いことをされたなんて思ってないよ?」


『あと、こーちゃんが吐き出したチョコをあの子が食べたんでしょ。これは、間接キスっていって、ちゅーと一緒ね。あの子はこーちゃんにエッチなことをしてしまったと思ってるんじゃないかしら』

「間接キスって……パパやお兄ちゃんだってこーちゃんが残したおかずを食べてるよ? エッチじゃないよ」

『普通はそうだけど、あの子はこーちゃんに“おいしくない”って言われて不安になってたからそう感じてしまったかもしれないわ』


 ……ごめん。


『でも、何も言わずに帰ってきちゃったのは、よくなかったわね』


 やっぱり、良くないことだったんだ!


『あの子は、こーちゃんが何も言わずに帰っちゃったから、こーちゃんに嫌われたと思っているかもしれないわ』


 違う、こーちゃん、あの人を嫌いになんてなってない。


「こーちゃん、あの人のこと嫌いになってない。だから、“嫌いになってないよ”って言う。大人向けのチョコだって、もうすぐ食べられるようになるから大丈夫だよって」


『それは言わなくてもいいわよ。あの子は今度もおやつを持ってくるでしょ。こーちゃんが“ちょうだい”ってねだるだけで、あの子は“嫌われてない”って安心するよ』

「やってみる」


 こーちゃんは、嫌ってないよ。


◆◆◆◆◆◆side芳幸◆◆◆◆◆◆


 僕、嫌われたかな。


 残っていたチョコを味見して、いまさらながら、子供向けではないということを認識した。


 今日、あの子の名前を教えてもらって、自分も名乗ろうと思っていたけど、それどころじゃなかった。

 ひょっとしたら、嫌われてしまったかもしれない。


 ……あの子が吐き出したチョコは、味見したチョコよりすっと甘く感じた……は内緒で。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 ご訪問ありがとうございます。

 

 会話劇ではあるのですが、会話は崩し気味の喋り言葉です。これは、実際の会話を頭の中で思い浮かべて……時には口に出して考えているためです。あまり小説らしくないかもしれませんが、お付き合いいただければと思います。

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