第2話 ねえ、これちょうだい◆side琴菜◆
あの人は、スクールのキッズコーナーでパソコンを使っていた。
お兄ちゃんより大きいみたいだから高校生かな?
大人の男の人って怖いと思っていたんだけど、あの人は……かっこいいと思う。
あの人、スイムキャップ置き忘れて帰ろうとした子に走って追い付いて渡してた。優しいのかな?
今日もパソコンしながらチョコを食べてる……
……
……
ヨシ!
「ねえ、これちょうだい」
『……ん』
あの人、かっこいい表情から優しそうな表情にゆっくり変わっていく。
そんな優しそうな顔されたら、こーちゃんは……
『……ああ、いいよ』
やった!
もうチョコを取ってもいいのかな?
あの人は、チョコを一粒つまんで……こーちゃんと一緒に食べたいのかな?
『あーんして』
えっ、あーんしてくれる!
うれしい!
『おいしい?』
「うん」
もちろんだよ。“あーん”だし。
『よかった。僕も食べていい?』
「いいよ」
やっぱり、一緒に食べたほうがうれしい。
でも、どうして今日はチョコを食べてるの?
「どうして、チョコ食べてるの?」
『おなかがすいたからだよ』
大変。何か食べさせてあげなきゃ……ママがビスケット持ってたっけ。もらってこよう。
「これ、あげる」
『えっ、いいの?』
あげるつもりだよ!
「うん」
1枚だけでいいの? もっと食べてもいいよ。
『ありがとう』
おいしいって思ってほしいな。
『おいしいよ』
よかったー
『―ちゃん、帰るよー』
「あ、ママが呼んでる」
『うん。またね』
“またね”だって!
でも、“さようなら”や“バイバイ”より“またね”のほうがうれしいかも。
「うん。またね!」
今までは声をかけられなかったけど、今日はおねだりして、お話しできた。こういうの“あざとい”っていうのかな?
『
ママが“こーちゃん”じゃなくて名前で呼ぶときはマジだもん。
ママ、怒ってるのかな……
「えっと……ごめんなさい」
『怒ってるんじゃないのよ。琴菜は大きい男の子が苦手なんじゃなかった? お隣の
「……ちょっとかっこいい人だからお話ししてみようと思った」
“ちょっと”じゃないんだけど、内緒。
『今日、初めてかっこいいって思ったの?』
「もっと前から。パソコンしてるのがかっこいいって思ってた」
『そんなにかっこよかったかしら? それで?』
ママったら、見る目がないよ。
「チョコを食べてたからちょうだいって言ったら、あーんしてくれたの」
『初めて会ったのに“あーん”? お子さんがいるようには見えなかったけど、ちっちゃい子が好きなのかな?』
『ビスケットは?』
「おなかがすいてるって言ってたから」
『いきなりビスケットをちょうだいってきたときはびっくりしたわ』
『それで、名前は教えてもらった?』
「教えてもらおうと思っていたんだけどママに呼ばれて」
『それはごめんね』
『フーン……まあ悪い人じゃなさそうかな。琴菜はあの子のことが好きになったの?』
こーちゃんはあの人のことが好き?
「……わかんない」
『でも、気になるんでしょ。だったら、あの子ともっといっぱいお話しして、あの子のことを知ったほうがいいわ。どんなお話をしたかはママに教えてね』
「ありがとう。こーちゃん、あの人とお話ししてみる。名前を聞いて、ママに教える」
『名前を聞くときには、自分の名前も教えるのよ。それと、“ちゅーしたい”なんて言うのは悪い人だからね。絶対しちゃだめよ!』
「うん。“ちゅーは大人になってから”って習った」
ちゅーか……
『ほかにも困ったことがあったら、ママに話してね。大丈夫、ママがついてるから』
『パパには……パパはこーちゃんが男の子と仲良くしたってことを知ったら落ち込んじゃうかもしれないから、しばらく内緒にしましょう。まあ、
そういえば、
『フフ、娘と恋バナする日が来るとは……5歳とは意外だったけど……よし、今夜はごちそうにしましょうか。こーちゃんの初恋だからね』
「恋バナとか初恋って、何言ってるの!」
『そうかー“まだ”違うかー』
「だからー!!」
『フフフ、あの子はこーちゃんにチョコを食べさせて、こーちゃんはあの子にビスケットを食べさせたわけね』
「うん」
『結婚式ではね、ウエディングケーキを切り分けて、旦那様はお嫁さんに食べさせて、お嫁さんは旦那様に食べさせるのよ。一生食べるものには困らせませんってね。こーちゃんたちはチョコとビスケットね』
!!!
結婚だなんて、ママったら何を言ってるのかしら。
『ごちそうの材料を買わなきゃね。スーパーに寄っていくから手伝って』
「うん、手伝う」
あの人とお話しできて良かった。
“あーん”してもらったし。
もっと仲良しになりたいな。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ご訪問ありがとうございます。
私はどうも三人称視点が苦手で、読んでくださっている皆様に「これはどっちが考えてること?」と混乱を招きそうなので、切り替えはありますが、すべて一人称視点とします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます