第40話 『はやっしー』ついにクビになる。

『はやっしー』こと林博光は、先日自らが開設している動画チャンネルで大炎上する騒動を起こした。

 事の発端は、林がある地方都市のゆるキャラをパクり扱いしたためで、そのゆるキャラに関わっているすべての者から激しくバッシングされたのだ。


「パクったのはお前の方だろ!」

「何がはやっしーだ。そんなの、誰も知らねえよ!」

「はやっしー共々、今すぐ消えてしまえ!」


 数日経っても騒動は一向に収まる気配を見せず、林はとうとう動画チャンネルを閉鎖せざるを得なくなった。


──あーあ。せっかく、はやっしーが世間に浸透してきたっていうのに……。


 本人が思うほど、はやっしーは世間に認知されてはいないのだが、それでも林のショックはかなりのものだった。

 さらに追い打ちをかけるように、その噂が工場内にも広まり、従業員たちが彼に白い目を向けるようになった。


「ほら、あの人よ。パクり騒動で炎上したって人」

「実際は自分の方がパクってたんだろ? ほんと、どういう神経してんだか」

「ていうか、あの人いつまでここで働く気なのかしら」


 普段、人の言うことなど我関せずの林だったが、さすがにここまで言われると黙ってはいられなかった。


「君たち、勘違いしてるようだから教えてやるけど、パクったのは向こうの方で俺はいわば被害者みたいなものなんだよ」


 自信満々に答える林に、従業員たちは更に攻撃的な態度を見せた。


「その高飛車なところが鼻につくんですよ」

「悪いのは自分なのに被害者面しないでよ」

「もうあんたの顔なんて見たくないから、さっさと辞めてくれないかな」


「き、君たち、いくらなんでも、それは言い過ぎだろ。年配者に対する配慮ってものが、君たちにはないのか?」


「あなたに対しては、そんなものは必要ありません」

「年配者なら年配者らしく、引き際を考えたらどうですか」

「もう誰もあんたなんて必要としていないんだよ」


「そんなことはない! 俺は仕込みのことならなんでも分かってるから、仕込み室で作業している者はみんな俺のことを必要としてるはずだ」


「じゃあ、本人たちに訊ねてみたらどうですか?」


「言われなくてもそうするさ!」


 そう言うと、林はすぐさま仕込み室へ駆け出した。


「なあ田中くん、俺はまだまだこの仕込み室に必要な人間だよな?」


 すがるような目でリーダー格の田中に訊いた林だったが、彼の答えは思いもよらないほど辛辣なものだった。


「ハッキリ言って、あなたから教わることはもう何もありません。それに、あなたは口ばかりで行動が伴わないので、たとえ居なくなっても何の支障もありません」


「今まで、ここで十年以上も働いてきて、君も入社した時から今まで面倒見てきたというのに、そんな言い方はないんじゃないか?」


「こう言ってはなんですが、面倒を見るのは先輩社員として当たり前のことですよね? それに、あなたがここで十年以上も働いてこられたのは、本来あなたがやらなければいけない仕事を他の従業員たちがフォローしてきたからですよ」


「ふん。君は恩を仇で返す見本のような奴だな。もう君には何も聞かないよ。じゃあ山本君、君は俺のことを必要としてるだろ?」


「いえ。残念ながら、僕も田中さんと同意見です。人に命令するだけで、自分は何もしないあなたなど、この仕込み室に必要ありません」


「ほう。まさか君も恩を仇で返すタイプだったとはな。じゃあ、先週入った河内君、君はさすがにまだ俺のことが必要だろ?」


「いえ。元々僕は補助的なことしかしていないので、田中さんと山本さんさえいればそれで充分です」


「君はまだ知らないみたいだけど、この中で仕込みのことを一番分かっているのは俺なんだぞ」


「たとえそうでも、あなたはサボってばかりで全然働かないじゃないですか。そんな人が必要なわけないでしょ」


「ほう。派遣社員のくせに随分でかい口をたたくじゃないか。そんなこと言ってると、ここにいさせなくしてやるぞ」


「それ、パワハラですよね? 後で井上さんに報告させてもらいます」


「勝手にしろよ。どうせ入ったばかりの君の意見なんて、聞いてもらえないから」


 そう高を括っていた林だったが、この河内へのパワハラ発言が問題となり、パクり騒動と相まって会社を追われることになった。

 その際、林は「君たち、寄ってたかって人のことを追い込んだら、いけないんやっしー。そういう人間は地獄に落ちればいいやっしー。毒汁プシュー!」と、思い切り毒を吐きながら去っていった。 

 


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