第32話 ドラマ化決定!
協田の企画した『自らの実体験を基にしたオムニバスドラマ』が、某テレビ局のプロデューサーの目に留まり、ドラマ化されることになった。
テーマはずばり『嫉妬』。協田が今まで付き合ってきた女性に降りかかった不幸の数々を、一話完結方式で来年の一月から十話分放送することになった。
そのお祝いに、協田と同じ部署で働く派遣社員たちが、彼のために居酒屋を貸し切って、ちょっとしたパーティーを開いた。
「協田さん、おめでとうございます!」
「協田さんなら、いつかやってくれると思ってました!」
「私、そのドラマ絶対観ます!」
「ありがとう。脚本自体は暗いものなんだけど、俺の実体験を基にしたものだから、リアルさには自信あるんだ」
「一話完結方式で十話分放送されるということは、十人分の不幸のエピソードを書いたんですか?」
「ああ。本当はもっといるんだけど、その中から厳選したんだ」
「その中の一人でいいですから、どんなエピソードを書いたのか、聞かせてくれませんか?」
「残念だけど、ネタばれになるからそれはできない。まあ、ドラマを観てくれれば分かるよ」
「主演の俳優はもう決まってるんですか?」
「いや。撮影が始まるのが来月からだから、もうそろそろ決まると思うんだけどな」
「協田さんの役をやるわけだから、相当な二枚目でないと務まらないわね」
「一話完結方式だったら、一話ごとに相手役が変わるってことね」
「普通の連続ドラマもいいけど、オムニバスドラマってそういう面白さがあるよね」
協田を祝うために開いたパーティーなので、話が彼中心になるのは当然のことなのだが、レオだけはそれを快く思っていなかった。
「実は、私は若い頃は役者志望で、ブラジルにいた時はよくオーディションを受けてたんですよ」
「はあ? そんなの、初耳なんだけど」
「あんた、料理人志望って、前に言ってなかった?」
「まあ、別にどうでもいいけど」
「はい。確かに私は料理人志望でした。さっきのは、みなさんを振り向かせるために言った嘘です」
「どうせ、そんなことだろうと思ってたわ」
「そんなしょうもない嘘つかないでよ」
「ほんと、時間の無駄だったわ」
「たとえ悪口でも、無視されるよりは全然いいです。ところで協田さん、今まで付き合ってきた女性の中で、今でも連絡先が分かる人っていますか?」
「ああ。何人かいるけど、それがどうかしたか?」
「協田さんと付き合って、どんな不幸な目に遭ったか、直接聞きたいと思いまして」
「そんなこと聞いてどうするんだ?」
「今後の参考にするんですよ。私がこれから付き合う女性を、同じ目に遭わせないためにね」
「あんた、結婚してるくせに、またそんなこと言って!」
「いい加減、その悪い癖を直しなさいよ!」
「この、エロポンコツ野郎!」
「みんなの言う通りだ。そもそも、お前と俺はキャラが全然違うから、話を聞いても参考にならないよ」
「それでも会いたいんです。不幸な目に遭うと分かっていながら、なぜ協田さんと付き合おうと思ったのか、聞きたいんです」
「そんなに聞きたければ、麗華に聞けばいいじゃないか。今、俺と付き合ってるんだからさ」
「それもそうですね。ところで、麗華さんの姿が見当たらないけど、どうしたんですか?」
「用事があるとかって、今日は来てないよ」
「用事って?」
「さあ? 付き合ってるからって、そんなのいちいち聞かないよ」
「それ、ちょっとおかしくないですか? 彼氏の門出を祝うことより、自分の用事を優先させる麗華さんもそうですけど、その理由を聞かない協田さんも変ですよ」
「そうかな? 俺は付き合ってるからといって、相手を束縛するようなことはしたくないだけなんだけどな」
「協田さんの言う通りよ。関係のないあんたが、余計な口を挟まないでよ」
「そうよ。二人が良ければ、それでいいのよ」
「この、エロポンコツ野郎」
「男女が付き合えば、多かれ少なかれ束縛は付き物です。逆に束縛されないと、付き合っている実感が湧かないと思いますけどね」
「大した恋愛経験もないくせに、聞いた風なこと言わないでよ!」
「そうよ。恋愛経験豊富な協田さんに、あんたが意見してんじゃないわよ!」
「この、エロポンコツ野郎!」
「最後の人、さっきから同じことばかり言ってますね。まあ、それはいいとして、私は決して恋愛経験が少ないわけではありません。こう見えて、ブラジルにいた頃はモテモテだったんですから」
「そんなの絶対嘘よ!」
「そうよ。もし本当だって言うのなら、証拠を見せなさいよ!」
「この、エロポンコツ野郎!」
「最後の人、あなたはその言葉しか知らないんですか?」
「そんなわけないでしょ。この、エロポンコツ野郎!」
「あなたにこれ以上、何を言っても無駄ですね。じゃあ、私はこの辺で失礼します」
「なによ。あんた、逃げる気?」
「そうよ。証拠がないからって、逃げるのは卑怯よ!」
「この、エロポンコツ野郎!」
悔し紛れにデタラメを言ったレオに当然証拠などなく、女性たちの罵声を背中で浴びながら、そそくさと店を出ていった。
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