第26話 俺のはウインナーじゃない!
「わあ、パパのあそこ、ウインナーみたい」
娘の亜里沙と風呂に入っている最中、レオは彼女からそう言われたことに、不満の表情を浮かべながら、「亜里沙、パパのあそこはウインナーじゃなくてフランクフルトだよ」と、はっきりと訂正した。
「ううん。パパのは、フランクフルトほど大きくないから、やっぱりウインナーだよ」
あくまでもウインナーと言い張る亜里沙に、レオは「今はウインナーでも、興奮するとフランクフルトになるんだよ!」と、大声で捲し立てた。
その声はキッチンで洗い物をしていた妻の由美にも届き、彼女は血相を変えながら、すぐさま風呂場へ駆け出した。
「あなた! 亜里沙に変なこと教えないでよ!」
「俺はただ、本当のことを言っただけじゃないか」
「なんでもかんでも、本当のことを言えばいいってものじゃないの。いい年して、そんなことも分からないの?」
「これは俺のプライドに関わる問題なんだよ。お前はいつも間近で見てるから、よく知ってるだろ? そのことを亜里沙にも教えてくれよ」
「そんなの、教えるわけないでしょ! いいからもう、二人とも出なさい!」
そう言うと、由美は風呂のドアをピシャリと閉め、キッチンへと戻っていった。
──レオのやつ、亜里沙に変なこと教えて。後でたっぷりと説教してやるから。
由美がそう思っていることなど露知らず、レオはなおも「いいかい。パパのあそこはフランクフルトだったと、幼稚園の友達にも言うんだよ」と、亜里沙に訴えていた。
やがて二人が風呂から上がると、由美は亜里沙を早々に寝かしつけ、レオを呼びつけた。
「あなた、ちょっとここに座ってよ」
「なんだよ、そんな怖い顔して」
「さっきの続きに決まってるでしょ。亜里沙はまだ五歳なんだから、変なこと教えないでよ」
「遅かれ早かれ知ることになるんだから、別にいいじゃないか」
「いいわけないでしょ! 亜里沙が幼稚園でそのことを友達に話したら、どうするのよ!」
「俺はむしろ、そうした方がいいと思ってるよ。そしたら、回り回って、その子たちのママが俺のあそこに興味を持つだろ?
」
「はあ? あなた、自分のあそこがフランクフルトと言われて、恥ずかしくないの?」
「なんで恥ずかしいんだ? 俺はむしろ誇らしくさえ思うよ。自分のあそこはフランクフルトなんだってな。ぎゃははっ!」
「あなたが恥ずかしくなくても、私が恥ずかしいのよ! いいから、もう二度と亜里沙に変なこと教えないで!」
「分かったから、もうそんなに怒るなよ」
本当は何も分かっていないレオだったが、由美の怒りを鎮めるためにはそう言うしかなかった。
翌日、亜里沙が幼稚園で言いふらしたせいで、レオのあそこの噂が一気に広まった。
ただ、その噂には尾ひれが付いていて、レオのあそこはフランクフルトを通り越して、巨大ハムになっていた。
「あなたが亜里沙に変なこと教えたせいで、私まで変な目で見られてるのよ。もう恥ずかしくて、近所も歩けないわ」
「そんなこといちいち気にせず、逆に私は巨大ハムの夫を持ってるって、堂々としてればいいんだよ」
「ほんと、あなたは気楽でいいわね。私にあなたの十分の一でもその気楽さがあれば、どんなにいいか」
「俺にはラテンの血が流れてるからな。なんなら、俺の血を分けてやろうか?」
「いらない。冗談で言っただけだから。それより、これからどうするつもり?」
「どうって?」
「自分のあそこを巨大ハムと言われたまま、放っておくのかってこと」
「確かに、いくらなんでも巨大ハムは言い過ぎかもな。今から俺のあそこはフランクフルトだと、近所に言って回ろうか?」
「問題はそこじゃないから! あなたのあそこを、物に例えられてること自体が問題なの!」
「俺は別に気にしないけど、お前がそこまで言うのなら、何か対策を考えようか?」
「対策といっても、もう近所に知れ渡ってるからね。それをご破算にするのは、並大抵なことじゃできないわよ」
「じゃあ、『人の噂も七十五日』ということわざもあることだし、あと二か月半ひたすら我慢するっていうのはどうだ?」
「二か月半も我慢なんてできないわよ」
「じゃあ、俺のあそこのことなんて吹っ飛んでしまうほどの噂を流すのはどうだ?」
「例えば?」
「近い将来、この近辺で大地震が起こるっていうのはどう?」
「それ、同じような話題をもう何年も前からテレビでやってるけど、未だに何も起こらないじゃない。それより、もっと信憑性のあるものはないの?」
「じゃあ近い将来、この近辺にUFOが現れて、宇宙人に遭遇できるっていうのは?」
「それ、今時テレビでもやってないから」
「じゃあ最後の手段として、ノストラ〇ムスの大予言が二十四年遅れで来月やってくるというのは?」
「私たちより若い世代は、もうノストラ〇ムスの名前を知ってる者さえあまりいないから。もういいわ。この中なら、まだ最初のやつが一番マシだから、噂が消えるのをひたすら待つことにするわ」
「それがいいよ。こんなの気にしてても、仕方ないからさ」
こんな噂が立ったのも、元はと言えばレオのせいなのだが、当の本人はそんなことなどなかったかのように、由美を励ましていた。
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