第16話 超ポジティブ思考
「ねえ、麗華。あれから協田さんに、何かアクション起こした?」
出勤途中のバスの中で、森杏奈は隣に座っている日笠麗華に訊ねた。
「いえ。そうしたいのは山々なんですけど、いかんせん女性陣のガードが固くて、簡単には近づけないんですよね」
「そんなこと言ってると、いつまで経ってもアタックできないわよ。私みたいに、女性たちをみんな蹴散らすくらいの勢いで行かなきゃ」
「そういえば、安奈さん、この前、協田さんにアタックするって言ってましたけど、結果はどうだったんですか?」
「私の想いは伝えたんだけど、なんかうまくはぐらかされたっていうか……」
「どうしたんですか? 安奈さんにしては珍しく歯切れが悪いですね」
「これは麗華には黙っておこうと思ったんだけど、やっぱり言うことにするわ。協田さんが今まで付き合った女性は皆、嫉妬に狂った女性たちによってひどい目に遭わされているらしいのよ」
「えっ! それ、誰に聞いたんですか?」
「協田さん本人よ」
「じゃあ、本当なんですね。安奈さん、もしかして、それを聞いて尻込みしてるとか?」
「正直に言うと、私、その話を聞いて、少し引いちゃった。協田さんと付き合いたいのは山々だけど、不幸にはなりたくないんだよね」
「じゃあ、もう協田さんのことはあきらめるんですか?」
「まだそこまではいってないけど、前より熱が冷めたのは確かね」
「それを聞いて安心しました。これから私は安奈さんに遠慮することなく、協田さんにがんがんアタックします」
「女性陣の嫉妬は怖くないの?」
「はい。私、こう見えて、けっっこう打たれ強いんですよ。学生時代にずっとバレーのリベロをやってたので」
「ふーん。で、どんな風にアプローチしようと思ってるの?」
「駆け引きはあまり得意ではないので、正攻法でいこうと思ってます」
「たとえば?」
「『好きです。私と付き合ってくれませんか?』とか」
「まだ、まともに話したこともないのに、それは性急過ぎるでしょ。協田さんもビックリするわよ」
「告白されることに慣れっこになっている協田さんには、そのくらいの方がインパクトがあっていいと思いません?」
「まあインパクトも大事だけど、それが逆効果にならないといいけどね」
「それならそれで、また別の方法を考えますよ」
「麗華って、意外とポジティブなんだね」
「安奈さん、意外は余計ですよ」
「「あははっ」」
やがて工場に着き作業室に入ると、麗華は配置板の前に立っていた協田に声を掛けた。
「協田さん、昼休みに少し話したいことがあるんですけど、いいですか?」
「いいけど、話って何?」
「それは後のお楽しみということで」
そう言うと、麗華はすぐに自分のポジションに走っていった。
──日笠さんとは、今までほとんど話したことないのに、一体何の話だろう。
首を傾げる協田を尻目に、麗華は達成感からか、いつもより張り切って作業していた。
やがて昼休みになると、麗華はすぐに昼食をとり、待ち合わせ場所に指定した工場裏へ移動した。
──よかった。協田さん、まだ来てないわ。呼び出した私の方が遅かったら、洒落にならないもんね。
そんなことを思いながら待っていると、程なくして協田が小走りでやって来た。
「やあ、待たせて悪かったね」
「いえ。私も、今来たところですから」
「そうなんだ。で、話というのは?」
「その前に一つ訊いてもいいですか?」
「うん、いいよ」
「今朝、安奈さんに聞いたんですけど、協田さんがこれまで付き合った女性が、みんな不幸になってるって、本当ですか?」
「本当だけど、それがどうかした?」
「ちなみに、どんな風に不幸になったんですか?」
「まあ色々だから、一言では言えないけど、一人、例を挙げると、その人とは職場が同じだったんだけど、俺と付き合うようになってから、同僚の女性たちに嫌がらせをされるようになって、しまいにはノイローゼになって入院したよ」
「そうですか」
「あれ? もっと驚くかと思ったけど、割と冷静なんだな」
「はい。そのくらいのことは、ある程度予想してましたから」
「なるほどね。ところで、どうしてこんなこと訊くんだ?」
「覚悟が必要だと思ったからです」
「覚悟?」
「はい。協田さんと付き合うと、周りから嫉妬を受けることは確実なので、それがどのくらいのものか、知っておきたかったんです」
「俺と付き合う? 森さんの時もそうだったが、なんで今までまともに話したこともないのに、いきなりそうなるんだ?」
「話したことがなくても、協田さんがどんな人かは分かります。私のことは付き合っていれば、おいおい分かってくると思いますので、よかったら私と付き合ってくれませんか?」
「まさか、君がこんな強引な人だとは思わなかったよ。人は見かけによらないって言うけど、君はまさにその典型だな」
「それって、誉め言葉ととらえていいんですよね?」
「ほんと、君ってポジティブだな。俺が今まで付き合ってきた女性の中には、いないタイプだよ」
「じゃあ、新鮮な気持ちで私と付き合えるってことですね!」
「だから、それは飛躍し過ぎだって」
「私、打たれ強さには自信があるので、他の女性たちの嫉妬にも負けませんから!」
「……そうなんだ。それは心強いな」
積極的にがんがん攻めてくる麗華に、協田の心は傾きつつあった。
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