第7話 レオ、リベンジなるか?

 翌週の月曜日、レオは作業室に入るなり坂坂コンビに、「今日の昼休み、葉子さんと組んで、あなたたちをネタにした漫才を披露するので、楽しみにしててください」と、宣戦布告をした。


「ふん。あんな幽霊女なんかと組んで、ウケるとでも思ってるのか」

「リバーの言う通りさ。せいぜい、出オチにならないよう気を付けるんだな」


「あなたたち、余裕ぶっていられるのも、今のうちだけですよ。漫才が始まれば、二人とも青ざめることになるんですから」


「お前、やけに自信を持ってるようだが、一体どんな漫才を披露するつもりだ?」


「そんなの、今言うわけないでしょ」


「俺たちのことをネタにしたものなんか、ウケるわけないだろ」


「ウケるかどうかは、実際に漫才を披露すればわかることです。二人とも、しっかりと、その目で確かめてください」


 そう言うと、レオはさっさと自分の持ち場へ歩いて行った。


「なあ、ブック。レオのやつ、あんなこと言ってるけど、実際はどうなんだろうな」


「あんなのは、ただのハッタリに決まってる。俺たちが心配することなんて、何もないさ」


「そうだよな。あいつらの作ったネタが、面白いわけないもんな」


「ああ」


 坂坂コンビは、二人のネタがつまらないと高を括り、余裕の表情を見せていた。






 やがて昼休みになると、坂坂コンビの二人は、昼食をとった後すぐに休憩室へ向かった。

 すると、休憩室は既に満杯状態で、後ろの方にわずかに席が残っているだけだった。


「なんか、俺たちの時より、人が多くないか?」


「どうせ、レオが宣伝しまくったんだろ。まあ、気にすることはないさ」


 坂坂コンビは空いている席に座り、二人の出番を待っていると、程なくしてレオと葉子が勢いよく休憩室に入ってきた。


「どーもー、〈外人墓地〉のレオでーす」


「同じく、〈外人墓地〉の化け物でーす」


「おいおい、挨拶の段階でいきなりボケるなんて、葉子さん今日はえらく張り切ってますね」


「こんなに大勢の人に見られてるんだから、張り切るのは当然よ。それより、この外人墓地ってコンビ名は、どうやって決めたの?」


「それはただ、私たちの特徴を組み合わせただけですよ」


「特徴?」


「はい。私はブラジル人だから外人でしょ? 葉子さんは幽霊だから、墓地がお似合いじゃないですか」


「って、誰が幽霊よ! こんな可愛い顔した幽霊がいるわけないでしょ!」


「それ、自分で言ってて、恥ずかしくないですか?」


「うん、かなりね」


「どうやら、自覚を持ってるようなので安心しました。葉子さんって、見た目ほど痛い人ではなかったんですね」


「それって、見た目が、かなりひどいように聞こえるんだけど」


「バレました? 葉子さんって、見た目ほど馬鹿じゃなかったんですね」


「見た目が馬鹿って、それただの悪口じゃないの!」


「馬鹿が嫌なら、『頭弱い系』はどうですか?」


「それ、リアル感が増しただけだから!」


「ほんと顔も頭も弱くて、葉子さんは一体なにが強いんですか?」


「ハートよ! こんな底辺人間の私が、この歳まで生きてきたということが、ハートが強い何よりの証拠でしょ!」


「なるほど。オチが見事に決まったところで、次の話題に移りましょう。葉子さん、坂坂コンビって、知ってますか?」


「うん。最近よく漫才を披露してるコンビでしょ?」


「はい。あの二人、お互いのことを何て呼び合ってると思います?」


「さあ?」


「ブックとリバーです。二人とも、いい歳したおじさんなのに、寒いと思いませんか?」


「そうかな? 仲良しなのが垣間見えて、私はいいと思うけどね」


「まさかの擁護派! それ、葉子と擁護を掛けたダジャレじゃないですよね?」


「そんなの、一ミリも思ってないから!」


「それならいいです。あと、二人が漫才を始めたきっかけって、何だと思います?」


「さあ?」 


「ブックこと坂本さんが、ある女性社員を振り向かせようと思って、始めたんですよ。でも結局、その女性は他の男性社員に夢中で、まったく見向きもされないみたいなんです」


「ふーん。じゃあ、それに付き合わされた坂川さんは、ある意味被害者ね」


「まあ、坂川さんもある事情があって、目立ちたかったみたいだから、被害者ってことはないんじゃないですかね」


「ある事情って?」


「彼も坂本さん同様、狙ってる女性がいるんですけど、どうやらその人から避けられてるみたいなんです」


「なんで?」


「さあ? それにも拘わらず、未だにバスで、その人の隣の席に座ってるみたいだから、ほんと図太い神経してますよ」


「じゃあ、あの二人は女目的で、漫才をしてるの?」


「そういうことです。でも、二人とも結果が出ていないので、完全に徒労に終わってますけどね」


「動機が不純だから、とても同情する気になれないわね。ところで、私たちはなんで漫才をしてるの?」


「復讐のためです」


「復讐?」


「はい。この前、二人は私をネタにした漫才をしたんです。だから、その仕返しをしようと思って」


「そんなくだらないことに、私は付き合わされてるの?」


「まあ、簡単に言えばそういうことです」


「簡単だろうが複雑だろうが、そんなのどっちでもいいわよ! もう、あんたとはやってられないわ!」


「「どうも失礼しました~」」


 二人の漫才が終わると、休憩室は瞬く間に拍手の渦に巻き込まれた。

 その中で坂坂コンビの二人は、恥辱に満ちた顔で、コソコソと休憩室から出て行った。











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