第14話

ゾワゾワと泡立つ肌に気が付かないフリをして、頭部に触れる。



と、その手が頭部をすり抜けた。



佳奈の手は頭部を掴むことができず、思わず体のバランスが崩れて尻もちをついた。



「え? なに?」



なにが起こったのか理解できずキョトンとした表情で瞬きをする。



もう1度手をのばす。



しかし、やはり頭部には触れることができないのだ。



どうして!?



焦る気持ちで何度も頭部へ手をのばす。



そのどれもが無意味な行動だった。



森の木や草に触れることはできても、どうして頭部には触れられない。



佳奈は急いでスマホを取り出してグループメッセージを開いた。



その時間すらももどかしい。



《佳奈:頭を見つけた! けれど触れることができないの!》



それにいち早く反応したのは明宏だった。



《明宏:それ、どういうことだ?》



《佳奈:わからない。頭だけに振れられないの。地蔵に持っていくことはできない!》



そのメッセージを送った後すぐに既読がついたが、返事はなかった。



佳奈はどうしていいかわからず立ち尽くす。



ひとまずここにいることは知らせておいたから、みんな来てくれるはずだ。



森の入口まで移動してしばらく待っていると、3つの懐中電灯の明かりが見えた。



佳奈は「こっち!」と声を上げる。



近づいてきた光は明宏たちのものだった。



「頭に振れることができなかったんだって?」



「そうなの」



頷きつつ、明宏たち3人を頭部のあった場所まで案内する。



そこに置かれている頭部を見て春香が微かに息を飲んだ。



明宏は頭部に近づいていくと躊躇することなく手を伸ばした。



しかし、その手は佳奈と同じように頭部に触れることなくすり抜けた。



「嘘だろ」



大輔が怪訝そうな声を出して同じように確認した。



大輔の手は頭部をすり抜けて地面の土に触れていた。



「僕たちじゃダメってことだ。あの3人に運ばせよう」



明宏はそう言い、大股に歩いて森から出たのだった。


☆☆☆


最初から首を探す気になっていない人間を説得することなんてできるんだろうか。



佳奈は移動中ずっとその不安でいっぱいだったが、口に出すことはなかった。



それはきっとみんなも同じように感じていることだし、不安を煽るようなこともしたくなかった。



歩きながら時間を確認すると、あと20分で夜明けがくる。



地蔵へ行って説得して、首を持ってくる。



それだけの時間があるだろうか。



ずっと早足で歩いているせいか、不安のせいか、佳奈の背中にはジットリと汗が滲んできていた。



そしてようやく地蔵に到着したとき、3人はまだ拘束した黒い化け物へ拷問を与えていた。



最初佳奈たちが見た拷問は可愛いものだったようで、今は化け物の四肢は奪われて歩道に転がっている。



それでも化け物の急所を外して攻撃しているようで、四肢を失った状態の化け物はまだ生きていた。



「おいおい、化け物様がもう終わりかよ」



「まだ死なないでよ。つまんないじゃん」



一生と智子が笑いながら化け物の腹部を蹴りつけている。



亮一は次々と襲いかかってくる化け物たちを猟銃で仕留めていた。



「おい!!」



そんな3人へ向けて大輔が大股に近づいて行った。



手足には余計な力が入っているようできつく拳が握りしめられている。



「なんだ、またお前らか」



亮一が猟銃を下ろして近づいてくる。



大輔は3人を睨みつけた。



「いつまでこんな悪趣味な遊びしてるつもりだよ!」



大輔の怒鳴り声が夜の街にこだまする。



それは鼓膜を揺るがすほどの大声だったが、3人組はニヤついた笑みを崩さなかった。



「こいつ、なに怒ってんの?」



「さぁ?」



肩をすくめて素知らぬ顔をする3人に大輔の顔がみるみる赤くなっていく。



怒りが沸点に達しそうになったとき、明宏が前に出た。



「お前らの仲間の首を見つけた」



その言葉に3人の表情が明らかに変わった。



笑みが消えて眉間にシワが寄る。



「なんだと?」



一番背の高い一生が明宏に近づき、見下ろした。



身長差がありすぎて子供と大人のように見える。



それでも明宏はひるまずに一生を睨みあげた。



「お前らが探さないから、僕たちが探したんだ。案内するから、首を持っていくんだ」



「余計なことしてんじゃねぇよ!」



明宏がすべてを言い終える前に一生が怒鳴っていた。



身を屈めて明宏に顔を近づける。



それは犬歯をむき出しにした野生の犬のようだ。



「でも、このままじゃ街が崩壊するんでしょう? どうして止めようとしないの?」



春香の言葉に一生の視線がそちらへ向いた。



「そんなの俺たちにとってこの街がどうでもいいからに決まってんだろ」



吐き捨てるようなセリフには強い怒りが込められている。



佳奈はゴクリとツバを飲み込んだ。



この3人はただ今の状況を楽しんでいるんじゃない。



なにか理由があるんだ。



「教えてやろうか。俺たちがこの街でどうやって生きてきたのか」



一生の言葉に智子と亮一も近づいてきた。



「お前らみたいにぬるま湯に使ってねぇんだよ。俺たちはな……」

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