第13話
3人組は佳奈たちが帰るまでずっと、捕まえた化け物を拷問していたのだ。
きっと今もそうやって楽しんでいるのだろう。
少し、趣味が悪すぎる。
「あいつらはイケニエについても知っていた。知識はあると思う」
「そうかもしれないけど……」
それでもまだ佳奈は納得できなかった。
彼らがなにを考えているのかわからないけれど、信用できる人間じゃないことだけは確実だ。
そんな彼らの言葉に踊らされるなんてまっぴらだった。
このまま話しを続けていけばきっとお互いにヒートアップしてしまう。
そう考えた佳奈は一度落ち着くためにリビングを出た。
そのまま眠ってしまっても良かったのだけれど、とても落ち着いて眠れそうにない。
体は疲れていても脳は完全に起きてしまっていた。
仕方なく慎也の部屋に向かった。
宝箱を開けるときみたいにそっとクローゼトを開く。
「慎也。私達これからどうしたらいい?」
話しかけても返事はない。
わかっていたことだけれどそれが無性に悲しくてまた涙が出てきてしまった。
慎也の体にすがりついてそのぬくもりと心音をしっかりと確認する。
「慎也は生きてるんだもんね。美樹も。だからここで諦めちゃダメなんだよね」
話しかけているようで、自分自身へ向けて言葉だった。
慎也を助けるため。
そのためならなんだってできる気がする。
たとえ今のイケニエが信用できない彼らだとしても、出会うことができたのだ。
それは新たな発見への鍵になるはずだった。
目を閉じてしばらく慎也の心音を聞いていると、徐々に気持ちが落ち着いてきた。
「ありがとう慎也。必ず助けるからね」
慎也の体へ声をかけて、佳奈は部屋を出たのだった。
☆☆☆
その後美樹の体も確認して心音を聞いた佳奈は、ようやくリビングへ戻ってきていた。
その時にはすでに大輔がスコップを片手に仁王立ちをしていて、佳奈は瞬きを繰り返した。
「これから俺たちがあいつらの仲間の首を探しに行こうと思う」
大輔からそう説明されたときには心臓がドクンッと早鐘を打った。
「私達が探すの?」
思わず聞き返したが、大輔は真剣な表情で頷くだけだった。
今のイケニエたちに探す気がないのなら、自分たちで探し出す。
そして、地蔵に頸がつくことを阻止するのだ。
「僕たちなら首を探すのは簡単なはずだ。今まで見つけた場所をまた探せばいいだ
けだから」
明宏もやる気になっているようで、その顔には笑みさえ浮かんでいる。
確かに、今まで佳奈たちは5箇所で首を発見している。
そして地蔵は5体。
首があった場所の共通点にだって気がついている。
普通に考えれば同じ場所にあると思うだろう。
けれど佳奈は首をかしげた。
「本当に今まで探してきた場所にあると思う?」
「それは行ってみればわかる話しだ」
大輔の言葉に佳奈は黙り込んでしまった。
確かにそのとおりだ。
そしてそこに首があったとすれば、万事いい方向へ進むはずだった。
「わかった。それなら行く」
佳奈はそう言い、頷いて見せたのだった。
☆☆☆
まさかまた自分たちが首探しをすることになるとは夢にも思っていなかった。
誰もいない夜の街を1人で歩きながら佳奈は自分の体を抱きしめた。
黒い化け物は自分たちには襲ってこない。
そうわかっていてもやはり怖いものは怖かった。
どこからかあの黒い化け物が現れて、一瞬にして距離を詰められてしまうのではないかと、頭の中で悪い想像ばかりが広がっていく。
聞こえてくるのは自分の足音と息遣いだけで、今日は春香たちもそばにはいない。
これだけ完全に孤立していることは初めての経験だった。
春香たち3人もそれぞれ1人、懐中電灯とスコップを片手に首を探しているはずだ。
4人固まって探すよりもそっちのほうが遥かに効率的だからだ。
蒸し暑い夜に寒気を感じながら森の入口へと足をすすめる。
懐中電灯で足元を照らしてゆっくりと森の中を進んでいく。
最近雨が振っていないせいか腐葉土はカラカラに乾燥して、歩くとパリパリと音を立てた。
その音にさえ気を使ってゆっくりと足を進めていく。
それほど大きな森ではないし、今日の満月は森の中まで照らし出してくれている。
それがなければもっと物々しい雰囲気が漂っていて、佳奈1人ではとても森の中に入っていくことはできなかっただろう。
満月に感謝して、丁寧に地面を探していく。
腐葉土が少し盛り上がっているような箇所があれば立ち止まり、そこをスコップで
掘り返して確認した。
しかし、どれだけ探してみても首は見つからない。
スマホを取り出して時間を確認してみると、日の出まであと1時間を切っている。
地蔵に行って家に戻って、また出てきたりしていたからすっかり時間が経過しているのだ。
焦る気持ちから自然と早足になってしまう。
他の仲間からの連絡はまだ来ていないから、みんなも見つけられていないに違いない。
特に探す場所が広いと、手間取っている可能性もある。
「ここにはないのかな……」
更に30分ほど辛抱強く森の中を探し回り、諦めて足を止めた。
別の場所へ行って探すのを手伝ったほうがいいんだろうか。
そう思って懐中電灯を持つ手で額に滲んだ汗を拭った。
その時だった。
不規則に動いた懐中電灯の明かりの中に、大きくて丸い岩が浮かび上がったのだ。
それを見た瞬間佳奈はハッと息を飲んだ。
その岩には顔がついており、こちらを向いて固く目を閉じているのだ。
あった!!
驚いた次の瞬間には駆け出していた。
草木に足をとられそうになりながらも必死に走る。
首の前にヒザをついて確認してみると、それは女性の顔であることがわかった。
長いまつげに彫りの深い顔をしている美人だ。
これを持って地蔵へ行けば智子たちだって動かずにはいられないはずだ。
佳奈はふぅっと息を吸い込んで両手を伸ばす。
赤の他人の頭を持ち運ぶなんてと、体が拒絶しているのがわかる。
それでもやらないといけないことだった。
自分の両手が頭部に近づくにつれて全身に鳥肌が立った。
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