第12話

☆☆☆


彼らは次々と襲ってくる化け物たちを難なく退治していく。



それなのに首を探す気はさらさらなさそうだった。



「そんなに強い武器を持っているのに、どうして首を探さねぇんだ!」



大輔が怒りで顔を真赤にして怒鳴り散らす。



この3人なら首を探し出すことだってきっと容易いはずだ。



黒い化け物がどれだけ多くなってきても、銃を持っているのだから桁違いの強さで間違いない。



「言ったでしょ。この街を壊滅させるところが見たいの」



智子がつまみを口に放り込みながら答えた。



「そのためにはまだ2つ首をつけなきゃなんねぇんだぞ!?」



今日のイケニエの分と、もう1人だ。



それはこの3人の中の誰かが犠牲になることを指している。



「しつけぇなぁお前ら。別にいいんだよそんなこと」



亮一が面倒くさそうに答えながら襲ってくる黒い化け物へ銃口を向けた。



「ちょっと待て、足にしろよ」



横から一生が口出しし、亮一が含み笑いを浮かべると銃口の先を少しだけずらした。



そして爆音が轟く。



佳奈と春香は両耳を塞いでその場にうずくまった。



衝撃が地響きとなって自分の体を震わせる。



亮一は猟銃を使い慣れているようで今回も黒い化け物に見事命中していた。



ただし……足にだ。



黒い化け物はその場に倒れ込んでジタバタをもがいている。



「ははっ! 最高じゃん!」



一生が黒い化け物に近づいていき、見下ろした。



「なにしてるの、早く止めを刺さないと!」



化け物の怖さを知っている佳奈が叫ぶ。



しかし一生はチラリと佳奈の方へ視線を向けただけで、化け物に止めをさそうとはしなかった。



その間に智子がロープを持って化け物と一生に近づいていく。



一体なにをしようとしているのか見ていると、3人はまだ息のある化け物の体をロープで拘束し始めたのだ。



手足をしっかりと結んで固定した上でズルズルと引きずるようにしてビニールシートの前まで移動してきた。



「それ、どうするつもり?」



佳奈の声が震えた。



黒い化け物を拘束してしまうなんて、自分たちでは考えられないことだったからだ。



化け物をさっさと退治して首を探す。



それしか考えてこなかった。



だけどこの3人組にはそれが通用しないらしい。



「合法的に生き物を拷問できるなんて最高でしょう?」



智子がうっとりした声色でそう言い、地蔵の裏側から大きな旅行かばんを取り出した。



中を開けるとロープやガムテープ、工具に使い方のわからない道具が次々出てくる。



「これ、見たことある?」



智子が四角くて黒い箱を取り出して佳奈たちに見せてきた。



佳奈は質問されたでの反射的に左右に首を振って「わからない」と、答えた。



「これはスタンガンだよ」



智子は説明すると同時に化け物の体にそれを押し当てていた。



バチバチバチッ! と想像以上に大きな音が響いて、拘束された化け物がのたうち回る。



「これはこうして使う」



亮一がプラスドライバーを取り出したかと思うと、化け物の顔めがけて突き刺した。



「ギャッ!」



短い悲鳴が聞こえて、すぐに止まる。



ドライバーを一気に引き抜くとドロリとした液体が流れ出した。



「こいつ、目も口も鼻もないからいくらでも刺せるんだ」



亮一はそう言うと何度も化け物の顔面にドライバーを突き立てた。



その度に化け物の体は細かく震える。



見ているだけで気分が悪くなってきて、佳奈は視線をそらした。



いくら化け物相手だからってヒドイ!



そう喉元まで出かかる。



拷問される化け物を見て智子は大声を上げて笑っていた。



さも楽しそうに、狂ったように。



「穴だらけじゃん!」



次々と穴が開けられる化け物の顔。



それを見ていた一生が袋の中から糸と針を取り出した。



それは通常のものよりも大きくてミシンにつけて使うものらしかった。



糸を針に通した一生は化け物に近づき、穴の空いた箇所を縫い合わせ始めた。



化け物は無様にのたうち回る。



「じっとしてろよ。今縫合中なんだからよ」



一生は真剣な表情で縫い針を動かしていく。



その手の動きは思っていたよりも繊細で、そのギャップに佳奈は頭の中が混乱しはじめていた。



「一生の手付きはすごいでしょう? 将来、医者になるんだよ」



智子がまるで自分のことのように誇らしげに言う。



「本当なら手術で使う針と糸も扱えるんだ。けどこの化け物は皮膚が分厚い。だからデカイ針と糸を使ってるんだ」



亮一が補足するように説明した。



本当のことなんだろうか?



いや、今はそんなことはどうでもいい。



あっという間に継ぎ接ぎだらけにされた化け物に佳奈は吐き気を覚えた。



「この化け物の体の中には臓器らしい臓器がないんだ。あってもそれは見かけだけで、機能していなかった」



縫合しながら一生が言う。



そんなことを説明できるということは、昨晩も同じようにして過ごしていたのだろう。



「こいつら狂ってる」



大輔は吐き捨てるようにそう言い、大股でその場を後にしたのだった。



帰宅してきた佳奈たちはみんな無言でうつむいていた。



今見てきた光景は未だに信じられず、あの3人の奇行を思い出す度に重たいため息が出た。



「今日もきっと新しい首がつくよ」



呟くように言ったのは春香だった。



その声には怒気が含まれている。



彼らの行為を見て完全に怒ってしまったようだ。



自分たちのときは死にものぐるいで首を探したのに、彼らは酒盛りをして楽しんでいたのだ。



思い出すだけで佳奈も腸が煮えくり返ってくるようだ。



「奴らの言葉が本当だったとしたら、5体分の首がついたときこの街は壊滅する」



明宏が真剣な表情で言った。



「奴らの言葉を信じるの?」



佳奈は驚いて聞き返した。



とても信用できる相手だとは思えなかった。

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