第7話
「よし、これで5つ目だな」
大輔が威勢よく言ってガイコツの周辺を掘り始めた。
力のある大輔が掘り進めるとそれはあっという間に全貌を現す。
長いあいだくさきに囲まれて守られてきたのだろうソレは、形を崩すこともなく人間の頭部として出現した。
ポッカリと空いている両目のあった部分が4人をジッと見つめているように見えた。
「これで5つ全部揃ったけど……」
再び地蔵へ戻ってきた4人は、5つ目のガイコツを地蔵の前に置いた
「これでなにかが変わるのか?」
大輔に質問されても誰も答えられなかった。
もしかしたら自分たちはとんでもなく無駄な時間を過ごしてしまったのかも知れないという不安も拭いきれない。
「明日の朝になれば慎也と美樹の首が戻っていると思う?」
今度は春香が言った。
でもそれにもやはり誰も答えられなかった。
なにが正しいのかなんてわからない。
ただ、ジッと待っていることができなかっただけだ。
「収穫からあった」
沈黙を破ったのは明宏だった。
「なに?」
ガイコツを発見した以外になにかあっただろうかと、佳奈が聞く。
「空き家へ行ったとき玄関に表札があるのが見えたんだ」
「そんなのあったか?」
大輔が首をかしげている。
佳奈も春香も表札の存在には気が付かなかった。
家の顔とも言える表札だけれど、すでに空き家になっていたためなかったように覚えている。
「玄関にかかっていたんじゃない。地面に落ちてたんだ」
そう言われて佳奈は頷いた。
普通表札は掛けられているものだと思いこんでいるから、地面に落ちている状態の表札を見落としてしまっていたのだ。
「名字が書かれてた」
全員の視線が明宏へ向く。
「石原という名字だった」
その言葉に佳奈の体は雷を打たれたような衝撃を受けた。
石原。
その名字には昼間に触れたばかりだ。
図書館で、雨乞いのイケニエになった人の名前一覧に確かにあった!
「雨乞いのイケニエの中には石原という名字の人がいた。あの家はイケニエになった人が生前暮らしていた家で、空き地にも同年にイケニエになった人の家があったんだと思う」
明宏は一気に説明をして一呼吸を置いた。
「石原って人がイケニエになった年代を調べればなにかわかるかもしれないってことね」
春香が目を輝かせて言い、明宏は頷いた。
雨乞いのイケニエは何年も続いていた。
その中である年のイケニエだけが、今回の悪夢を引き起こしていることがわかったのだ。
「なんかよくわからねぇけど、雨乞いのイケニエを調べるってことはまた図書館に行くのか?」
大輔の言葉に明宏は首を振った。
そして自分のスマホを取り出してみせた。
「あの資料は貸出禁止だった。だからこれに保存してきたんだ」
明宏のスマホの中にはあのファイルの全文が写真として収められていたのだった。
慎也の家に戻って明宏のスマホの写真を印刷することになった。
慎也の両親がプリンターを使う人で本当によかった。
膨大な写真の中からイケニエの名前が書かれているものだけ抜粋し、その中から石原という名字を探す。
幸いにもそれは1人しかおらず、見つけるのに時間もかからなかった。
「よし、この人たちの名前とその年の雨乞いについての資料を印刷すればいい」
石原健太。
松本明代。
片山浩太郎。
谷口美保。
西原明彦。
彼ら5人は明治の終わりに雨乞いのイケニエにされたらしい。
その年を持って雨乞いのイケニエ自体が廃止され、お祭りだけが長く残っていたらしい。
そのお祭りも三福寺を守る人がいなくなってからはなくなってしまったようだ。
「どうしてこの5人が最後になったの?」
佳奈の言葉に大輔が「さぁ? さすがにおかしいことに気がついたんじゃねぇの?」と、返す。
その横で明宏が印刷した資料をしっかりと読み込んでいた。
「そうじゃない。この年のイケニエは今までとは違ったみたいだ」
その年は雨乞いのイケニエが始まってからちょうど10年目だった。
長いあいだこの儀式があったことで、街は水不足に悩まされることがなくなったのだと考えられていた。
そのため、10年の節目になったこの年は、今までよりも更に豪華なイケニエを準備することに決めたのだそうだ。
「でもイケニエは占いで決めるんだよね?」
昼間見た資料の中にはそう書かれていたことを佳奈は思いだしていた。
「うん。だからそもそもの占い自体を変化させたって書いてある。今まではイケニエに選ぶ人間は30歳以上だったけれど、この年は年齢制限を撤廃したんだ」
明治時代で30代というと高齢の部類に入るかも知れない。
「この年に生まれた赤ん坊までが占いの中に入れられることになった。そして選ばれた5人は……5、6歳の子供たちばかりだった」
☆☆☆
明治45年。
それはこの街にとって特別な年だった。
『今年の雨乞いの儀式は盛大なものにしましょうよ』
街の長へそう声をかけたのは妻だった。
妻も長もこの街で生まれ、一歩も外へ出て暮らすことなくこの街に尽くしてきた。
雨が振らず困っている農民たちを助けるため、雨乞いのイケニエを考えついたのは長の父親だった。
その父親は3年前に他界し、それ以降は今の長がすべてをまとめていた。
『今年で10年目になるのか』
考え深げに呟く。
『そうですよ。きっとみんな楽しみにしています』
イケニエを捧げると恐ろしいことを企んでいるとは思えない明るい声だ。
何かを得るためにはなにかを犠牲にする。
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