第6話

疑問に首をかしげたとき、スコップの先が何かに触れてカツンッと音を立てた。



その音にハッと息を飲んで穴の中を懐中電灯で照らした。



そこに現れたのは石のようなかけらだった。



しかし、手を伸ばして引っ張り出して見るとそれが石などではないことは明白だった。



石よりも柔かくて年月がたっているのがわかった。



こびりついている土を払ってみると、それは乳白色をしていることがわかった。



今まで探し出してきたガイコツたちも、これと同じ色をしていたことを思い出す。



佳奈はすぐに穴を掘り進めた。



するとすぐ手の届く場所に大きな乳白色のかけらが埋まっていることがわかったのだ。



土の中で劣化して破損しているが、間違いなくそれは人間のガイコツだった。



佳奈は慌てて立ち上がると明宏に電話をかけた。



『佳奈、どこにいるんだよ?』



家を出てから全然戻ってこない佳奈を心配していた様子だ。



佳奈はすぐにガイコツを見つけたことを伝えた。



電話の向こうで明宏が驚いた声を上げ、すぐに行くと告げて電話は切れた。



それから3人が空き家へ到着するまでの30分間で、佳奈はすっかりガイコツを掘り出してしまっていた。



歯がかけていて見つからなかったりもしたけれど、地面に並べられたそれは間違いなく人間の頭部の形をしている。



「やっぱり、ガイコツがあったんだな」



息を切らしてやってきた明宏がつぶやく。



大輔と春香の姿もあり、佳奈はホッと胸をなでおろした。



あんな喧嘩みたいなことになってしまったから、春香は来てくれないかも知れないと懸念していたのだ。



「けれどこんなにボロボロだと運びにくいな」



大きなスコップを準備して片手に持ってきた大輔がそう言ったとき、隣で春香が袋を取り出した。



「なにかに使えるかも知れないと思って、思ってきたの」



ビニール袋の中には小さな懐中電灯や防犯ブザーなどが入っていて、春香が様々な自体を想定して準備してくれたのだということがわかった。



それを見て佳奈は少しだけ嬉しい気持ちになった。



春香は誰よりも自分たちのことを考えてくれているんだ。



春香が差し出してくれたビニール袋に骨を入れて、4人は地蔵へと向かった。



周囲に民家もあって比較的明るい場所なのに、地蔵の周辺にだけは街灯もなく寂しい雰囲気が漂っていた。



もしも自分がこんなところで眠っていたとしたらどうだろう?



そう考えて佳奈の胸は締め付けられた。



街のためにイケニエになったのに、こんな扱いを受けたらきっと成仏なんてできないだろう。



「これで4つ目が見つかったんだな」



大輔がボロボロの骨を地蔵の前に置く。



残り1つの在り処だってもうわかっている。



ただ、佳奈1人では探せなかったのだ。



佳奈は3人へ向き直り、ひとりひとりを見つめた。



「みんなお願い。私と一緒にガイコツを探してほしいの!」



頭を下げてそう言う佳奈に面々は顔を見合わせた。



そして春香が一歩前に踏み出した。



「顔を上げてよ佳奈」



優しい声で言われて、佳奈はゆっくりと顔を上げる。



春香は声と同じ優しい笑みを浮かべていた。



「そんなの、お願いすることじゃないよ。私達、佳奈の味方なんだから」



「春香……」



自分は春香の手を振り払ってしまったのにと、また胸に苦い気持ちが湧き上がってくる。



春香はそんなこともお見通しだという様子で佳奈の手を握りしめた。



「確かに私と大輔は無事だったけど、だからって慎也や美樹がこのままでいいとは思ってない。いいわけがないよね?」



「うん……」



2人は地蔵の首についてしまった慎也と美樹に視線を向けた。



そこには大切な人たちの首がある。



それは春香にとっても同じことだった。



「だから、ガイコツを探し出すことだって当然のことなんだよ」



「……ありがとう春香」



春香と気まずくなり、1人で頑張らないといけないと思っていた。



でも違ったんだ。



これから先も同じように気まずくなることがあるだろう。



けれど、それでも一緒にいるのが自分たち6人なんだと再確認させられた。



「じゃあ行こう。早くしないと真夜中になる」



明宏に急かされて、2人は我に返った。



次は空き地を探す番だ。



人数も道具もあるけれどそう簡単には見つからないだろう。



「わかった、行こう」



佳奈はそう言い、あるき出したのだった。



石碑のあった空き地へ戻ってくると、それぞれが懐中電灯を片手に土を掘り始めた。



4人の高校生が無言で空き地の土を掘り返す姿は他の人には見せられないものだった。



見つかればきっと警察に通報されてしまう。



そうならないためにも誰かの足音がきこえてくるたびに4人は地面に突っ伏すようにして草木に身を隠した。



ザッザッと靴の底をこすって歩いていく足音を聞きながら、佳奈は草の匂いに顔をしかめた。



土と草のむせるような匂いはどうしても慣れることができない。



足音が徐々に遠くなってやがて聞こえなくなってから、佳奈はようやく身を起こした。



念の為に明かりも消していたので辺りは真っ暗だ。



そのままあるき出そうとしたとき、なにかがつま先にあたって躓いた。



危うくコケてしまう寸前で体勢を立て直す。



一体なにに躓いたんだろう?



明かりをつけて地面を照らしたとき、半円形のものが土から突き出しているのが見えた。



石にしては大きく、岩と言ってもいいくらいの大きさがある。



しかし岩にしてはツルリと丸くて、まるで川の流れて削られた小石を彷彿とさせる形状をしていた。



けれどこの周辺に川はない。



ハッと息を飲んで佳奈はその場に這いつくばった。



懐中電灯を横に置いて岩を照らし出す。



素手で岩の表面を擦ってみると余計な汚れがおちて乳白色のソレが姿を現したのだ。



「あった!!」



思わず周囲に響くほどの大きな声を出してしまった。



他の3人が急いで駆けつけてくる。

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