第4話

「一旦慎也の家に戻ろう。それからしっかり眠るんだ」



「でも……」



佳奈もゆっくり休んだ方が良いとは思っていた。



けれどここまでわかってきたので気持ちが先に急ぎ始めていた。



「大丈夫。夜中の1時なったら起きるんだから」



明宏はそう言って決意した表情を浮かべたのだった。



慎也の家に戻ってきた4人はそれぞれリビングでくつろいでいた。



「今のイケニエに会って話をきくことができればいいけどな」



明宏がお菓子をつまみながら言う。



テーブルの上にはコンビニで買ってきたお菓子やジュースが並べられていた。



「でも、誰がイケニエになってるかわからないよね」



佳奈がつぶやく。



自分たちが首を探しているときのことを思い出すと、余計な人物や生き物に会うことはできなかった。



建物だって、入れる場所と入れない場所があったくらいだ。



関係のない人間は存在しなくなる。



首探しは別の世界線で行われているとしか思えなかった。



「だけど、地蔵を見ることはまだできた」



明宏が反論した。



佳奈は思わずポケットに入れてある自分のサイフに触れて確かめていた。



サイフの中にはあのお守りが入っている。



「完全に無関係になったのなら、地蔵が見えなくなっていてもいいと思う」



「そうなのかな……」



春香は怪訝そうな表情を浮かべた。



「イケニエが変わったにしては、美樹や慎也の首は戻ってこないし、地蔵も見えているままだ。中途半端すぎる」



そう言われればそうかもしれない。



自分たちはまだ完全に無関係になったというわけではないのかも。



かといって何ができるのかと言えば口ごもってしまう。



せいぜい今日のようにイケニエについて調べて、首があった場所に行ってもう1度調べ直すくらいなものだろう。



その情報を今のイケニエたちに託すことができればなにかが変わるかも知れないけれど、そもそも今のイケニエが誰なのかもわからないのだ。


☆☆☆


それから佳奈は1人で慎也の部屋へ向かい、クローゼットを開けた。



ここを開ける瞬間はいつも緊張する。



もし慎也の体になにかよくない変化があったら?



もし、慎也の首が元に戻っていたら?



様々な不安と期待を胸に開けるのだけれど、そこに横たわっている体にはなんの変化も見られなかった。



相変わらず首はなく、それなのに腹部はしっかりと上下して呼吸を繰り返している。



タオルケットで隠されている体に触れると人間らしいぬくもりを感じた。



そのまま慎也の体に抱きつくようにして心音を確認する。



もう何度こうして慎也が生きていることを確認してきただろうか。



そうしていると今回もジワリと涙が滲んできてしまった。



止めようとしても止められず、次から次ヘと涙が溢れ出してくる。



本当に慎也と美樹を助けることができるんだろうか。



こんなところでボンヤリシている暇なんて、本当にあるんだろうか。



気持ちばかりが焦ってなにもできない自分がもどかしい。



しばらくそのままの状態で動けずにいると、部屋にノック音が聞こえた。



とっさに慎也から離れてクローゼットを閉める。



手の甲で涙をぬぐって「誰?」と、訪ねた。



おずおずと部屋に入ってきたのは春香だった。



「佳奈、大丈夫?」



佳奈がいなくなったことを心配してきてくれたようだ。



佳奈は微笑んで頷く。



「泣いていたってどうしようもないのにね。どうしても涙が出るの」



「そうだよね……」



春香と佳奈は慎也のベッドに寄り添うようにして座った。



「明日には4つ目の首がついているかもしれないんだもんね」



佳奈はヒザの上でギュッと拳を握りしめる。



このまま地蔵に首が付き続けたらどうなるのか。



ただ首がほしいだけで終わるのか、検討もつかない。



「わからない。もしかしたら今夜は首を見つけることができるかもしれないじゃん」



春香はできるだけ明るい口調で言った。



ここで自分まで暗くなってしまうと、前へ進むことができなくなってしまいそうで怖かった。



「さっきね、明宏も美樹の体を確認してたよ」



佳奈は客間の押入れに入れている美樹の体を思い出した。



美樹の体はあれ以来確認していなかったが、彼氏である明宏がしっかり者だからきっと大丈夫だと思っていた。



「美樹の体も生きているんでしょう?」



「うん」



春香は頷き、佳奈はホッとため息を吐き出した。



どちらか一方の体が死んでしまったりしたら、きっと自分たちはもう一緒にはいられない。



同じように調べ物をして、動くことなんてできない。



それは目に見えている事実だった。

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