第3話
一文字一文字読んているのではなく、大きな見出しだけ確認して行っているようだ。
その様子を横から見ていた佳奈は思わず「あっ」と声を上げていた。
同じタイミングで明宏が資料をめくる手を止める。
そこには大きな文字で『イケニエの儀式について』と、題が書かれているのだ。
「まじかよ。そんな堂々と書いてるなんて信じられねぇな」
大輔が呆れた声を上げる。
確かに、イケニエのような街にとって隠したいであろう過去がここまで堂々と記載されているとは思っていなかった。
「この資料は貸し出し禁止のものなんだ。それに誰も手にとってないみたいでホコリがかぶってた。きっと図書館の人たちも忘れてたんだろうな」
明宏は説明しながらファイルに目を走らせた。
それはこの街の明治頃までイケニエの制度があったことの記述で間違いがなかった。
この街が長年水不足で悩んでいて、それをきっかけに雨乞いの儀式ができたこと。
雨乞いの儀式を行うときには街の中から5人のイケニエが選ばれていたこと。
「5人って、あの地蔵の数と同じだ!」
春香の声が思わず大きくなる。
「あぁ。それに、空き家で見つけた写真に写っていたのも、5人の男たちだったな」
明宏は答える。
イケニエとして選ばれる者は長の占いによって決められる。
更に、イケニエに選ばれても儀式当日までは本人には内緒にされた。
当日に逃げられないようにするためだ。
時には儀式の重要人物として手伝いをさせて、イケニエは自分ではないのだと思い込ませたりもしていたようだ。
「自分が死ぬ瞬間まで騙されるなんて……」
佳奈は思わず苦しげな声でうめいた。
もしも自分がそんなことをされたとしたら、長のことを恨み続けるだろう。
イケニエとして選ばれた人間はなにも知らないまま儀式会場まで連れてこられ、街の人たちが見ている前で首を切られたそうだ。
「あの地蔵にも首がなかったな」
大輔が言う。
明宏は真剣な表情で頷いた。
「あの地蔵はイケニエになった人たちのために作られたと思っていいだろうね。ここに三福寺の名前も出ているし」
明宏が指差した箇所を読んでみると、三福寺が儀式に協力していたことが記載されている。
佳奈は祖母から貰ったお守りのことを思い出してキュッと胸が痛くなった。
「でも、イケニエになった人たちって5人だけってわけじゃないよね?」
春香が首をかしげて聞いていた。
お祭りは数年に1度の単位で行われていたようで、その度に5人のイケニエが差し出されている。
「地蔵の数が少な過ぎない?」
春香の疑問はもっともだった。
イケニエになった人たちのために地蔵を作るのではあれば、全員分の地蔵が立てられていたもおかしくはない。
しかしこの街で首無し地蔵はあの5体しか見たことがなかった。
「他の人たちは別の方法で祀られているんじゃないかな? 当時は三福寺があって、墓地だてちゃんとあっただろうし」
明宏が答える。
しかしそれが正しければまた疑問が浮かんでくるのだ。
それならどうして、あの5体だけあの場所に地蔵が立てられたのか?
なにか特別な理由があるとしか思えなかった。
「ここにイケニエにされた人達の名前が記載されてるな」
ファイルをめくると、イケニエがあった年度とイケニエになった人達の名前がズラズラと書かれていた。
横から見ていた佳奈には石原という名字だけ見えたが、すぐに視線をそらしてしまった。
イケニエになった人たちの数が多くて気分が暗くなってしまう。
「首を切った人達の名前もある」
「そんなの載せてどうするんだろうね」
気分が悪くなって春香は吐き捨てるように言った。
このファイルには被害者と加害者の名前が容赦なく記載されている。
それを見た人たちが何を感じて、どう考えるのかとても良い結果になるとは思えなかった。
「これだけのイケニエの怨念があるとしたら、ガイコツを探すだけで解消するわけねぇよなぁ」
大輔がため息交じりに言った。
「そうだ。あのガイコツは結局誰ものなんだろうな?」
明宏が時計を確認し、7時が過ぎてしまっているのを見てファイルを閉じた。
「え?」
佳奈は聞き返す。
「イケニエは何十人、もしかしたら何百人といる。それなのにガイコツはひとつずつしか見つかってない」
それもそうだった。
5人分の地蔵に、1つずつしか見つからないガイコツ。
そこになにかヒントが隠されている気がするけれど、あえなく閉館時間となってしまった。
「これからどうするの?」
図書館から出て佳奈は明宏に訪ねた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます