第22話 悪しき縁談と良き縁談
「それでのう、わたし、わしが悪いんだけれどのう、トキ。世の中にはクロキのように愛されぬ子供がまだ若干名、いやたくさんいるのじゃ、かわいそうであろう?」
「はい、エルフ様」
「うん。トキならわかってくれる。これから良縁によって選ばれた、幸せな夫婦がばくたんしていくのじゃ」
「バクタン?」
「爆発的に誕生じゃ。許せ、いろんな世界を見ておるからの。それでのう、格差が生じるのじゃ。幸せそうな親と、喧嘩も飽きた無口な家の子。……本来ならわしが助けてやりたいが信じる乙女の力とか、そういうのがないとわしには?我には辛い」
「……わたくしはもう、乙女では」
頬を赤くしてクロキを思う。
「おとめちっくだのう、大丈夫、心は乙女じゃ。といいたいところじゃが、ああ、なんだか、口調が安定せん。これまで若いおなごと喋ることなどなかったからのう」
「そうなのですか?エルフさまの外見ならきっとみんなに好かれたでしょう、失礼だったらすみません。でも愛らしい、その、お子さんで」
「時の魔法の副作用もあってな、使うと年を取ったり取らなかったり、あんなに心が枯れ果てるまで、全てをローブに隠しておった」
悲しいことも悲しいと感じないほどに。
「エルフ様……」
「どうだ、悩んでいる子供を救う旅に出てくれるか?」
「一人ではこわいです……」
「トキよ、そのアンクレット。それは命を助けられた皇帝から贈り物のひとつだ。多分元はブレスレットだと思うのだが、はっきりしない。それをわたしに渡して見せよ」
トキは警戒する。
「どうした、変身したからといっていきなり初夜のクロキのようにいじめたりせん。まあ、トキがその時のわたしを欲しければ、いや、やはり人妻に手は出せん。時を戻さぬか、トキよ」
「……」
「おお!考えてくれるだけでも良いぞ。そうだ、夢見の術を使ってやろう」
「もう術やしきたりはこりごりです」
「それでも、わたしには見えるぞ。時と千里眼の組み合わせで。そなたらは、大いなる選択のため、もう一度、あの時へもどる。あの蜜月もないことになる。それでも、望めば、ふたりは必ず結ばれる。本来はこちらのるーとだったのに、クロキが初夜にかこつけてトキに墜落したのが悪い」
「墜落……」
「まだ堕落というほど失墜しても、いや、なんか似たような表現じゃな。要するに溺愛か」
ところで、
「入れないだろう!ローゼンの坊よ!」
トキの部屋の扉の向こうから殺気が感じられる。
「結界を解け、魔物め」
「ざんねん、神獣じゃ!」
「なあトキ、おぬしとクロキの子供がどんなか知りたくないか?」
「え?!」
「!!!!!」
締め出された扉の向こうから一番大きな衝撃の受ける人間の硬直を感じて、急に柔らかなものへと変わる。
「たいみんぐかの、ああ、身体的問題はないから安心せい。ただ、よくもまあ、毎晩トキが受け止めるのを見て。そろそろかのー……と。これは医者ではないがわたしの時の魔術師としての感覚のようなものでなあ」
「トキに会わせろ」
クロキが凄む。
「なんだ?」神獣が青い炎を上げながら臨戦体勢に入る。
クロキは左手を扉の真ん中へ集中させ、生命力を集める形で光の玉を作り、回転するその光球でトキの部屋の鍵を破壊する!両扉がゆっくりと部屋の内側に倒れ込んでくる。
「ふん!器用なやつめ!しかし、わたしは結界を張ったのだ、扉を壊そうが中には入れぬ!」
「トキ、どうなのだ、からだの不調はあるか」
「え、えっ、いまのところ、変わりありません」
恥ずかしい、が壊された扉も気になる。
「そうか、その。何かあれば知らせろ」
あっさり帰って行った。
「扉はどうするんじょろうなあ?トキ」
音を聞いて駆けつけたシノブさんが呆気に取られながら、明日鍵屋の手配をしてくれるらしい。
「トキ。夢見の術、やはり試してみろ。本来なら未来を夢で体の負担なく知るものだが。過去を遡ることもできる。クロキにも見せよう」
「はい」
はい……?成り行きで結局のってしまっている。
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