第16話 想いを伝えられない
不思議と眠りの国では、トキが嫁入りしてから雨が減った。人々は新しい奥様が晴れを率いてくださった!とちょっとしたお祝いになった。
辺境にある王城まで、贈り物を届けてくれる者さえいた。子供達は地元の歌を歌い「おしあわせにねー!」と去っていく。
一方で。一度繋がってから、トキはクロキに対してよそよそしくなってしまった。感覚が独特すぎて、恥ずかしかったのだ。好きな人と自分とが一体になる。初めては嬉しかったと言うより「なんだかわからなかった」という感想だ。
それよりも、どうすれば水の国の人と交流が持てるんだろう。意地悪で悪趣味な老人達を改心、させることはできないかもだけれど解散させることはできないか。更にはクロキの両親の不審死まで怪しいものだという知らせが使用人達から伝えられて。
現在、出来ることと言ったら、水の国の占術の通りに結婚した後思い切り幸せになり、優秀な人材を育て、いつか老人達に挑むしかない。しかしその老人達と言うのが水の国と同じで数少ない魔術を使う者であり、常人の数倍の価値があると言われている。災害でも戦でも家庭魔法でもなんでもこなしてみせる超人達なのだ。
そいつらを蹴散らしてやりたいのが俺の夢だ。
クロキはハーブ園のハーブを摘みながら言う。
毒が嫌い、と言っていたから解毒剤のようなつもりでハーブを育てているらしいが、育てるのが難しい上に、実はバジルしか葉の区別がつかないので人任せらしい。
ハーブ園の屋根の下、とつぜん、クロキにキスをされる。
「!」
「俺のことを避けているだろう?……昨日はいやだったか?」
「あ、」
思い出して、情事については毎回頭が真っ白になる。
おもえば、自分たちはまだ、本当に些細なことだけれど。
お互いに好きだと伝えていない。そもそも相手は自分の事を好きなのか。
一ヶ月も過ぎて考えたが、もともとは老人達と水の国の仕組んだ結婚だ。
「あの、クロキ様」
「なんだ」
「仲の良くない者同士が、上の命令や占いで結婚させられるなら、私達も相性が悪いのでしょうか?」
クロキは動揺した。
正直結婚が決まった時は、何が何でも良い方向に向かわせて子を成すまでいくこと。いかにして「上」に近づくか、を考えていて、相手との相性など考えずに望んだら、本能でトキが欲しくなったのだ。これは理性が伴っていただろうか。肉欲や愛欲、男の本能に従っただけで。そんな勢いのようなもので自分はトキを抱いてしまったのか。
いや、そんなことはない、あんなにも、初夜から愛おしくて、ずっとずっと耐えてコトに及んだのだから。愛している。そのはずだ。占術なんて!
一瞬どころか、ずっと硬直し。一言も返事も返してこないで固まっているクロキに、トキは思った。
もしかして、クロキ様はわたしの体だけが目当てだったのでは。しかし、思い起こせば自分自身、会った時から、仮面を外された時から欲情し、この人とするのかもしれない、と気持ちを昂らせていた。
体目当てなのは私の方なのか。それとも、どちらも同じ目的?
それでもクロキ様に触れられるのは嬉しい。毎晩のように、今ならわかる、わたしが傷つかないように、ちょっぴりいじめながら優しく慣らしてくれたのだ。いまではもう、毎晩身体が疼いて、クロキ様がくるのを待ちきれないでいる。
私達は、愛し合っているの?
俺達は、愛し合っているのか?
もしも、この、この恋心が、
老人たちの仕組んだ新しいお遊びだとしたら?
「ああー……、破滅を見るのも疲れたなあ。
最初は頑張ってみるのだけれど、長い長い。
虹色の茶やその他の品々の効能やら効果やらがこんがらがってきた。そろそろ新しい試みをしよう」
「どうせ、お見合いみたいなものだ。今度のはどこまで続くか見てみよう。どうやら一ヶ月前後で夫婦円満のようだ」
「それ、試しに違うやつと違うやつを片方ずつ変えて、えーと、なんだっけ、頭が回らない、寝不足だ。要は二組のうち相手を交換させたやつじゃないか?身体で結ばれるとわね」
「いや、下世話と、私たちが使うのはおかしいが、どうやらじっくり心から育んだか、もしくは初めから惹かれあっていたようだよ」
「子供の前で性の話とかしないで欲しいなあ」
『お前がいちばん年上だろうエルフよ』
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