第8話 素直な娘と、謝る少年。

転移門から屋敷まで、一度は乾いた涙でも。

トキは、泣き通していた。

時折り、クロキから謝罪が入る。

「悪かった」

「はい」

「……痛かったか?」

「いいえ」

「怖かったか?」

「はい」

「俺と話したくはないか?」

「……いいえ」

「結婚は初めてか?俺は二回目だ」

「……」

カタカタと揺れながらも、主人を気遣う黒い馬二頭が、心地よい移動を提供してくれる。

「俺は、十六だが、……ここのお飾りの元王族だ。いくつだ?」

「おなじ、十六です」

「……いままで、恋人は?」

「いません。ずっと、アルテミス様を信仰して、その清らかな気持ちでいようと。いつ縁談が来るかも分からないなら、自分一人を愛そうと」

「アルテミスも悲惨だな、たしか、愛しい男を知らずに射殺してしまったのでは?」

「……」

「悪かった。信仰しているのに。悪気はないんだ」

「はい。あの、旦那様の好きなものはなんですか」

「神ならロキだ。イタズラで物事を片付けてやりたい」

「ロキでは余計に散らばるのでは」

「……ああ、そうだった。まあ、願望だ。鳥籠や枠組みを滅茶苦茶にしたいというような」

その時、トキのお腹が力ない鳩のように鳴いた。

「食事だな、我が妻よ、食べたいものがあればシェフに頼め。といっても、あらかた解雇してしまったのだが」

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