第4話 手紙の開封と陰謀
トキは黒い封筒を受け取って衝撃を受けた。
私はあんなに華々しくしてしまったのに、もしかしてもっと格式高くするべきだったのか、あるいは、これは嫌がらせの色なのでは?!
いっぽうクロキは。
愛らしい封筒に心奪われていた。これにペーパーナイフで切り込みを入れてしまってよいものか。家臣たちに相談したら早く開けて見せてほしい、といつもは陰気な顔色をした者たちが気色ばんでいる。
二人は、封筒を開けた。
わあ!
しまった!
トキの、クロキからの手紙からはなんと文字から光の粒が滲み出て空へと溶けていく。
晴天の桃の国でも外に出ても光は溢れて、室内に戻れば少しでも暗い場所で洋式ばった文字が発光し、きらきらと光を発散させる。そのくせ文面は自分は痩せていて、がーごいるがいて、毒のあるものがきらい。
どんな人だろう。
手紙だけでなにかしら知るきっかけになると思ったがますます気になってしまう。こんなに気になる心で、今度は、結婚なんだ。あれ、そういえば、どちらに住むんだろう?嫁入り?婿入り?どちらかすらトキは知らない。
まあ、薬師の家系である自分が、毒のあるものを退けてあげれば良いのだ。トリカブトとか彼岸花とか。
そしてクロキは、
「名乗るのを忘れた……」
互いに封筒が行くのが当たり前だと思い挨拶をすっ飛ばしたのだ。今頃相手は自分のことを名乗りもしない痩せた偏屈な男だと思っているだろう。
それでも桃色の封筒の和紙を撫でて感触を確かめる。見目麗しいというか。
可憐、そう。可憐な封筒だった。いつまでも手書きの花の絵を眺めたくなるような。
本当は白い封筒に金の箔の押されたいかにも祝いの封筒の方が良かったのか。
だけれど、クロキの中で色は、ずっと黒しか知らなかった。
黒い髪、黒い衣装。瞳の色は、両親から嫌われている。表情のわからない色で気色が悪いと。
なかなか便箋を開けない、と思ったが何度か和紙を撫でて意を決して開いたのだが。
桃色の縦線が便箋には引かれていて、なぜだか愛おしくなった。
「縦に読むのか……」
クロキはひっくり返したり横にしたりして珍しがった。まず一つは共感だった。
皆どう書けば良いか教えてくれない、のあたりに、クロキは生きてきて、初めて微笑ましい、という気持ちになった。そんな気がする。薬師の家系というのは身分が気になった。自分は王城に住んでいる元王族だ。いまはお飾りだが。いったい、いくつの娘だろう。そもそも、娘だろうか。二十代、三十代、と急に水の一族の占術によって決められて結婚することもあるのだから。そして、アルテミスを信仰している。結婚は嬉しく思っている。
つまり、
「手は出すなということか」
アルテミスは処女神であった気がする。一方、クロキはイタズラ好きで神々を惑わしたロキを信仰していた。ラグナロクさえ引き起こすほどの力があればと思っていた。
なぜなら、この婚姻も。
……どんな、女か。
自分は、この可憐な手紙を寄越す女性を愛するのか。
結婚するからには世継ぎを作らねば。
さもなければ世界を束ねる老人たちの思う壺なのだ。
どんな人だろう。
どんな、やつか。
トキとクロキは神話の神々のように、愛し合うことのか、それとも、この他人の占いによって決められる結婚。なにか意味があるのか。
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