第2話 浪漫

婚姻前に一通ずつ、この世界では婚約者同士が恋文を送り合うという恩情のような約束事がある。

急に結婚することになっては不憫だろう、せめて色良い返事で互いを佳く見せておくことも大事だと。


そんなことできない……


そんなこと、できない……


クロキは黒い樹木で囲われた漆黒のガーゴイルのひしめくこの王城で己の髪より昏い封筒、飾りに金の線が封筒の四隅に走っている。便箋も黒だ。

何で書くかというと、世にも珍しい妖精の翅の光る鱗粉の粉をインクと混ぜ合わせたもの。せめて浪漫のあるものに。こうすれば……


一方、仙桃、要するに中国に近い思想の国の桃色の髪の乙女、トキは桃色の和紙の封筒に絵の具で桃の花を絵を描いていた。便箋は、白だとどうしても文字が真っ直ぐ書けないので、物差しで当てがって少しずつ書き進める。ちゃんと全体を見て綺麗に書けたらこんな手間はいらないのだけどと思いながら。

そうだ!いっそ、桃色の細い線を引いて行ってそこに文字を書こう!そうすれば悩みが解決される!

いわゆる罫線というやつだ。


ふたりは初めての、そしてもしかしたら最後になるかも知れない文通の封筒と便箋の用意を終えた。

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