第29話 教会の騎士なんて処刑していいよね
―――総勢11人の竜騎士に囲まれてまさおが袋叩きにされている。
「うばっ、ぎゃふん、ぷげっ、ウヴォアー、ひでぶっ!!オギャーン!!」
声にもならない声と、打撃音、斬撃音、刺突、殴打、エトセトラエトセトラ。波間を漂う木の葉のような、犬型ロボットの集団にコクピットを集中攻撃される青いロボットのような、量産型に群がられている汎用人型決戦兵器の2番目の機体のような。
広いと言っても城の広間、まさおが逃げたところで追いかけるのは竜騎士。追いつかれて囲まれるのはごく自然な事である。
「すげぇ、あれで生きてるんだから欲神ってすげぇな」
刀を構えたクロガネがまさおがボコボコにされている光景を見ながら声を零す。そうね、あれ多分一発一発が常人なら即死する攻撃だと思う。
とはいえ思いもよらぬまさおの働きで状況は随分と好転した。
「……やってくれたな欲神」
「俺もそう思う。……とはいえいつまでまさおが持つかわからない、さっさとケッチャコ…つけさせてもらうぞ」
そう言ってから槍をクロガネが背後に庇っているミミィちゃんやリリアンにバルフェ、あとローンたちがいる方に投擲して地面に突き刺す。槍を中心にドーム状の電気が発生する……簡易的だが電気のシールドだ。現状、ちいさきいのちと折角確保した捕虜たちの安全は最優先にしなければいけないのでこれは仕方がない。
「槍を捨てるだと?――――素手で俺に勝てると思っているのなら舐めすぎだぞ英雄」
「それはどう――――かなっ!!!」
そういいながら流刑地での暇つぶしに開発した新しい魔法を発動する。身体中に雷の魔力を流し、それを放電する。バルフェとの戦いで発動していた自己バフはこれの簡易版だが、今回はしっかりととびきり全開POWERだぜ!
身体中からシュワンシュワンと雷があふれ出し、雷のオーラを纏うようになる。……そう、男の子なら誰だってあこがれる……Zな戦士“ごっこ”を再現してみた、のである。
「……なんだ、それは……魔法、なのか?」
プリンス君が得体のしれない魔法に警戒を強めているが、異世界の人間にはなじみがないからそれは当然の反応だ。
だが俺がもともといた地球ではこうやってキャラクターがオーラを纏うっていうのはごく自然でありふれた描写なんだよね。そして実際再現してみるとバフ魔法だとかよりもはるかに強力に身体能力が強化された。事実は漫画やアニメよりも奇なり、ってね。
「そんなこけおどしでっ」
プリンス君のクローが開き、光が撃ちだされたが掌で受け止めて握りつぶす。ビーム的なものにも対応できるのでこのバフが、多分一番強いと思います。ザエンドってね。
「ばかな、これは英雄の装備なんだぞ…?!その光の射撃をこうも簡単に」
児戯のように攻撃をあしらわれてプリンス君がワナワナと震えているので、精神攻撃の番外戦術もかけさせてもらっておこう。
「今の俺は穏やかな心のまま激しいやる気でお前をぶちのめそうと目覚めた、いわばスーパー地球人だ。その鎧を着ているからってお前に俺が倒せるかな?」
「スーパーチキュウジン……面妖な魔法、それがお前の切り札という訳か!!」
いや、本当の奥の手は別にあるんだけどそれはあとでぶっぱしてやるから黙っておく。
「さて、お前は速攻で片付けさせてもらう……だりゃあっ!」
まさおがボコボコにされつづけて情けない声をあげているのを聞きながら、高速で移動してプリンス君の懐に飛び込む。
「ぜあっ!!」
手刀で乗っていた竜の首を叩き落としたが、プリンスは瞬時に竜を棄てて飛び退いていたので追撃はできなかった。
「なんだその速さは……!化け物めっ」
クローを開いて光の射撃をしてくるが躱しながら接近して、鳩尾に膝をめり込ませる。水の詰まった袋を打撃したようないい音が鳴り、プリンスの身体がくの字の折れる。
「ぐ、はっ…」
「くぅ、おめぇの鎧かってぇな。オラの膝の方がイカれちまいそうだぞ……オホン」
このバフ魔法を使うとついつい訛り喋りになっちゃうんだよな、しょうがないよね男の子だもの。
「クソッ、お前たち全員でこいつを囲――――だめだ欲神に夢中で聞いていないクソォーッ!!」
ダメージでえづきながらフラフラ後ずさるプリンスが号令をかけようとして誰も話を聞いてないのでキレている。
容赦ないようで悪いがこのまま速攻で退場いただいてもらうぞ!
そうやってプリンスが体勢を崩しているうちに俺は右の腰あたりで両手を構える。右手が上、左手が下で、丁度みえないボールを包み込むようにしながら雷の魔力を充填する。
バチバチと雷をスパークさせながら球状に魔力が集まっていく、これもまた男の子なら誰だって憧れた例のアレである。こいつは撃つと体内の魔力がごっそり減るのであまり使いたくないがこの状況だと出し惜しみしていられない。
「か~み~な~り~………砲!!!」
そう言って両手を前に押し出し、集めた雷を光線状に放出する。
「んなっ?!」
雷の奔流に呑まれたままに城壁を爆砕し、吹き飛ばされて空の彼方へ飛んでいくプリンス。生死はさておき一番厄介な奴には退場いただいたぞ!!
その間もまさおは全方位フルボッコにされて情けない声をあげながらも中指を立てて竜騎士たちを煽り続けていたが、そこをクロガネが横殴りしてまさおを襲っている竜騎士を2人倒してくれていた。
だが俺の雷(かみなり)砲の轟音で流石に事態に気づいたのか、竜騎士たちがまさおをボコる手を止めてこちらを見た後戦慄していた。
「ハ?!プリンスがやられている?いつの間に?!」
お前たちが顔真っ赤にして必死にまさおをボコってる間にで~す!!しかし今の雷砲で魔力がスッカラカンになったのでここから俺は厳しい戦いを強いられることに……強いられているんだ!!!
「――――ということで助けに来ましたクロエです」
等と思っていたところで……なんかしゅるん、とクロエが広間の床から現れた。……ほわぁ?
「王都で大規模な爆発を感知したのとユーマさんにしては帰りが遅いので、大地の霊脈に分身を走らせてきました。随分お疲れの様子ですね」
マイペースに無表情、だがピースサインをしているクロエ。これには俺もびっくり、クロガネもみっくり、ついでに竜騎士たちもびっくり。
「以前はこの国にも加護を与えていましたので霊脈は把握していますからね、これぐらいは。ともあれまずは体力と魔力全回復しますね」
とことこと俺の傍に歩いてきたクロエが俺に手をかざすと王子との戦いからの連戦の疲れも失われた体力も魔力も完全に回復していく。わぁすっげぇ。
「あと先ほどお話していたように聞こえたのでもってきました、はいどうぞ」
そういって渡されたのはセドリックの首を切ろうかと言う時に出していた俺の玩具、もといチェーンソー“キックバック”だ。いたれりつくせりすぎですね!!
「お、おぉ?ありがとう……?」
キックバックを受け取りながら礼を言う。
「はい、どういたしまして。今日はディアナ様が“かれえ”を作っていらっしゃいます。あまり遅くなりないうちに帰らないといけません。それではクロガネさんも回復しますね」
「すまねぇ、助かるぜ」
事態をのみこめていないクロガネだが言われるがままに回復されている。真剣で必殺しちゃいそうなボロボロっぷりだったが今は完全にお手入れ済みのピッカピカに戻っている。
「――――インチキ効果もいい加減にしろぉぉぉぉぉ?!?!?!」
我に返った竜騎士の一人が絶叫している。だがもう遅い。
握ったマジカル☆チェーンソーもといキックバックに魔力を通せば、金切声のような音を立てて数珠つなぎの乱杭刃が回転を始める。
「先ほどその剣は魔力の消費が激しいと言っていたのでユーマさんと私の魔力をリンクしました。消費した魔力は私が大地から吸い上げて補充しますので、代わりにそれを使って倒された命は私がマナに変換して大地に還します」
――――えっ、何それ。じゃあ今このキックバック、無限弾状態……ってコト?!ワァッ……!!
ギャルンギャルンと回転する刃を振りかざし、跳躍しながら竜騎士に斬りかかる。一番手近にいた竜騎士の脳天にキックバックを振り下ろすと頭の半分ぐらいまで食い込んだ。
「ぴょぉぉぉぉぉぉぉっ?!」
奇声を発しているがそのまま股座まで振り下ろすと、見事に縦真っ二つに。そのまま跨っている竜の首をはねて次の竜騎士に斬りかかり、胴体を横一閃し両断する。背中から竜の胴体を刺し心臓を貫いて、さらに次の竜騎士へ。血と肉と臓物が飛び交うカーニバルのはじまりだ!!foo!!剣を振るうたびに騎士が死にさっきまで命だったものがあたり一面に転がっていく。ウォーウォーウォー!
「大地のマナを使ってお前たちをぶった切るとお前たちが大地のマナになるって事?永久機関が完成しちまったなァー!!」
「ヒィィィィィィィィィッ?!?!」
竜騎士たちが恐怖の悲鳴を上げ、あるものは武器を構え、あるものは逃げ出そうとする。でもそんなの関係ねぇ、あーそんなの関係ねぇ!臓物(ハラワタ)をぶちまけろっ☆しゃいしゃーいっ☆
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